東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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ラ「昨日は体育祭の後帰って熟睡したら遅くなりました。すみません」
真「気を付けろアホめ」
ラ「もしかたら夜にも投稿するかもしれません、ではどうぞ!」


第四章第十三話「届かない」

先に動いたのは、阿吽だった。

同時に口を開き、四肢を踏ん張りつつ彼らは叫ぶ。

 

「阿吽[天下一の大風]」

 

二人の声が重なり、絶大な妖力に鳥肌が立つ。

俺は後ろに跳び、木の陰に隠れ。

暁が雷の速さで上空へと跳んだ瞬間。

 

ゴオッ!! と。

 

一瞬吹き荒れた暴風が、俺達の居た場所を更地にした。

まるで巨人が殴ったかのように凹んでいる大地。

強力な風がそこを叩いたとは理解したが、にわかには信じがたい現象だった。

心の帯を引き締め、俺は木の陰から飛び出す。

 

「阿吽[天下一の大風]」

「纏・風!」

 

飛び出した瞬間に狙いを定めた阿吽はもう一度スペルを唱えるが、暁の生み出した風により緩和される。

それでも少なくは無い衝撃が俺を襲うが、それを無視して俺は上段から下段へと、三日月を描くように切り裂いた!

 

魂魄一刀流、半月。

 

妖夢から教えて貰った基本の業であり、体に余分な力を入れずに微塵の震えも無くしつつ斬る技。

斬られた物の断面は氷のように滑るほどになる。

 

しかし、それは阿の体に当たると同時に止まった。

 

「!?」

「阿!我が体は金剛の如し!ひ弱な霊力しか持たぬ貴様に、切り裂く事は出来ん!」

 

常人の身体能力の、60%分が今俺には付与されている。

感じる人間と妖怪の差、1パーセントしか使えないと言う余りにもキツい縛り。

 

しかし俺はそこで手を止めず、もう一度阿の体に刀をぶつける。

 

ガキイイン!!

 

と響く金属音、上に弾かれる刀と俺の右手。

 

 

・・・は、赤い軌跡を描きながら阿の前足へとその刃を伸ばした!!

 

「阿!・・・中々やる様だな・・・!」

 

火を纏い、その刃を赤熱させた桜ノ蕾で斬りつけたのは阿の前足。

その、関節。

 

金剛の様に堅い皮膚でも、関節を固くすれば動けなく成る為関節は比較的柔らかい。

人間でも膝頭と膝の裏では硬さが全然違う。

 

一撃を入れ、俺は直ぐに飛び退る。

それと同時に、今度は暁が風を纏いながら阿に斬りかかり、一瞬で四肢の関節に切り傷を付けた。

 

「阿!・・・こいつらは少し危ないな」

「吽!・・・早めに始末するか」

 

その言葉を聞いた俺達の脳裏に浮かび上がったのは、写真の風景。

跡形も無く吹き飛ばされる様な暴風を、喰らう訳には行かない。

 

「暁!逃げろ!」

 

しかし、その判断は遅かったのだろう。

突然、呼吸がしづらくなった。

急な出来事に思わず眼を見開くも、次の瞬間には決して弱く無い風が俺の髪を揺らし、頬を撫で阿吽に集まっていく。

妖力が膨れ上がり、阿吽達の緑色の眼が深い深緑に染まる。

木々の葉が揺れ、太陽を雲が隠し。

 

不気味な雰囲気の中、阿吽は犬歯を剥き出しにした。

 

 

「[阿吽の呼吸]」

 

 

刹那。

視界を、聴覚を、触角を。

 

 

全て、暴風が包み込んだ。

 

 

 

 

強すぎる風は刃となり、俺や暁の肌を切り裂く。

鮮血が風に乗って舞う中、突風に視界を覆われながらも俺は刀を握りしめ。

 

「そこ、だっ!!」

 

妖夢との訓練、目隠ししての戦いの中で鍛えられた察知能力をフルに活用し桜ノ蕾を突き出した。

再び手には固い感触が伝わり、ビリビリと手に振動が伝わる。

 

1%では、確実に削れ切れない。

 

華仙と霊夢以外、誰も知らない俺の封印。

無力さに歯を食いしばり、俺は刀を鞘に納めた。

 

周りが見えない状況で、刀を振るうのは危ない。

さっきのは運が良かったが、もし間違えて暁に当たって居たら。

 

俺は姿勢を低くし、右拳を固く握りしめた。

それは悔しさか。

それは怒りか。

 

じわじわと、何故か右手が疼く中、遂に突風が晴れて―――――

 

 

目の前に広がる世界、その更地には切り裂かれた黒い布地と染みついた赤い血が無数の残骸となって落ちていた。それを視認し、俺が動きを止めた瞬間。

 

サクッ

 

 

 

小さな音と共に、刃の破片が上から落ちて来た。

地面に突き刺さったそれの軌道を追いかける様に上を見上げれば、

 

「阿!まずは小娘からだなあ!」

「吽!こっちの方が喰った時美味しいしなあ!」

 

 

纏っていた風を吹き飛ばされ、服を切り裂かれ、刃の半分以上を失った暁が空中で戦っていた。

 

欠けた刃の分を己の技量と身体能力で補うも、その金剛の体を超高速の戦闘中に砕く事は出来ず。

白銀の爪が宙を走る度に、暁の体に傷が出来て行く。

 

 

「暁!!」

 

俺は思わず叫び、急いで体を奮え立たせ起こした。

そのまま跳躍し、桜ノ蕾を素早く引き抜く。

 

「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

気合一つ、俺は上段から全力で桜ノ蕾を阿にぶつけた!!

 

相手の態勢が崩れ、俺はその次に吽を蹴り飛ばす。

空中での一瞬の交錯に生まれた隙に、俺は暁を掴み地面へと降り立った。

 

「大丈夫か!?」

「ん・・・大丈、夫」

 

短い言葉を交わすと、阿吽も俺達の後ろで地面に降り立った。

俺と暁も直ぐに振り返り、構えを取る。

 

 

「阿!今ので殺したかったんだがな!」

「吽!本気は余りだしたくないからな!」

「阿!でも、もう出しちまおうか!」

「吽!出しちまおう!」

 

阿吽は言い終えると此方に視線を向け、深緑の瞳を光らせる。

 

刹那。

 

 

 

俺と暁が、違う方向へと急に吹き飛ばされた。

 

あの一瞬で妖力が俺達の体を叩いたと分かるのに、一瞬を費やす。

今まで、本気を出していなかった阿吽の本気。

 

いや、大妖怪の本気。

 

ただただ純粋な、小細工無しの圧倒的力。

 

地面に叩きつけられ、純粋な痛みに体を奮わせる俺の目の前で。

 

 

暁に、阿吽は襲い掛かった。

 

金色の牙と白銀の爪が煌めくと同時に、妖力を纏ったそれらは暁の心臓へと迫る。

 

バランスを崩している暁には防げない。

 

 

 

 

 

 

俺も、1%では、届かない―――――


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