東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
俺の一撃を、悪夢は何とか避ける。
さっきまでとは違うと理解しているらしい。確実に俺の右側へ意識を置き、防御が出来ないと察して躱し続けている。
陽炎から託された技、[薄翅陽炎]。使いどころは、悪夢に対して確実に当たる瞬間。
時間は、余りない。残り七秒。
俺は左拳でも悪夢を追い詰めていく。再び始まる連撃に、悪夢は左拳は受け流し、右拳は回避するという戦法を取り続ける。
残り6.5秒。
かなりシビアな高速戦闘、オーバーレイによって大幅に強化されている俺は、右拳を握りしめると。
「回避される事実を壊せ」
と呟き、全力で拳を振るった。
やはり悪夢は回避する。
しかし。
次の瞬間、俺の拳は赤黒い軌跡を描いて悪夢の腹部に突き刺さっていた。
大幅な事実改変。
誰かの干渉していることをぶった切る大技。連発は出来ないが、上手く使えればこの様に突き刺さる。
絶好のチャンスだが、大技の反動で[薄翅陽炎]は使え無い。それでも確かに伝わってくる衝撃を感じながら、俺は右拳を振り切る。
ボロボロと砕け散っていく悪夢の体。左の”拒絶”で蹴りを叩き込み、大きく弾き飛ばす。
残り六秒。
「くっそ……!めんどくさいなその霊力!」
「うちの陽炎ちゃんは捻くれてるからなあ!」
『ああん!?』
右手に黒い霊力を掻き集めた悪夢は、目くらましのようにそれを破裂させた。
一瞬で視界が黒一色に覆い尽くされる。
時間稼ぎの一手。ただそれだけなのだが、今の俺にとっては恐ろしいほどに致命的になる一手。
うかうかしては居られない。破裂した黒い霊力に体ごとぶつける。一気に霧散する黒い霊力、悪夢の姿は。
「……そこ、だあっ!!!」
真上。
体を倒すように捻り、上へ向く。その流れのまま放つ、赤黒い槍。
俺の真上に飛び立っていた悪夢の体へそれが突き刺さると、だあん!と悪夢の左腕を吹き飛ばした。
目に見える、確かなダメージ。
悪夢の顔が歪む。右手に、再び集められる黒い霊力。
残り、四秒。
「行くぞ、陽炎おおおおおおおおおお!!!」
気合を叫ぶ。
びりびりと震える気迫に乗せて、俺は全力で悪夢に突貫した。
急激な接近。まるで空間を無くしたんじゃないかと思うほどに、俺と悪夢の距離は零になる。
それに合わせて、博麗悪夢はしっかりと俺の左側へすっと移動する。右拳の、ギリギリ射程範囲外。
強い。陽炎の能力を全部使っても、その使用者が俺だから、まだまだ悪夢には届かない。
残り、三秒。
左拳を振るう。受け止められ、その拳の勢いと合わせて右腕を前に出し、自ら吹き飛ばされる悪夢。
残り、二秒。
時間がない。
俺と悪夢の、地力の差がここに来て出てくる。
陽炎が消滅する。あと少しで。
焦りを感じつつ、俺は一縷の希望を信じて右拳を軋むほどに強く握りしめた。
俺だから。陽炎の力を使っているのが、俺だからここまで悪夢を倒せなかった。
決定的な一打も加えられず、ピンチになっている。
でも。
――――――俺だからこそ、掴めるチャンスも、ある。
大きく後ろへ吹き飛んだ悪夢。その顔は俺の焦りを見抜いたのか、勝利を確信した表情だった。
そして。
次の瞬間。
その表情を嘲け、笑うかのように。
背後に、時雨を逆手に構えた暁が現れた。
技に、最高の速さを与える紫の雷を纏いながら。妖力を刃に纏わせ、開いた体を畳む様に、少女は無慈悲に揺るがない瞳のまま呟く。
「月光ノ夜桜」
ドガアンン!! と、黒い半月が悪夢の背中を強く叩いた。
衝撃に、悪夢の体が大きく反る。空中で、動けなくなる。
俺だから掴めるチャンス。
それは、悪夢には居ない仲間と一緒に戦っていたからこそのチャンス。
俺がもし、悪夢に距離を取られた時点で諦めていたらもう陽炎は消滅し、悪夢は倒せなかっただろう。
しかし。信じていたからこそ、俺の体は既に捻り始めている。
その右拳を、強く強く強く握りしめている!
残り、1.5秒。
「行くぜ、悪夢――――」
1,3秒。
「こっちのちょっと捻くれてる奴の、」
1.1秒。
「真っ直ぐな一撃を、喰らいやがれ!!!!」
捻りを開放する。
溜めていた力が、爆発的な威力を持って放たれた。
右拳が空を切り裂き、悪夢の体へと突き刺さる。赤黒い霊力が、一瞬弱まり。
俺と陽炎の声が、重なった。
「『
赤黒い光が、絶大な輝きを放つ。
世界の理を全て破壊する一撃。
それは、二人の右拳に宿った。
――――残り、1秒。
ドッガァアアアアアアアアアアアンンン!!!! と、天まで轟く大轟音を発し、赤黒い光で空を覆う暗雲を切り裂き、その光で世界を覆いながら。
俺と陽炎の右拳は、悪夢へと炸裂した――――!!