東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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ラ「テストは珍しく勉強してました。はい。後今日は午後一杯部活で使えませんでしたです・・・。あ、明日は少しだけ買い物に行きます。あ待って待って帰らないでください・・・!ご迷惑をお掛けしてしまい、すみませんでした!では、どうぞ!」


第四章第二十八話「激情」

しかし。

 

天久の手が、暁の首を握りつぶす事は無かった。

 

気づけば、天久は何故か地面に這いつくばっており、暁の拘束は解けている。

 

「間に合って良かったですね・・・。危なかったです」

 

何者かが、うっすらと雲のかかった月を背に呟く。

青白い月明かりの様な霊力を漂わせ、長いサイドテールの黒髪を揺らす。

 

「大丈夫ですか?真さん」

「む、夢月・・・!」

 

暁を抱え、此方へ飛んできたのは博麗夢月だった。

俺の近くで地面に降り立ち、今度はこいしを大事そうに抱きかかえる。

 

「一応、川遊びには隔さんから誘われてはいたのですが・・・永琳さんから、やっと許可を頂いて急いできたんですよ。そしたら禍々しい霊力を感じてですね、ここに来たわけです」

 

にっこりと微笑み、彼女は言葉を続けた。

 

「私は、誰かを助けようとする真さんを、助けます。・・・暁さん、皆さんの所まで行って状況の説明をお願いします。真さん、私はこの子を急いで永遠亭まで連れて行きます。・・・後。」

 

夢月はそこまで言うと、俺に掌を向け、何かを呟く。

すると突然俺の体が青白く光り、不思議な力が沸き上がって来た。

 

「真さんに、月の加護があらんことを・・・。では、後は任せました」

 

暁に的確な指示を出し、夢月はこいしを抱えふわりと宙に浮かんだ。

そのまま青白い尾を引きつつ、彼女は空へと飛び立っていった。

それを見送り、俺は暁へと向き直る。

 

「暁、頼んだぞ」

「・・・分かった。真も、気を付けて」

 

心配そうに俺を見るも、直ぐに振り返り暁は山を下り始めた。

瞬く間に小さくなっていく暁。

それを一瞥し、俺は一度、長く長く息を吐き。

 

 

 

「行くぞ、天久」

「来いよ、真」

 

夢月の重力操作から解放され、立ち上がった天久を睨みつけた。

 

 

『真、今のあんたは1%しか使えない!逃げて逃げて、暁が皆を呼ぶまで時間を稼いで!』

 

頭の中で陽炎が叫ぶと同時に、天久は勢いよく跳躍した!

 

「滅壊ノ星撃」

「嘘、だろっ!?」

 

天久が撃ちだしたのは、霊夢が使う様な洗練された『博麗』では無く、全てを守りぬくための絶対的な力を持つ『博麗』だ。

そして同じ技でも、それは人によって形や効果を変える。

滅壊ノ星撃。霊力を拳に纏わせ、それをぶつける高威力の技。

 

 

天久の拳に、黒い霊力が纏わりつき。

それは風船の様に段々と膨らんでいき、絶大な妖力をそこに溜め始めた。

夜空を背に、天久は膨らんだ霊力を俺に向けて放出した!!

 

 

ドッガァアアアアアアアアンン!!!

 

 

まるで水風船が破裂するかのように、膨らんだ霊力は破裂し、ため込まれた霊力は無差別に全てをぶち壊す。

 

それを何とか右に大きくジャンプして避けるも、砂煙によって視界が潰されたまま。

微かな風切り音のみを頼りに、俺は指を鳴らした。

 

夢月の能力は、[月の恩恵を受けれる程度の能力]。

それは自転。それは重力。それは光を反射する性質。

 

月が持つ全ての力を夢月は自分自身に付与することが出来、今の俺にも微かにそれが可能となっている。

 

今やったのは、俺の周りの重力を2倍にすると言う事。

木々が軋み、土が窪み――――――

 

微かに大きくなった音を頼りに、俺は再び横へ飛び退った!!

 

刹那。

 

今まで俺の居た処に、黒い斬撃が振り下ろされ。

それは大きな衝撃波を放出しながら、近くに居た俺も吹き飛ばした。

 

 

圧倒的威力。

 

しかし。

それでも。

 

(天久は、戦闘が下手だ)

 

今のは、妖夢や霊夢ならば、確実に当てて来ていた。

というより、俺が能力を使う時間も与えなかっただろう。

 

今度は横薙ぎ。

俺は1%のバーストを付与した体で大きく飛び跳ね、それを回避する。

 

(単調すぎる)

 

例えば今のが、魔理沙や咲夜さんだったら。

魔理沙ならば無数の弾幕、咲夜さんならば視界を埋め尽くすほどのナイフで俺の逃げ場を無くしてから、大技を当てに来ていた。

 

予測しろ。考えろ。

 

こいつは―――――絶対に逃げきれない相手では、無い!!

 

宙に飛んだ俺は、すぐさま右の掌を上に向け、霊力を込める。

 

ボッ! と1%の霊力を使った体が耐えられる霊力の許容量を一瞬、少しだけオーバーさせることにより自分自身の霊力を暴発。

その爆発の威力で俺は体を地面に向けて吹き飛ばすと、やはり天久は俺の居た処を切り裂いた。

 

 

「ちょこまかと・・・逃げてばっかだね、真!」

「これが頭の良い戦い方だ!」

 

全てが大振り。全てが単調。

 

焦り始めた天久の攻撃を、俺は次々紙一重で避けて行く。

 

地面に斬りつけた後に発生する突風をも利用し、俺はまるで軽業師のように飛び回る。

 

『良いよ、真。その調子!』

 

陽炎が俺を応援する。

行ける。これなら、霊夢達が来るまで時間が稼げる!

 

「・・・あー、めんどくさい」

 

天久は自分の腕から生えていた棘を消し、強く強く拳を握りしめた。

 

「真からぶつかってこないから詰まんないや。どうやったら来てくれるのかな?」

「さあねえ。少なくとも真正面からぶつかって勝てないしなあ」

 

ミシッ、と。

 

天久が己の拳に力を込め過ぎたのか、骨のきしむ音が鳴り血が少し滴り落ちる。

 

「うん、おっけおっけ。大丈夫、分かってるよ、悪夢」

 

呟く天久。

何度か手を握ったり開いたりすると彼は突然、右手を空へと向けた。

 

すると小さな風切り音が鳴り、黒い霊力が渦を巻きながら天久の手中へと集まっていく。

最初はテニスボールくらいだったのが、段々と大きくなり、それはバランスボールくらいの大きさへと。

 

『・・・この山ごと、破壊するつもり?』

 

ぼそっと告げられた、最悪の可能性。

背筋を悪寒が走り抜けると同時に、天久は口角を吊り上げた。

 

 

 

「さあて、これで怒ってくれるよね!真!」

 

 

 

圧縮され、大きく膨張した黒い霊力の塊。

天久はそれを自然に、ゴミ箱にゴミを投げ入れるかの如く―――――

 

 

山の中腹へと投げつけた。

 

 

「何をしているん・・・だ・・・!?」

 

 

言って居る途中で、気づく。

 

霊力の塊が向かっているのは。

そこにある、あの暁の座っていた大きな木がある所は。

 

 

 

 

皆が、居た場所―――――

 

 

 

何も出来ず。

呆然と立ち尽くすだけの、俺の眼下で。

 

それは山の中腹へと突き刺さり、夜でも分かるほどの純黒の光を放った後に。

 

 

鼓膜が破れるぐらいの轟音と網膜が焼き潰れたと錯覚するくらいの光を放ち、炸裂した!!

 

 

 

 

 

更地になったその場所。

 

 

 

そこには、もう、何も無かった。

 

 

 

「あ・・・?」

 

理解できない。

目の前の景色が、状況が。

 

視界が、赤く染まって行く。

 

心の内を、どす黒い感情が蝕んでいく。

それは無条件に。

沸々と煮えたぎる灼熱の怒りが、俺を最初に突き動かした!!

 

「このっ・・・ゴミ野郎がアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

意識せずとも、霊力が10%まで引き出される。

走り始めた俺から、右手に纏わりついていた鎖が砕け、舞い散った。

 

何かが、そして大事な記憶が吸い取られていく感覚。

 

例え、何を失おうとも構わない。

 

俺の四肢が引き千切れようが、俺が死のうが。

 

ただ、ただ。

 

こいつを、ぶち殺せればッ!!!

 

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

自分の意思を反映する霊力と、正反対の霊力がお互いを補い合う。

青白い霊力と、破壊の黒い霊力は混ざり合い。

 

俺の体が、強く蒼く輝き始めた。

 

 

詰まる距離。

右手から侵食を始めた黒い刻印は、もう頬まで来ている。

 

 

血管が浮き出るほどに強く拳を握りつつ、俺は。

 

 

何処かで、長い黒髪が揺れて、消え去るのを朧げに認識した。


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