東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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最終章第三話「衝突の末に」

射程距離に入った処で、俺は右拳を全力で幻夢へと叩き付けた。

正面からそれを左手で受け止めると、ぐるんと俺の体を巻き込みながら体を捻る彼女の流れに逆らえず、俺はそのまま飛ばされる。

大した霊力も使わずに、能力発動時の俺を、それも何度も何度も放ち強化されていた右拳の殴打を躱した幻夢。地面に左手を突き刺して強引に吹き飛ばされる勢いを打ち消すと、俺は青緑の光を一本のレーザーにして、右手の人差し指から放つ。

 

昔、まだ俺が幻想郷に来て間もない頃に多用していた技。

銃のように右手の人差し指を伸ばし、親指を立てる。霊力などを人差し指の先に溜めて発射する遠距離攻撃。

当時、羅刹の射程距離拡張も使えなかった俺が重宝していた技だ。

利点として、直ぐに撃てる。そして思った以上に長く伸びる。

しかし、威力はそんなに高くない。幻夢は左手の一振りでそれを消してしまう。が、俺はその時にはもう零距離と呼べるくらいの位置まで接近していた。

ぐっと息を口の中で溜め、全身に力を込める。それと同時にみなぎり、更に強い光を放ち始める青緑の力。

漆黒の幻夢と俺の視線が衝突し、霊力とドライブによるエネルギーがバヂッと火花を散らす。

右足で地面を強く掴むと、俺はそこでぐるんと回転し、捻りを加えながら右拳を勢いよく撃ち出した。

大砲の様に、風と轟音、エネルギーを撒き散らしながら撃たれた拳を前に、幻夢は自身の右拳を叩き付けてくる。骨と骨が、拳と拳が鈍く重い音を鳴らしてお互いに止まる。

だが、俺は少し仰け反ってしまう。

博麗幻夢の持つ絶大な霊力。その力を完全には打ち消せず、漏れ出した力の影響を受けてしまったのだ。

 

そして、その隙を彼女は絶対に見逃さない。

 

ドガンッッ!! と、強い左拳が胸の中心に突き刺さる。

胸骨やあばらが軋み、青緑の光が少し薄くなる。そのまま勢いに逆らえず、大きく俺は吹き飛ばされた。

さっきの幻夢が放った滅壊ノ星撃の影響で、完全に動けるのは[恵まれる程度の能力]で生命力を恵んでもらい、回復した俺のみ。

他の皆は地面に倒れ伏せている。通常時なら俺が能力で皆を回復させるのだが、今そんな事をすれば絶対に死ぬ。だから、せめて時間は稼ぐ。

全力で拳を振るう。何度でも立ち上がる。

 

霊力で生成する羅刹、鬼丸は使えない。

フルバーストにドライブで使える黄金の霊力も使えない。

そして、オーバーレイなんかは論外の状態。

 

それでも、耐えるしかない。

 

俺は腰から桜ノ妖を甲高く響かせ抜き放つ。

紫紺の刃を幻夢に向けて、俺は長く息を吸う。刀から羽ばたいた紫紺の蝶が俺の体に止まり、溶け込んでいく。

それに伴いみなぎるのは妖力。

青緑の光に交じって、紫の光がゆらゆらと揺らめく。それに対抗するように黒い霊力を更に燃え上がらせた幻夢へと、俺は駆け出した。

 

桜ノ妖が風を斬る。殆ど一瞬で射程範囲にまで間合いを詰めた俺と幻夢は、同時に刃と拳を振るった。

 

紫紺の刃と、漆黒の拳が激しく衝突する。一瞬、拮抗する刃と拳。その瞬間に、俺は半分しか開放していなかった力を体を全力で回転させて全て解放させ―――――!!

 

ガキンッッ!!!

 

――――――――解放させたその瞬間に、そんな音が響いた。

 

直後、俺の視界に映っているのは砕けて散っている、紫紺の刃。

 

俺の叩きつけられている漆黒の拳。それにはかすり傷もついておらず、俺の持っている桜ノ妖は真っ二つに砕け折れていた。


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