東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
真と暁が出て行ってから直ぐ。
博麗霊夢と霧雨魔理沙は、紅魔館の紅い廊下を歩いていた。
「もう皆居るかな?」
「居ると思うわ。まあ、ある程度の戦闘力を持った人と隔だけだけどね」
「隔?」
魔理沙が何の気なしに呟き、前を向いたまま霊夢はそれに応える。
戦えない少女の名前が霊夢の口から出され、驚いた魔理沙は思わず尋ねていた。
「ええ。真曰く『1%の俺より強い』ですって」
「マジかよ・・・でもまあ、前線には出さないだろ?」
「勿論。隔は頭が良いし動けるから、優秀なサポート役に成ると思うわ」
「どんくらい頭が良いんだ?」
「10桁の暗算を一瞬で解ける程度には」
「やばいなそれ」
真顔になった魔理沙がぼそっと呟き、会話はそこで終わる。
窓の外に広がるのは曇天。
それはまるで、今の状況を表しているかのようだった。
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食堂の、大きい扉を両手で開ける。
重く蝶番が擦れる音を響かせながら、霊夢と魔理沙は皆が集まっている所へと入って行った。
魔理沙は空いている席にどかっと腰を下ろし、霊夢は皆の視線が集まる場所、上座へと歩を進める。
「皆、集まってくれてありがとうね。昨日の今日で悪いのだけれど、少し頼みたいこと・・・もとい、今から異変の解決へと取り組むわ」
異変。
幻想郷で起こる、大きな事件の総称だ。
霊夢の言葉を、続きを、皆が固唾を飲んで見守る。
糸を張り詰めたような緊張感と静けさの中、霊夢は物怖じする事無く話し始めた。
「天久。悪夢。今分かっている敵はこいつらだけ――――じゃなくてね、実は不特定多数なの」
「他に何か居るの?」
パチュリーの呟きに、霊夢は頷いた。
「これは紫が独自に調べてくれた情報。逆に言えば、紫でもこれくらいしか分からない。まず一つ、あっちにはもう一人人間が居る」
「それは強いのか?」
「ええ、強いわ。何せ、紫が退けられたくらだもの」
今度は魔理沙が霊夢に尋ねる。
迷う事無く即答した霊夢は、更に情報を告げ始める。
「白髪。茜色の眼に、黄色を主とした黒刃の刀。恐らく、雷を操る程度の能力。これくらいね。そして、もう一つの脅威が」
一度言葉を切り、神妙な面持ちで彼女は続けた。
「妖怪の、強化個体・・・『
空気が、更に重くなる。
体が固まったかのように声を出せなくなった全員。しかしその中で、たった一人だけは怯まない。
「霊夢。それについては私も知っててね。そこからは任せて貰っていいかしら?」
「ええ。宜しく、レミリア」
椅子から立ち上がり、手を上げたのはレミリアだった。
夜の帝王にふさわしい風格を漂わせ、紙も何も見ずに彼女は悠々と話し始める。
「暴走妖。今までの目撃件数は8、個体数は恐らく3。今のところだけれどね。・・・撃破例は一個のみ。やったのは、妹紅よ。―――――――良い?今からちょっと、大事な事を言うからね?」
口角を吊り上げつつ、レミリアは皆を見回した。
「無限に再生するらしいわ」
「なっ・・・ふざけんな、どうやって倒せって言うんだ!!」
たった一言。
短い声は、周囲を震撼させる。
魔理沙が激昂するも、それをレミリアは余裕の表情で受け止めた。
「落ち着きなさい。弱点は勿論あって、ここ」
言葉を切り、自身の左胸を人差し指で叩く。
「心臓を破壊すれば、再生する事無く一瞬で粉微塵になる。勿論強化個体だから、生半可な戦闘力じゃ死ぬでしょうけどね・・・。で、問題なのは暴走していると言う事」
左胸を叩いていた人差し指を顔の前に持ち上げ、一つ目の問題点を告げる。
「二つ目。相手のボスが、悪夢だと言う事。ここから推測できるのは、恐らく・・・」
皆、それに気づく。
そして、息を呑む。
「暴走妖は、自身の妖力と悪夢の霊力が暴走して強くなっているという事」
博麗悪夢の霊力を、受け止め切れるだけの器。
そこからも凄まじい妖力の存在を確認することが出来る。
元々強いものが、更に力を得た。
現実は、深く、厳しく、平等に心へと伸し掛かる。
この時点で、レミリアはまだ一つ情報を持っていた。
しかし、ここで言えばそれこそ全員の士気が上がらなくなる。
(十分強いって事を言って、締めた方が良いわね)
王の資質。
全てを見通した上で、彼女は脳内で呟いた。
(全部が全部、歴代博麗の巫女が全力で戦ってやっと封印が出来た妖怪ばかりなんて――――)
曇り空は、全く晴れない。
不気味な程に、空が、光が見えない程に。
雲は、厚く連なっていく。