東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第十二章第五話「突破口」

走って、走って、走って。

悪夢が魔理沙を吹き飛ばすのを、俺はずっと遠くから見ていた。

間に合わないのは分かっていた。でも、あれで魔理沙は死なない。だから俺は、皆への追撃を防ぐべく一気に距離を詰めた。

その霊力の波動に、悪夢が気づく。此方へ振り向いた少女の紅の瞳と俺の蒼い瞳が交錯する。

俺と悪夢の距離は軽く見積もっても30mはある。そんな長距離にも関わらず、俺と悪夢は右拳を握りしめ。

 

「心刀[天開・羅刹]!!」

 

瞬く間に生成した刃と、黒い霊力の砲撃をぶつけ合った。

かなり強い衝撃が、羅刹から右腕に伝わってくる。痺れている手を無理やりに動かして砲撃を真上に受け流した俺は、射程距離拡張を用いながら大きく縦に切り裂いた。

しかし、それは悪夢に簡単に受け止められる。彼女の肌に触れたまま、ギギギと押し合う天開。

 

足りない。やっぱり、博麗悪夢にバーストの24%だけでは圧倒的に足りなさすぎる。

 

そう確信した時にはもう、俺の手から天開は消えていた。

そして、叫ぶ。右拳を軋むぐらいに強く握りしめ、強い意志を燃やしながら、大きく声を上げる。

 

「オーバーレイッッ!!!」

 

ゴオオッッ!! と右半身から”守護”の白い霊力が、左半身から”破壊”の黒い霊力が燃え上がった。

幻夢の霊力を俺自身の霊力で包み込み、借り物の力を自分自身の霊力にする技。

俺の中でも上位にランクインするオーバーレイを以ってして、その右手は悪夢へと矛先を向ける。

今や俺と悪夢の距離は5m。遠いようで、実は一瞬で終わる感覚。

互いに放てるのは一撃。俺と悪夢は同じような構えを取り、強く叫ぶ。

 

「滅壊ノ星撃!!」

「滅壊ノ星撃」

 

俺の右腕から、黒と白の霊力が渦を巻き、混ざり合いながら幾筋もの奔流となって肘の後ろへと放射される。

悪夢の右手に集まった黒い霊力は水風船の様に霊力をため込み、どぽんっと揺れた。

 

限りない至近距離。空中でお互いの殺気と視線はお互いを射抜き、体の捻りも何もかもを上乗せした拳は解き放たれた。

 

ドガアアアン!!! 

 

悪夢の滅壊ノ星撃が破裂し、俺に霊力の塊が幾つも当たる。

俺の滅壊ノ星撃は悪夢に突き刺さり、その体にしっかりと拳をのめり込ませている。

周囲に放たれるのは、尋常じゃない程の衝撃波。触れてすらいない地面は余りの威力に抉れ、窪み。大きな木は砕け散りながら、大気はビリビリと強く振動している。

余波ですら、常人にとっては必殺の威力を持っているような一撃の衝撃。俺と悪夢はダメージを負いながらも、一回その場から後ろへ飛び退る。

 

そして、ギャリイインと桜ノ妖を振り払う。

白の霊力が、空間を真横に割く。牽制にもならない一撃を、悪夢は片手で受け止めた。

 

スーパーノヴァやビッグバン等の自滅技は、悪夢には簡単に凌がれて俺が不利になる。

双対の禊、霊甲九十九は一瞬で砕かれる。

鬼丸は行動が遅くなる。羅刹は、天開も通用しない。

 

射程距離拡張の刃を幾度もぶつけながら、俺は頭を回す。

 

突破口を捜して。

ひたすらに。我武者羅に。


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