東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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最終章第三話「脅威・再び俺は、」

ごぽんっ、とそんな音を弾けさせて、遂に博麗幻夢は完成してしまった。

何度か幻夢は右手を握ったり開いたりを繰り返し、体の動きを確かめている。その間にはもう、レミリア様のグングニルが、魔理沙のマスタースパークが、妖夢の未来永劫斬の発動準備が整っていた。

 

「真、大丈夫?……ちょっと遠くにいましょう」

「大丈夫、了解!」

 

霊夢の言葉に従い、霊力の消滅した―――――生身の高校生である俺はその場を走って離れる。走っている間に、放たれる魔力と霊力。後ろを少し振り返ると、そこには紅蓮の軌跡と虹色の砲撃、紅色の斬撃が直立している幻夢へと迫っていた。

オーバーレイでも、あれを防ぐのは難しいだろう。

それほどまでに強力な一撃。しかし黒い霊力で出来た幻夢はそれらを一瞥し、

 

キンッ。と、左腕を掲げて全てを受け止めた。

 

グングニルでさえも、そして未来永劫斬でさえも切り裂けず貫けない。マスタースパークに至ってはただただそこで魔力の火花が散るのみに留まっている。

 

そして、それでも汗一つかいていない幻夢。

彼女は力を入れずに下していた右腕をぷらりと一回揺らし、右拳を柔らかく握った。

次の瞬間、そこで霊力が爆発する。

その右拳から肘にかけて、黒と白、更には赤。”破壊”と”守護”と”拒絶”の霊力が後ろへ向けて幾筋ものの奔流となってその拳をブーストする。

その霊力は俺の滅壊ノ星撃の比ではない。右拳を中心に、まるで台風があるかのような暴風は木々を引き抜き吹き飛ばし、大気はぐるんぐるんと唸りを上げている。

放たれる霊力の余波、衝撃波は地面に亀裂を入れるだけでは留まらず、大きな欠片を数センチだが吹き飛ばしている。

ぞくっ、と背筋を電流が駆け抜ける。

本能が逃げろと言っている。この天変地異レベルの、人間では出せない領域にあるような一撃を目の前に、俺たちは全員回避の姿勢を取った。

 

―――――が。

 

俺と同じようでいて、圧倒的な格差がある滅壊ノ星撃。

赤と黒と白の尾を引く彗星は、回避を無視して。

 

鼓膜が破けそうな轟音を轟かせながら、俺たちを全員吹き飛ばした。

 

そこには、上も下も右も左も関係ない。

ただただ理不尽に、どこに居ても等しく吹き飛ばされる。正面突破という言葉を具現化したかのような彼女の戦い方、そして初代の博麗の技はやすやすと超えられるものではない。

誰も勝てなかった。

 

吹き荒れる衝撃波に体を叩かれて、全身がマヒし始める。

その中で、俺は歯を食いしばって耐える。耐え続ける。

今、この場にいる中で幻夢との付き合いが一番長いのは俺だ。ずっと一緒に戦って、負けて、這いつくばって、勝ってきたのだから。

だから俺は知っている。

博麗幻夢はあんな能力如きに負けるような人じゃないということを。

だから俺は決意を固める。

 

彼女を、救い出すと。

 

空中で、吹き飛ばされる中で、俺は強く強く右拳を握りしめた。

 

そして、幻夢を睨み付ける。

奥歯を食いしばり、その視線が幻夢の瞳と交錯する。

さあ。

ここで師匠を超えろ。一撃喰らわせて、”満たされようとする意志”が幻夢にしている支配を弱めるんだ。

支配が弱くなれば、きっと幻夢は甦る。

またあの不敵で楽しそうな笑みを浮かべて、俺たちの前に現れてくれるって、信じている。

 

だから俺は、その状態で[恵まれる程度の能力]を発動させた。

 

彼女を助けるために。

一撃、拳をぶつける為に。

 

何よりも―――――――――、

 

 

博麗幻夢を、今一瞬でもいいから、ここで超すためにも。

 

俺の体が、青緑の光を強く強く放つ。

魔力、霊力、風や地球のエネルギーを体に蓄えた俺は、地面に降り立つやいなや直ぐに駆け出した。

その視線は幻夢を真ん中に捉え。

体は捻られ、右拳は軋むほどに強く、限界まで強く握りしめられていた。


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