東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第十二章第十七話「思いを受け止めて」

俺と悪夢の振りかぶった拳が、衝突する。

白と黒の彗星が今までで最高の威力を生み出し、衝撃波は暴風を巻き散らかせる。

 

黒の霊力と白黒の彗星がお互いを飲み込み、潰し合い、散らしあう。

耳を突き破るような轟音。霊力の衝撃は大気を震わせる。

激しく霊力を散らしあう拳はビリビリと大きく強く震え、気合でそれを押しとどめるしか出来ない状況。

押し切れない。悪夢もまた同じだが、力が同程度の俺たちはこの拮抗を破ることができない。

だから、今ここで拮抗を崩すには限界を超えるのが唯一の手段。ミシミシと軋み始めた右腕に意識を集中させると、俺は白い霊力を更に滾らせる。

 

今まで、数々の敵と戦ってきた。

なら俺の体は、少しは強化されている筈。その右拳一振りにも、今までの全てが込められている。

 

「あ……ああああああああああ………!!」

 

唸り、右手に込める霊力を段々と上げていく。

ブウン、と起動音を響かせて浮かび上がった黒い刻印のリングは俺の右手を中心に廻り始め、黄金の光を放つ。倍増される霊力。右拳一つに体重も何もかもを全て乗せて、俺は歯を食いしばる。

 

ここで悪夢の思いが込められた一撃を正面から受け止めなければ、意味がない。

陽炎の消滅も。

俺に過去を見せてくれた幻夢との時間も。

妖夢や霊夢、魔理沙とレミリア達が頑張って戦い、そして幻想郷を救おうとしていた気持ちも。

 

悪夢の、悲願も。

 

ボオッ、と俺の全身から青緑の光が溢れる。恵まれる程度の力が自動的に発動したのだ。

そして。やっと、少しづつ悪夢の左手が、全身が俺の右手に圧迫されていく。黒と白の彗星に押されて、引きずられていく。

 

それでもまだ悪夢は耐える。

思いを折らさない。その儚い夢を、願いをただただ信じ続ける。

紅の瞳が、強く強く俺を射抜く。蒼い目で俺も悪夢を見返すと、俺はもう一歩踏み出した。

世界の力が、俺に流れ込んでくる。暴走しそうで、溢れ出しそうな力を懸命に右腕に伝え、放出し一撃にその威力を加え続ける。

 

「おお……っっ!!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

そして、砲声。

全身全霊。魂をも込めて、俺は強く強く右拳を押し出す。

 

「うああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

だが、悪夢もまだ諦めない。

彼女も心の底から声を上げ、吹き荒れ散らす霊力を大きく燃やしながら俺の一撃を少し押し返す。

一進一退の攻防。この状態で、霊夢達が真の加勢を霊力弾一個でもすれば、俺が勝つというギリギリの拮抗。

些細なきっかけで全てが崩れ落ちる、刃と刃のせめぎ合い。

俺がもう一度力を籠めようと、大きく犬歯を剥き出しにし――――――

 

 

―――――もっと、力を一部に集約した方が良いですよ。

 

 

突然、脳内に響いた声にその口を閉じる。

それは、どこかで聞いたことのある声だった。

思い出せない。それでもその声のアドバイス通りに、俺は滅壊ノ星撃の撒き散らかしている霊力の矛、その先端を鋭く鋭く霊力を一点に集中させていく。

 

―――――む。良い筋ですね。……というより、お母さんの様な滅壊ノ星撃ですね。

 

すると、途端に悪夢の黒い霊力を貫くように、俺の白と黒の彗星――――いや、一条の白黒の槍はズズッと突き進んだ。

確かな手応えを感じて、俺は更に霊力の槍を鋭く鋭く生成していく。

エネルギーの余波がリイイン……!と強く鈴の音の様な音を周囲に響かせる中で、俺は更に一歩踏み出した。

 

―――――良いですよ。そのまま。……ふう、最後まで手のかかる妹ですね、悪夢は。

 

そうか。

俺は、拳を突き進めながら思い出す。

この凛とした筋の通った声は。敬語で、冷静で大人っぽい少女の声は。

 

―――――さあ。最後です。霊力を爆発させなさい。……そして、どうかあの子の思いを、

 

 

二代目博麗の巫女。

 

 

――――――――――受け止めてあげてくれませんか――――――――――

 

博麗良夢の声だ。

悪夢に殺された、博麗の中では霊力の量が少なく、でも皆から信頼された優しい少女。

しっかりとしている三姉妹の長女であり、幻夢の娘。

記憶の中で見ただけだが、姿がくっきりと思い出すことができる。”恵まれる程度の能力”によって、俺の体に入ってきたであろう魂。

 

幻夢の様に、魂としては残っていない。

これは、強い意志のようなものだろうか。記憶のようなものなのだろうか?

 

いや、それにしては力が強い。しっかりと熱く燃え滾る物を持っている。

 

違う。

今は、その話じゃない。

 

ピシッ、と。

悪夢の左腕に、ヒビが走る。黒い霊力が段々と崩壊していく。

良夢の助言通りに、鋭い霊力の槍は貫いて、突き進む。俺は歯を食いしばり、そして最後に叫んだ。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

バガアアアアアアアンンンッッ!!!!

 

 

俺の拳が、遂に悪夢の霊力を打ち砕く。

そしてそのまま俺は更に一歩踏み出し、散った霊力を尻目に体を捻り。

 

ドゴンッッッ!!! と、鈍く重たい音を響かせながら、悪夢へと強く強く握りしめた右拳を叩き付けた。


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