東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
そして、後二章で完結!!
……年内に、終わるかもです。今から、作者としては結構寂しかったり。
第十二章第一話「始まりの深夜」
悪夢を倒しに行く、その作戦が実行される当日の朝。
俺は悪夢との戦闘の被害が一番出るであろう、戦場に一番近い村へ行くことに成っていた。
時間はまだ深夜の三時。冬のこの時間帯は一番寒く、そして暗い時間だ。
咲夜さんや早苗、紅魔館メンバーは現地で集合する予定だ。しかし、俺はなるべく早めにそこへ行っておきたかった。
初代博麗の巫女、博麗幻夢。
彼女だけが使える、『博麗』の奥義を習得するためだ。
この一週間、それを練習してきたが上手く行ったことは一度も無い。もっと練習しておきたいのに、その時間は無い。
だけど、満足するまで練習してたら俺は絶対に遅れるだろう。それならば、早めに行っておいて思う存分練習しておきたかったのだ。
悪夢を、救うために。あいつを、助けるために。
俺は白玉楼を静かに出て、長い長い石の階段を下りていく。左右に並ぶ枯れた桜並木の上には、夜空が広がっている。その奥にある大きな黒い穴へ俺は身を躍らせた。
ゴウッ! と、次の瞬間肌を切り裂くように冷たい風が俺を襲う。空の上から地面へ落ちていく。風を防ぐ術は無く、俺は黒いマフラーに口元を埋めた。
浮遊感が、内臓を持ち上げる様な不快感を共に持ってくる。もうすっかり慣れてしまったが、俺は小声で呟いた。
「バースト」
呟いた瞬間に、バシュウッと青白い光が俺の体に纏われた。
出力、24%。限界。夜空を切り裂くように、まるで流れ星の様に見える青白い軌跡を描きながら俺は空中で桜ノ妖の柄を軽く叩く。
すると、そこから紫の蝶が飛び立ち、俺の背中に止まる。その数は段々と数を増やし、数百匹が俺の背中に付いた時には、もう大きい紫紺の翼が出来ていた。
翼で空気をとらえ、俺は羽ばたく。目指すはひたすら東へ。
蒼い眼は、夜空を超えて朝日を見つめている。俺は目に掛かった前髪を横に掻き分け、もう一度翼を強く震わせた。
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博麗の技を、まだ一欠けらしか教える事が出来ていない。
白い世界。博麗幻夢は一人でぼやく。
真を甘く見ていた。もう彼は、幻夢の最大の十八番である『滅壊ノ星撃』を完全にマスターしている。
……そして、『博麗』の奥義も彼は一度使っているのだ。原理は彼が使う、オールバースト。
無数の魂をその一身に集め、状況に応じて能力や共に戦う魂を決める。
オールバーストは、いわば幻夢や陽炎を霊夢や魔理沙に置き換えると言う技だ。
原理としては、悪くない。
しかし幻夢の思い描く『博麗』の奥義は、更にその上を行く。
それを、天音真は一度使っている。その技で、幻想郷を救い、過去に捕らわれ続けていた七賢者をも救い出した。
その技なら。悪夢を、救えるかもしれない。
幻夢は悪夢を助けたいと言う思いを、人間として持っていた。
しかしそれが幻想郷を護るために戦う少年に力を貸すものとして間違っていると言うのは、彼女が自覚している。敵を助けたい。真と幻夢が言っているのはそういう事だ。
がしがしと髪を掻き、幻夢はごろんと白い世界に寝っ転がる。無限に続く白い世界の果てに、彼女は自身の夢を描いた。
白い霊力で、形作られる風景。人差し指で彩られたその風景は。
「……まあ、もう無理なんだけれども」
幻夢によって、直ぐに壊された。
一応、真の役目は『人里防衛』だ。
だけど。彼は必要になれば、他人を全部無視して走り出すだろう。
本当の窮地に。そしてそれが必要だからこそ、霊夢は最大の戦力である真を『人里防衛』と言うところに待機させた。
それが、思い込みだとしても。
幻夢は、信じる。天音真が、自分の娘を助けてくれることを。
「――――結局、最後まで言えないのかな。悪夢、あんたの本当の名前は――――」
彼女の、呟きは。
小さく零れて、空気に溶けて消えて行った。