東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第十二章第十二話「薄翅陽炎」

俺の一撃を、悪夢は何とか避ける。

さっきまでとは違うと理解しているらしい。確実に俺の右側へ意識を置き、防御が出来ないと察して躱し続けている。

陽炎から託された技、[薄翅陽炎]。使いどころは、悪夢に対して確実に当たる瞬間。

時間は、余りない。残り七秒。

俺は左拳でも悪夢を追い詰めていく。再び始まる連撃に、悪夢は左拳は受け流し、右拳は回避するという戦法を取り続ける。

残り6.5秒。

かなりシビアな高速戦闘、オーバーレイによって大幅に強化されている俺は、右拳を握りしめると。

 

「回避される事実を壊せ」

 

と呟き、全力で拳を振るった。

 

やはり悪夢は回避する。

しかし。

次の瞬間、俺の拳は赤黒い軌跡を描いて悪夢の腹部に突き刺さっていた。

 

大幅な事実改変。

 

誰かの干渉していることをぶった切る大技。連発は出来ないが、上手く使えればこの様に突き刺さる。

絶好のチャンスだが、大技の反動で[薄翅陽炎]は使え無い。それでも確かに伝わってくる衝撃を感じながら、俺は右拳を振り切る。

ボロボロと砕け散っていく悪夢の体。左の”拒絶”で蹴りを叩き込み、大きく弾き飛ばす。

残り六秒。

 

「くっそ……!めんどくさいなその霊力!」

「うちの陽炎ちゃんは捻くれてるからなあ!」

『ああん!?』

 

右手に黒い霊力を掻き集めた悪夢は、目くらましのようにそれを破裂させた。

一瞬で視界が黒一色に覆い尽くされる。

時間稼ぎの一手。ただそれだけなのだが、今の俺にとっては恐ろしいほどに致命的になる一手。

うかうかしては居られない。破裂した黒い霊力に体ごとぶつける。一気に霧散する黒い霊力、悪夢の姿は。

 

「……そこ、だあっ!!!」

 

真上。

体を倒すように捻り、上へ向く。その流れのまま放つ、赤黒い槍。

俺の真上に飛び立っていた悪夢の体へそれが突き刺さると、だあん!と悪夢の左腕を吹き飛ばした。

目に見える、確かなダメージ。

 

悪夢の顔が歪む。右手に、再び集められる黒い霊力。

 

残り、四秒。

 

「行くぞ、陽炎おおおおおおおおおお!!!」

 

気合を叫ぶ。

びりびりと震える気迫に乗せて、俺は全力で悪夢に突貫した。

急激な接近。まるで空間を無くしたんじゃないかと思うほどに、俺と悪夢の距離は零になる。

それに合わせて、博麗悪夢はしっかりと俺の左側へすっと移動する。右拳の、ギリギリ射程範囲外。

 

強い。陽炎の能力を全部使っても、その使用者が俺だから、まだまだ悪夢には届かない。

 

残り、三秒。

 

左拳を振るう。受け止められ、その拳の勢いと合わせて右腕を前に出し、自ら吹き飛ばされる悪夢。

 

残り、二秒。

 

時間がない。

俺と悪夢の、地力の差がここに来て出てくる。

陽炎が消滅する。あと少しで。

 

焦りを感じつつ、俺は一縷の希望を信じて右拳を軋むほどに強く握りしめた。

 

俺だから。陽炎の力を使っているのが、俺だからここまで悪夢を倒せなかった。

決定的な一打も加えられず、ピンチになっている。

 

でも。

 

 

――――――俺だからこそ、掴めるチャンスも、ある。

 

 

大きく後ろへ吹き飛んだ悪夢。その顔は俺の焦りを見抜いたのか、勝利を確信した表情だった。

そして。

次の瞬間。

 

その表情を嘲け、笑うかのように。

 

 

背後に、時雨を逆手に構えた暁が現れた。

技に、最高の速さを与える紫の雷を纏いながら。妖力を刃に纏わせ、開いた体を畳む様に、少女は無慈悲に揺るがない瞳のまま呟く。

 

「月光ノ夜桜」

 

ドガアンン!! と、黒い半月が悪夢の背中を強く叩いた。

衝撃に、悪夢の体が大きく反る。空中で、動けなくなる。

 

俺だから掴めるチャンス。

 

それは、悪夢には居ない仲間と一緒に戦っていたからこそのチャンス。

 

俺がもし、悪夢に距離を取られた時点で諦めていたらもう陽炎は消滅し、悪夢は倒せなかっただろう。

しかし。信じていたからこそ、俺の体は既に捻り始めている。

 

その右拳を、強く強く強く握りしめている!

 

残り、1.5秒。

 

「行くぜ、悪夢――――」

 

1,3秒。

 

「こっちのちょっと捻くれてる奴の、」

 

1.1秒。

 

 

「真っ直ぐな一撃を、喰らいやがれ!!!!」

 

 

捻りを開放する。

溜めていた力が、爆発的な威力を持って放たれた。

右拳が空を切り裂き、悪夢の体へと突き刺さる。赤黒い霊力が、一瞬弱まり。

 

俺と陽炎の声が、重なった。

 

「『薄翅陽炎(うすばかげろう)』ッッ!!!」

 

赤黒い光が、絶大な輝きを放つ。

世界の理を全て破壊する一撃。

 

それは、二人の右拳に宿った。

 

 

――――残り、1秒。

 

 

ドッガァアアアアアアアアアアアンンン!!!! と、天まで轟く大轟音を発し、赤黒い光で空を覆う暗雲を切り裂き、その光で世界を覆いながら。

 

 

俺と陽炎の右拳は、悪夢へと炸裂した――――!!

 

 


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