東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第五章第十一話「提案」

自分自身の呪力に。

自ら、入る。

 

「簡単な話さ。君はその中で、右腕に刻まれた呪力を『呪い』では無く『自分の力』に昇華させるんだ。・・・まあ、恐らく代わりの代償が必要となるだろう。何かをする為には、何かを失わなければならない。これは決定事項だ。その先で、君が何を代償にするかは分からない。だが、だからこそ行ってみる価値は十分にあると思う」

 

男は、所々で鋭く息継ぎをしつつ話し終える。

黒き瞳の輝きは増し、前のめりになっていた態勢を男はゆっくりと戻した。

 

「・・・まあ、それも君次第だ」

 

確かに、俺は今まで強敵との戦いの末、ボロボロになりながら強くなった。

しかし今回、何か掴めたものはあったか?

金色の焔を、今出せるか?

 

答えはどちらともNо。

 

それでも成長しなきゃ、皆を護れない。

幻夢の器としても、陽炎の器としても、俺はもっと強くならなければならない。

 

「・・・お願いします」

 

俺は男の眼を、真っすぐに見据えた。

何時の間にか太陽は雲に隠れ、外では風が騒めいている。

初夏の、少し湿気の含まれた空気が部屋を包み込む中。

 

男は俺の右腕を黙って持ち上げ、長袖の裾をめくり上げた。

 

「危なそうだったら、私は迷いなくこれを破壊する。・・・頑張れよ」

 

そして、人差し指で肌に刻まれた刻印を一回撫でる。

 

段々と朧げになっていく意識。不思議な浮遊感の様な物を感じながら、俺は目を閉じた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

深く、深く。

まるで海をどこまでも落ちて行くかの様な感覚に、真っ暗な世界。

眼を開けても何も見えないその世界には、一筋の光も無かった。

 

俺は揺蕩いながら、自分の右腕を撫でる。

消えているのか。それとも、更に今刻まれているのか。

 

熱く熱くなっていく肌に触れる度に、俺は落ちて行く。

 

(・・・何をしに来た)

 

突如、声が響いた。

その世界に、では無く。

俺自身の、その中に。

 

「話を・・・いや、交渉の方が良いか。を、しに来た」

 

言葉は紡げる。

会話は、出来る。

 

(何を?言っておくが、代償を無しに力は与えられない。俺を壊せば、お前は強くなれない。・・・弱者だって努力すりゃあ強くなれるさ。でも、それが速いとは限らない)

 

重たい、それでいてどこか俺の声の様な声音を残す声は、体にゆっくり染みこむ。

体を落ちて行くがままに任せる俺を更に突き落とすように、声は再び話し始める。

 

(お前は恵まれているんだ。なあ、記憶何かどうでも良いだろ――――――目の前の奴を護る。それで良いじゃねえか。お前の意思は、守られてるぜ?)

 

「守られてないよ」

 

自然と、言葉は口を突いて出た。

自分でも何故か分からない。でも、それは洪水の様にとどまる事を知らない。

 

「俺、今分かったんだ。何で、何で俺なんかに幻夢の霊力が使えるのかを。その真髄を、『オーバーレイ』を使えたのかを」

 

オーバーレイは、幻夢の霊力を俺の少ない霊力で薄く包み込み、借り物の霊力を自分自身の霊力に、一時的にする技。

勿論引き出せる霊力は桁違いに上がるが、バースト程長くはもたない。

 

 

 

 

「きっと、俺自身の霊力は。意思は。・・・幻夢と、一緒なんだ。全てを護る、なんだ」

 

 

 

 

ポゥ・・・

 

俺の心臓が、少しだけ光った。

それだけで世界は、明るくなる。例え一ミリの光だとしても、世界は照らされる。

 

 

(・・・なら、お前の戦う理由を代償にしろ)

 

声は、低く重く呟く。

 

(全てを護る?そんな無謀で、実現が不可能な事の為に力を貸せと?ふざけるな。それなら、お前のその意思とやらを犠牲にしろ!)

 

荒む声で、絶対的に俺が不利な交換条件を奴は出して来た。

 

意思を犠牲に。つまりそれは、俺の戦う理由が無くなると言う事。

それは、戦わなくなると言う事と同義。

 

数秒かけて、俺はその言葉を噛み砕き、理解し。

 

そして、きっぱりと答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かった。それで良い」

 

 


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