東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
この進展のない状態で、使用限界があるオーバーレイを使い続けるのは得策ではない。
俺は桜ノ妖の射程距離拡張を解くと、オーバーレイも同時に散らす。
そして、もう一度バーストを使用。青白い光が俺を包み込み、血液を霊力が流れていく。
すると、右腕から黒い刻印がリング状に浮かび上がり黄金の光を放ちながら俺の右腕を中心に回る。限界まで使用していた霊力が更に倍増され、青白い光が一層強くなった。
繋げるのは、[恵まれる程度の能力]。青緑の奔流が俺と周囲の大地や木々を繋ぎ、光り輝くエネルギーが俺の体を纏う。
そこまでやって、俺は桜ノ妖を鞘に納め、そして右拳を握りしめた。
気合が燃える。同時に、青白い光が黄金の輝きを放ち始めた。
悪夢が、少しだけ表情を動かす。俺は右の手のひらと左の手のひらを合わせると、ゆっくりと引き離していった。そこに生成される、一つの直刀。
その柄を握り、俺は切っ先を悪夢に突き付けた。
黄金の霊力を纏う、黄金の刀。
魂刀[羅刹ー明ケノ夜空ー]だ。羅刹の、最終完全上位互換。
切れ味はもちろん、霊力の密度も堅さも段違いにレベルアップしている。楼観剣ともぶつかりあえるであろうその刀を、俺は上へと振り抜いた。
「サンピラー!」
途中で叫ぶ。すると悪夢の足元から黄金の柱が天に向かって放出され、悪夢はすっとそれを回避した。
サンピラーというのは、一つの自然現象だ。
ダイヤモンドダストに太陽の光が反射して作られる光の柱。霊力でそれを人工的に作り出したのが、今の技である。
だが、それだけで悪夢は倒せないのは確実。俺は恐怖を捨てて、悪夢へと一気に距離を詰める。
縦横無尽に切り裂く刃。紙一重で回避する悪夢。
お互いに攻防がはっきりしている状態に、進展はない。高速でのやりとりは虚しく空を切るだけ。
悪夢は反撃しようにも、明ケノ夜空が俺の最上位に値する武器だと気づいているらしく、強引に攻めてこようとはしない。俺は攻めきれない。
回避されたらそこで動きを止めて全力でそれを仕留めに行く。黒い軌跡と黄金の軌跡が宙に描かれる中で、俺は更にもう一歩踏み込んだ。
悪夢の顔面が、俺のすぐ目の前に。驚いた様子の悪夢の額へと、俺は自身の額をたたきつける。
ズゴンッ! と鈍い音が響いた。頭突き。一番簡単で、至近距離でしか当たらない技だ。流石にこれは予想できなかったのか、悪夢へと初めて攻撃が当たる。その隙を逃さず、俺はコンパクトに体を捻り。
「おおおおおおおおおおおお!!!」
気合い一声。
明ケノ夜空の月を、悪夢の腹部へと衝突させる。
波紋上に、霊力が散る。風圧で砂埃が舞い上がる中で、悪夢は数m後ろへと吹き飛ばされた。高速状態の集中を切らさない様に、俺はまた一歩突き進み剣を振るう。防がれるが、それでも尚食らいつく。
黄金の霊力を使って、ここまで突破できない相手はそうそう居ないと思っていた。
しかし、悪夢は予想を遥かに超えてくる。顔色一つ変えずに、反撃はせずとも無傷のまま耐え続け受け流し続けている。
一秒間に幾つも放たれる連撃。俺はその途中で、一回ブレーキをかける。
途端に途切れる攻撃のリズム。構えから斬撃の軌道を予測していたのか悪夢はそこで不自然に止まり、俺はすかさず大きく切り上げた。
ドザンッッ!! と。
初めて、確かな手ごたえと重みが右手に加わる。黒い霊力でカバーしつつ、それでも止まらない全力の一撃は悪夢を天高く吹き飛ばした。
そのチャンスを、俺は掴むべく霊力を炎に変換する。
ゴオオオ……と纏う紅蓮の炎。妹紅の不死鳥を思い描きながら、俺は大きく霊力の翼を広げ――飛翔。
炎の翼が空気を叩き付け、俺の体を真上へ弾き飛ばす。その姿はまるで不死鳥が天に昇るようで、俺は悪夢が近づいた処で右足に霊力と炎を集中させた。
「ああああ……うあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
咆哮。
体の捻りも霊力も、何もかもを詰め込んだ回し蹴りが悪夢の背中を打ち、打ち上げられていた悪夢を高速で地面に叩き落とす。
空中で俺は一回転。そのまま右足を下に向け、真下への飛び蹴りは、右足から噴き出る炎の翼によって威力が倍増されている。
ゴウッ!! とそのまま空を裂いての飛び蹴り。爪先が落ちていく悪夢の背中に突き刺さると同時に、炎が悪夢の背中を焦がす。
二連撃目。更に落ちていく悪夢の、その更に下へ俺は滑り込むと、最後に大きく息を吸い込んだ。
刹那、膨れ上がる右足の霊力と紅蓮の炎。周囲の倒れている木々を焦がし、地面を干からびさせて亀裂を入れ。酸素を凄まじい勢いで消費しながら。
――――落ちてきた悪夢へと、俺は最後の一撃を放った。
ドガアアアアアアアアアンンンン!!!!!
そんな鈍く重たい轟音が鳴り響くと同時に、右足の先から足首、膝にまで衝撃がひしひしと伝わってくる。一瞬で痺れる右足。そこからは炎が消え去り、黄金の霊力も右足だけでなく体全体に纏わりついていた。
当たった。
高威力の三連撃が、一つ残らずのクリーンヒット。
確かな手ごたえを感じた俺は、再び追撃を加えるべく膝を曲げる。
そして、悪夢の居る真上を見上げて。そして、目を見張った。
……博麗悪夢は、さっきの攻撃がさほど効いた様子も無く。
ただ、空中に浮遊していた。紅の瞳は、冷徹に冷酷に俺を見下ろしていた。