東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
紫の斬撃と青白い斬撃の激突。
右腕に強い衝撃が走り、一瞬で腕全体が痺れる。
そして、呆気なく俺の手は真上へと弾かれた。
妖夢との力比べ。無論、勝てる訳が無い。
喉を真っ二つに斬ろうと迫る霊力の刃、視界の奥で獰猛に口角を吊り上げた妖夢――――
を嘲笑うかのように、紫の刃は俺の喉から飛び出た赤黒い腕によって破壊された。
『危な過ぎだよ!気を付けて!!』
「悪い、ありがと!」
脳内で陽炎が叫ぶ。
そうだ、俺の霊力は。武器は、一つじゃない。
妖夢の破壊力に勝つには。”守護”の霊力じゃ、足りない!!
奥でゆらりと体を傾ける妖夢。
西行妖と俺、そして彼女だけが居るこの空間に他の皆は干渉できない。
必死に壊そうとするも、全くと言っていいほど歯が立たないのだ。
妖夢と一緒に、西行妖の枝も力を極限まで溜め始める。
弓の弦を引き絞るかのように。
荒れ狂う妖力の波に風が吹く。俺の黒髪と妖夢の白髪が舞い踊り、そして再び両者の斬撃が放たれた。
「黒大剣[鬼丸]!!」
桜ノ蕾を鞘に納め、俺が両腕を振りつつ生成したのは漆黒の大剣。
獰猛な刃と意思を持ったそれは、妖夢の紫の斬撃を弾き飛ばす。
妖夢の眼が驚きに見開かれる。しかし彼女は、直後に楽しそうに笑みを浮かべた。
俺は、まだ気を抜かない。
・・・ここから。二刀流である妖夢の攻撃を、全力で受け止めろ。
だらんと垂れ下がった左手に握られた白楼剣が、一瞬で俺へと迫る。
認知してから、それを鬼丸で切るまでの時間。
この間に、妖夢は右手に握る楼観剣を再び構え直す。
「ぐっ・・・!」
耐えろ。耐えろ。
止むことの無い、豪雨の様な激しい斬撃の嵐に俺は必至で体験を振るう。
破壊の霊力は、攻撃力は高い物の脆い。
つまり、妖夢の一撃一撃を受け止めていれば必然的に大剣は砕け散る。
――――――――そうなったら。俺は、死ぬ。
ならばどうするか。
俺は斬撃の一瞬の間。そこで、大きく鬼丸を十字に振りぬいた。
当たりは・・・しない。
妖夢は俺が諦めたのかと思ったのか、止めとばかりに楼観剣を縦に大きく振りかぶる。
しかし。
勿論、俺は諦めた訳では無い。
「五月雨仕掛けの泡沫」
きっぱりと俺は宣言した。
襲い掛かる神速の斬撃。しかしそれは、俺の目の前で盾の様に現れた無数の黒き十字架によって、阻まれる事と成る。
霊力を伴う攻撃を、それと同じだけの霊力を消費することで分身させる技。
しかし俺の中には幻夢の霊力がある。悪夢を除けば世界最大の、絶大な霊力が。
十字架に刃を止められた妖夢に生まれる一瞬の隙。
俺はそこを見逃さず、全力で妖夢との距離を詰め始めた。
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「霊夢!魔理沙!レミリア様!」
台所に、慌てた様子で隔は駆けこんだ。
中ではレミリアがご飯をよそっており、眠そうな霊夢と元気な魔理沙が椅子に座っていた。
「どうしたのよ」
レミリアが尋ねる。
壁に手を付き、肩で呼吸をする隔。彼女は大きく息を吸い、強くレミリアに訴えた。
「・・・妖夢ちゃんが・・・!真が・・・!」
それだけで。
その一言が室内に響き終わった瞬間には、そこに隔以外誰も居なかった。
眠気が消え去った霊夢が、黒き翼に魔力を纏わせ全速力で飛ぶレミリアと並走する。
お祓い棒と陰陽玉。二つを装備した霊夢は、お札を二枚、走りつつ左手に持った。
幻想郷でも屈指の速さを誇る魔理沙が二人の少し前を行く。彼女は右手に八卦路を構え、そして叫んだ。
「マスター・・・スパアアーーーークッッ!!!」
全力の砲撃。
虹色の、凝縮された魔力が撃ちだされる。
霊夢も、左手に札にそっと口付けをし。
「力符[陰陽玉将]」
静かに宣言した。その瞬間、霊夢の纏う陰陽玉が白い霊力を暴風の様に纏い紫色の結界へと真っすぐに跳んで行く。
その二人と一拍置き、レミリアも自身の右手を強く握りしめた。
そして、魔力をそこに集中させる。
「――――紅符[スカーレットシュート]」
開かれた掌。そこに浮かぶは、全てを貫き打ち砕く深紅の魔弾。
吸血鬼の膂力を持って撃ちだされた魔弾は、宙に紅き軌道を残しながら結界を打ち砕くべく飛翔する。
幻想郷の中でもかなりの強さを誇る三人。
これらの攻撃が当たれば、いくら西行桜の、暴走妖の結界といえども打ち砕くだろう。
――――そう。当たれば。
「ロストバースト」
突然、虚空から声が聞こえた。
何も無かった場所から現れた漆黒の影。それは片翼を羽ばたかせ、マスタースパーク等を全て撃ち落とした。
「どうも。皆さん、こんにちは」
其の場に似合わぬ、優しい響き。声音。
しかしそれは、レミリア達の殺気を昂らせるには十分だった。
「神槍[スピア・ザ・グングニル]」
レミリアが瞬く間に深紅の槍を生成し、そいつへと飛びかかる。
咄嗟に補佐へと回る霊夢と魔理沙。だが、彼女等も攻撃を忘れた訳では無い。
「夢想封印」
「スターダストレヴァリエ」
虹色の弾幕。黄色の、無数の流星。
御走天久はそれを、正面から迎え撃つ。
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妖夢との距離が、零になる。
俺は楼観剣と白楼剣を持つ両手の手首を強く掴み、そして暴れる妖夢を押さえつけ、強引に二つの刀を弾き飛ばした。
カランカラン、と軽い音を立てて弾む刀。俺は妖夢の両肩を掴み、虚ろな紫紺の瞳を覗き込む。
「妖夢!大丈夫か!?」
「・・・あ・・・ああ・・・?」
呼びかけられ、妖夢はその瞳を少しだけ揺らした。
微かに、見えた希望。俺は慌てつつももう一回語り掛ける為に身を乗り出し、再び口を開く。
次の瞬間、妖夢は俺を突き飛ばした。
「・・・えっ・・・?」
気の抜けた声が口から洩れる。
横に飛ばされたまま、宙に浮かんだ状態で。
スローになった世界で、俺は――――――――
西行妖に貫かれる妖夢の姿を、ただ眺めているだけしかできなかった。