東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第五章第八話「紫紺の矢」

浅葱色の和服を纏い、肌の部分は全て包帯で巻いている目の前の人物。

そいつはゆったりと手を上げ、そして緩やかに拳を作る。

 

それと同時に、紫色の輝きがそいつの拳から放たれた。

 

俺はそれを、つい先日に見た事がある。

 

・・・そう。呪力。

 

紫の光を纏う拳の周りを無数の黒い文字が飛び交い、呪力に関しては素人である俺にもあれがとてつもない力を持っていると言う事が分かる。

 

桜ノ蕾を勢いよく引き抜き、俺は少し後ろに下がった。

しかし奴は俺に眼もくれず、そのまま一直線に暁へと拳を振るった!

 

「暁!?」

「・・・っ!」

 

地面を抉り、風を裂く。

あたかも竜巻が通ったかの様な惨状を残しつつ、拳から放たれた呪力は勢いを増していく。

 

暁が逃げようと横に駆けるも、それを追いかける呪力。紫の、球体。

 

ホーミング。

幾ら逃げようとも、逃げきれない――――――――

 

一瞬の攻防で、暁は俺と同じ結論に辿り着いたらしい。

逃げるのを止め、迫りくる災厄を前にぐっと身を沈める。

ただ静かに、逆手に持った刀をしゃがんだ自身の背中より高く掲げ。

弓を引き絞る様に、全力で溜めた力を。

 

 

目の前に迫るそれに向けて、暁は解放した!

 

 

「月光ノ夜桜」

 

 

淡々とした宣言。

しかしその声音とは裏腹に、全力で振り上げられた刀から黒き斬撃が呪力の球体を切り裂いた!!

 

 

包帯の人物が、微かに覗いている目を見開く。

そして少しの間の後。

警戒を解かない俺と暁に向けて、そいつは低い声で言った。

 

 

 

 

 

「強くなったな、暁」

「何で・・・私の名前を・・・!?」

 

 

 

男であろうそいつは、そう言った直後に左手の包帯を一気に取る。

そこには、俺の右腕と同じように、肌に直接文字が刻まれていた。

痛々しくもあるそれを男は掲げ。そして、

 

「纏・空炎」

 

呟いた瞬間、左手に刻まれた文字の一部分が紅く光り輝き、男は空の様に蒼き炎を身に纏った。

そして更に、もう一つの文字が紫に輝く。

 

すると男の体を呪力の輝きが包み込み、男はそこですっと目を細めた。

 

「さあ暁。来なさい」

「何で、その纏を使えるの!?」

 

呟くも、明らかに焦った様子で暁は叫んだ。

暁の纏とは違う。でも、同じ系統の上位互換。

 

驚愕に包まれつつも、俺は、暁の叫びを最後まで聞いていた。

 

「それは!死んだお父さんしか使えないのに!」

 

男は何も言わない。

動かない。

静かに佇み、暁を待っている。

 

「暁」

 

興奮した面持ちの暁に、俺は一言かけた。

 

「もし戦うんなら、こいつを使え」

 

そう言って、桜ノ蕾を鞘に居れ投げ渡す。

 

「もし戦わないんなら、逃げるけど」

 

茶化すように、そして緊張を解くように俺は軽く告げた。

 

手に持った桜ノ蕾をまじまじと見つめ、そして暁は一度顔を手で拭う。

 

 

「戦う、よ」

 

 

そして、彼女は男に向き直った。

 

丸腰の為、俺は更に後ろへと下がる。

 

「纏・火」

 

男が炎を纏い、暁が火を纏う。

熱風が吹き荒れ、緊張感が場を支配する中で。

 

何処かで、鳥のさえずりが聞こえた――――――――

 

 

 

刹那。

 

 

 

暁も男も、一瞬でその場から消える。

 

 

霊力で強化もしていない俺に見えるのは、時折散る火花のみ。

休む間もなく熱風は吹き荒れ、戦闘のボルテージは燐光を周囲に光らせながらドンドン上がっていく。

 

暁は、強い。

それは正面からの斬り合いでも言える。

 

相手の攻撃を全て躱し、一瞬の隙に素早く連撃を叩き込む。

そこで態勢を崩せば大技を決められ。

そこで態勢を立て直しても、もう暁は後ろに回り込んでいる。

 

神速の斬撃を放つ暁。しかしその真価は、こういった森の中でこそ発揮されるのだ。

 

元々素早い上に、妖力と纏で強化された圧倒的速さ。斬撃や体術の威力。

 

地面の他にも足場が出来た事で、暁は鋭い斬撃を相手に喰らわせながらも相手の視界に入らない。

 

縦横無尽に戦場を駆け巡り、瞬きの隙に背後へと回り込む。

 

いつもはそれで、瞬殺できるのだ。

 

しかし。

 

何時まで経っても、火花は散り終わらない。

止まる事を知らない斬撃音。吹き荒れる熱風。

 

 

 

突如、戦地の真ん中に男がふわりと舞い降りた。

格好の的。それなのにも関わらず、男は直立する。

 

罠か?

 

一瞬、その考えが頭を過るが、そんな様子は無い。

 

遥か上空から、突然暁が高速で男へと向かって落ちて来た。

 

桜ノ蕾は黒き力を纏い、必死な形相で暁は限界まで力を溜め、引き絞る。

 

超高速で迫る斬撃。

それに・・・いや、男は暁へ人差し指を向けた。

 

「・・・本当に、強くなった」

 

男は呟く。

すると男の人差し指を中心に紫紺の小さな槍が生成され、ギュイイン…と回転を始めた。

 

 

「・・・今のお前なら」

 

暁は、止まれない。

慌てて駆け出した俺の目の前。

 

 

その槍は、無慈悲に打ち出され。

 

 

 

 

 

 

暁の額を、貫いた。


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