東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第十二章第九章「殺人人形」

暁の持つ日登と時雨が煌めく。紫炎を纏いながらの斬撃は悪夢の防御を弾き飛ばし、微力ながらもその隙を貫いていた。

確かに、天音真の方が技の威力は上だろう。一撃一撃の重さも、彼の方が強い。

 

しかし、真よりも暁の方が強い。その呪力を使いこなす練習を最近していた暁は、ブウンと生成した紫の球体を左手の中で転がす。

するとその球体から黒い文字が羅列となって浮かび上がり、球体を中心に円を描いて回り始める。

口に咥えていた時雨、右手に逆手で構える日登。悪夢の一瞬の隙を狙って、呪力の球体は放たれた。

そこに刻まれていた文字は、”破壊”。ドゴン!! と軽く破裂したそれは悪夢の脇腹の部分にある服を少し破っており、すかさずそこを時雨と日登の連撃で攻める。

 

(……真よりも全然、隙が無い……っ!)

 

悪夢は顔を顰め、その刃を受け流し始める。炎が段々と悪夢の肌を焦がしていく中で、逆手に持った刃を暁は閃かせた。

妖力によって極限まで研ぎ澄まされた一撃が、悪夢の腕に初めて傷を入れる。

暁の目は、何時ものようにおっとりとした優しい、光のある黒い目ではなくなっている。

 

――――それはかつて、天音真と敵対していた頃の、光の無い漆黒の瞳。

 

そこに感情は見えない。ただひたすらに刃を振り続ける殺人人形となった暁は、父と母の小太刀を両手に持ち、空中を飛び回る。

純粋に、静かな殺気は悪夢の喉元を何時でも切り裂ける、と言っているような緊迫感をもたらす。

博麗幻夢とは違う。場数、経験の少なさと年齢の幼さが相まっての精神的な弱点。

感情を剥き出しの者に対しては静かに。でも、彼女はこの殺気の前で感情的になるのはダメだと、小さい頃からの母との手合わせで理解していた。

 

「纏・紫電」

 

次の瞬間、暁の声が響く。紫の炎が一転、激しく散る雷撃になり。

 

凄まじい速度で悪夢の後ろに回った暁はその背中へと時雨と日登を振るう。

 

 

☆★☆

 

 

陽炎の、言葉。

何を言っているかは分からない。でも分かるのは、それで陽炎が消滅するということ。

 

「……お前が、消えるなら、ダメだ」

「私はもう死んでる。今更何を言ってるのか。寧ろ、悪夢に対して他に策があるの?」

「無いけどさ。確かに陽炎は死んでるけど、そこにお前は居るじゃないか」

「んー、まあ。でもさ、能力の制限ぶっ壊して、悪夢を倒すまで私の能力使うんならね。それなりの代償をって奴だよ」

 

何時もより飄々とした態度で。

普段なら浮かべないような、仮面の様な笑みで陽炎は話し続ける。地面に足を付けて、俺に―――では無く、どこか焦点のずれている方向へ。

 

「悪夢の攻撃も世界の理も、全部ぶち壊して一撃叩き込めば良い。私の能力を使えばそれが簡単に出来るよ」

「陽炎、俺はやらないって言ってるじゃん。やだよ、お前が居なくなるなんてさ!」

「真が嫌でも、私は構わないよ」

 

と言って、陽炎は俺の目の前で座っている俺と目線を合わせるために屈んだ。

 

「それに。忘れてるかもしれないけど、私は頑張れば真の体を乗っ取れるんだよ?」

 

ドズッ。

 

何かを貫く音が聞こえた。

それは、陽炎の放った鋭い貫き手が俺の腹部を貫いている音。

ズズズズ、と赤黒い何かが俺を侵食していく。体が動かなくなり、視界もぼやけてきたところで。

 

 

「この馬鹿野郎ッッ!!」

「うにゅうっ!!」

 

 

聞きなれた怒声と、陽炎の吹き飛ぶ音が鼓膜を刺激した。


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