東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
真「なあ、昨日出した新連載って・・・」
ラ「はい、出かけてた時に読み始めた『このすば』にハマり衝動書きした奴です」
真「・・・殴るぞ?」
ラ「いやネット環境使えなかったんだけど、とある文章が書けるソフトで衝動書きしてね、コピペして出したんですよ!」
真「異世界転生初めての癖に!」
ラ「良いんです、何事も挑戦です!」
真「・・・まあ良い、遂に三章最終話だ。」
ラ「結末・・・分かってるよね、うん。では、どうぞ!」
「・・・夢月、調子はどうかしら?」
八意永琳は一つの病室に入り、大きな白いベッドに横たわっている少女へと声をかけた。
窓の外を眺めていた夢月は永琳の方を向き、少しはにかむ。
「そうです、ね。どうせ後少しで死ぬんでしょうが・・・調子はいいです。」
「そう、それはよかった。」
永琳は、これから死ぬ患者に同情などしなかった。
何人も何人も死ぬところを見て来たからか、感覚をマヒさせてしまったのか。
夢月の心臓にある腫瘍を取り除く薬は出来た。
そう、15年それを与え続ければ完治出来る。
では余命は――――?後、5時間。
永遠亭の前に突然現れた、服だけが汚れ、破け鮮血がついている少女。
そして血みどろでボロボロの少年、天音真。
急いで二人を治療した時に気づいた真実。助からないと言う現実。
再び窓の外へと目を向けた夢月は、最後の時間とは思えない程安らかだった。
「・・・夢月、最後にやりたいことは?」
永琳は黒い椅子に座り、夢月に話しかける。
それを聞いた夢月はゆっくりと、最後の時間を楽しみながら呟いた。
「無いです」
「真には会わなくていいの?」
まるで夢月の答えを予想していたかのように、永琳は鋭く切り返す。
しかし、夢月は永琳とは眼を合わせず答える。
「会わなくて、良いです」
「・・・そう。それはどうして?」
「きっとあの人は、自分を責めるから。」
この少女は、賢い。
永琳はそう思う。
そして、賢すぎる故に生命と言うものを、人生と言うものに対して達観しすぎている。
命はいつか消える物。夢月はそう理解してしまっている。
永琳でも気づき、噛み砕き、理解するのに長い時を有した。
しかし、この少女はたった数十年の年月だけでそれを理解してしまっている。
亡くすのは、惜しい。
でも、助ける事は出来ない。
眼を瞑り、重苦しいため息を永琳は吐いた。
それは瞬時に思考を切り替える動作であり。
「入りなさい」
ドアをノックしようとした少年を、見越しての言動だった。
一瞬、ドアの外で何かが固まる気配がする。
一つは遠ざかり、もう一つは呼吸を整えている気配。
眼を見開いた夢月が、驚きと悲観に満ちた様子で白い引き戸を見つめ。
「し、失礼します・・・」
入って来た少年を、永琳と夢月は視界に納めた。
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「夢月、怪我とかは?」
「・・・何ともないです。なんでか怪我は治ってるんです・・・」
「そっか。実は俺も昨日の記憶が曖昧でさ、良く覚えて無くて・・・」
ベッドの傍・・・では無く、入り口の近くに備え付けられた椅子に俺は座った。
何となくぎこちない雰囲気の中、夢月が元気そうで俺はひとまず安心する。
記憶が無い、というのは嘘だ。
あの日、俺が何かのトリガーを引いた事は覚えている。
全身が熱くなり、血液が沸騰するような感覚。
異常な力が、俺の中に満たされた。
その力が果たして何なのかは分からないが、それは置いといて俺は永琳先生に話しかける。
「永琳先生、夢月はどうなるんですか?」
「・・・助けられることが出来なければ、五時間で死ぬ」
少しの間が空き、永琳先生は答えた。
しかし、俺は五時間と言う長い時間に安心し、
「助ければいいんですね?」
「え?え、ええ・・・そうね」
永琳先生に確認した。
夢月と永琳先生に若干の戸惑い、驚きが浮かぶ中、俺はゆっくりと目を閉じる。
(・・・陽炎、陽炎)
『何?・・・助ける事は出来ないよ?どうやら腫瘍の細胞を全部殺す薬はあるみたいだけど、それで殺しきるには15年必要だと。無理だよ』
陽炎は断言した。
しかし、俺はまだ何かが引っかかっている気がして、更に頭を抱え込む。
考えろ、考えろ―――――
大きく、長く俺は息を吐いた。
眼を開ければ、そこには傷だらけの右手が・・・
傷だらけ?
俺は己の右手をまじまじと眺め、そして思い出す。
俺の傷は、輝夜の能力によって治されたじゃないか、と。
でも、それは条件がそろわなきゃいけない。
「永琳、薬は直ぐに処方できるんだよな?」
「ええ・・・何か、思いついたの?」
少し早口になりながらも俺は永琳に尋ね、そして椅子から立ち上がった。
「夢月、ちょっと体に触っても良い?」
「こんな時に何を言い出すんですか変態ッ!!!」
「あ、違うから!?そんな気持ちは無いから!?」
バッ! と両手で体を包み込んだ夢月に近づき、ベッドの横で俺は地面に膝を着く。
「夢月。お前は、生きたいか死にたいかでいったらどっちだ?」
「・・・それなら、生きたいですよ?でも、無理なんです。私は後少しで死にます。もう死人といっても過言では無い人が、生を求めるなんて言うのはおこがましいです」
「お前はまだ死んでない。だから、俺はお前を助ける。可能性があるなら、俺はやる」
鋭い口調で返して来た夢月に、俺はきっぱりと言い切った。
そして、その白い右腕に俺は右の掌を当てる。
「もう一度聞く。生きたいか?」
「・・・それは・・・」
「二つに一つ。どっちかを、ここで決めてくれ。」
口ごもった夢月は、目線を窓の外へと向けた。
柔らかい初夏の日差しが木々の隙間から地面に木漏れ日を作り、爽やかな風が窓の外にある木や草を揺らしていく。青く青く、どこまでも広がる空を、彼女は見つめた。
「・・・生きたいです」
「分かった」
呟かれた言葉と同時に、俺は笑みを浮かべる。
もし、夢月が死ぬのが運命ならば。
そんな腐ったような未来は、俺がぶち壊して見せる。
「行くよ、陽炎ちゃん」
『陽炎ちゃん言うなっ!』
最早お決まりとなりつつある会話を交わし、俺は右手に赤黒い霊力を纏わせる。
瞳も同色に染まって居る中、俺は夢月の体全体を霊力で包み込み、
「”治る”以外の選択肢を壊す」
たった一つの未来だけを残し、他は全て破壊した。
バギンッ! と恐らく俺と陽炎にしか聞こえていない破壊音が病室に鳴り響くと同時に、俺は永琳先生に素早く伝える。
「輝夜を呼んで下さい!後、薬をお願いします!」
「なら手術室に来なさい。ここをでてずっと真っすぐよ。・・・夢月、少しだけ胸を切り開かせてもらうわ。」
「え、ええっ?・・・わ、分かりました・・・」
突然、冷たかった空気が暖かくなった。
絶望しか無かった空間に、希望が差す。
永琳先生は医者だ。それは決して、患者を見捨てない事と同義だ。
輝夜は誰よりも死の尊さを知っている。だからこそ、簡単には死なせない。
めまぐるしく駆け始めた世界に、夢月は自分がどうしたら良いか分からない様子だった。
そんな夢月の手を、俺は優しく取り、
「よっ・・・っと」
「ひゃあああっ!?」
膝と肩を持ち上げ――――所謂お姫様抱っこをして―――――立ち上がる。
何やってんですか貴方は! という様な言葉は聞こえて来ない。
腕の中で顔を真っ赤にさせている所を見ると、やはり恥ずかしいのだろうか。
少し意地悪な笑みを浮かべ、俺は呟く。
「行きますよ、姫」
「あ・・・ひゃい・・・」
口をぱくぱくさせている夢月を抱え、俺は手術室へと歩を進め始めた。
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「で?どうするの、真」
手術室。
麻酔を打った夢月はもう寝ており、その夢月を取り囲む様にして俺と永琳先生、輝夜は立って居た。
永琳先生に尋ねられ、俺は一つずつ解説していく。
「はい、まずは確認します。腫瘍が無くなれば、夢月は生きれますよね?」
「ええ。他は全くの健康体だもの」
「オーケーです。まず、腫瘍に薬を打ち込みます。しかし、15年の猶予は無い。ので、輝夜が能力で15年間夢月の体を進めます。」
「ちょっと待って、私の能力でやったら夢月の体ごと成長してしまうし、治る以外の未来も・・・」
「体全体に輝夜の能力は行く。それは分かってます。ので、腫瘍以外に行った輝夜の能力を俺と陽炎で壊します。選択肢はさっき治る、だけにしておきました。・・・この作戦が成功すれば、夢月は助かります。」
輝夜と永琳先生が、納得した様に頷いた。
そして、各々に準備を始める。
「そこまで言われたら、成功させない訳には行かないわね。・・・切るわよ」
「そうね、私の能力が火を噴くわよーっ!」
「陽炎、行くぞ」
『うん、絶対に助けるよ』
永琳先生が眠っている夢月の胸にメスを入れ、肌を切り開く。
心臓の横にある真っ黒い腫瘍。それに注射をし。
「輝夜!」
「ええ、分かったわ!」
直ぐに、俺は輝夜に合図を出す。
二人同時に能力を使い、輝夜は時を進め、俺は他の部位に影響を齎しかける能力を陽炎と壊していく。
たった一分程度の、大きな手術。
結果は―――――
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「真さん、今日はお見舞いですよね?ほら、行きますよ!」
「え!?妖夢も行くの!?」
「勿論です、長らく真さんを見失って居ましたが、護衛ですので。」
白玉楼。
外へ出ようとする俺に、もう靴を履いている妖夢が立ちふさがった。
苦笑しつつ、俺と妖夢は冥界から現世への出入り口へと向かう。
「いやあ、それにしても・・・また、一人で突っ走ってたんですね。」
「うん・・・ごめんなさい」
「貸し1で。今度買い物に付き合って貰います」
「完璧荷物持ちですね分かりますっ!!」
他愛も無い会話をしつつ、俺と妖夢はお見舞いの果物を片手に冥界から飛び降りた。
刹那、急に俺達は雲の上から地面に向かって落ちていた。
何度やっても、この感覚には慣れない。
内臓がふわっと浮き上がる様な感覚に鳥肌を立てながら、俺は妖夢から目を逸らす。
理由は、スカートが派手に捲れt
「真さん?」
「ごめんなさい」
殺気を伴い始めた妖夢の視線を必死で堪え、最後だけ霊力を使って着地。
そのまま俺と妖夢は―――――
墓場へと、歩き始めた。
暫くして、小高い丘の上に立った墓標へと俺達は手を合わせていた。
妖夢が持って来た花をそこに添え、丘の頂上、一本の木に立てかけてある石板に刻まれた名前を、俺は読み上げる。丁度月と重なるそのお墓には、
「博麗、」
「・・・夢終」
博麗夢月の、母親が眠っていた。
骨や、遺品は無い。
それでも、これは作らなければならない。
俺は立ち上がり、丘の上から辺りを見回す。
そこには、闇鬼に殺された人々のお墓が、全部作られていた。
流石に石を運んだりするのを、一人でやるのは堪えた。
しかし、最後の方には噂を聞きつけ色んな人が手伝ってくれたのだ。
そのおかげで、三日で終わった。
刻まれた名前は、全て紫から送られてきた手紙に書かれていた。
『あなたなら、これが必要になるでしょう?』
そう、書いてあった。
「・・・行きましょうか」
「うん。」
妖夢が呟き、俺は堪える。
お墓を作っていたため、彼女に会うのは久しぶりだ。
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永遠亭に入って、俺達は直ぐに奥の病室へと通された。
真っ白く、大きい引き戸。
少し緊張しつつ、俺はその引き戸を開けた。
―――――そこには、白いベッドに腰かけ、窓の外を眺めている―――――
「久しぶり、夢月」
「お久しぶりです、真」
博麗夢月が、満面の笑みを浮かべていた。
あの後。
手術は成功し、夢月の体から腫瘍が消え去った。
腫瘍以外は至って健康体の彼女はもう退院しても大丈夫なのだが、検査入院という事で今はまだ永遠亭に入院している。
果物を夢月に渡し、俺は話しかけた。
「調子は良い?」
「ええ、ばっちりです。もう不自由なく戦えますよ!」
「戦うな!!」
少しばかりの冗談を挟む夢月に急いで突っ込むと、夢月が思い出したように右手を此方に向けた。
「忘れてました。・・・幻夢、今までありがとうございました」
夢月が呟くと同時に、ドンッ! と白い魂が俺の中に入って来る。
それが幻夢だと認識するのに、一秒もかからず。
(ありがとう、幻夢。夢月の魂を引き留めてくれて)
心の中で、俺はそっと呟く。
そう、夢月の魂がもう抜けていたら話にならない。
生き返っても、人形になるだけ。
しかし、幻夢が夢月の魂を引き留めてくれていたおかげで助けることが出来たのだ。
再び戻って来た恩人に感謝し、俺は夢月に話しかける。
柔らかい木漏れ日が、俺達を明るく映し出す。
もう初夏。暑くなって来た幻想郷に、一筋の風が吹いた―――――