東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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「終焉へ」

博麗良夢が死んだと言うのは、次の日にはもう村の人は全員知っていた。

その無残な死にざまを見つけたのは一人の村人。『博麗の巫女』であり、強い力を持っている彼女を殺したのは誰なのか。村中がその話題で持ちきりになるのを、怪夢と霖之助は家に籠っている為知らなかった。

いや、知る必要も無かったのだ。良夢を殺せる実力者であり、その動機もある人物を、彼らはもう知っているのだから。

 

博麗悪夢。彼女だと。

 

重苦しい家の中。その一室で、霖之助はベッドに倒れ込んでいた。

仰向けの姿勢で、目を腕で覆って倒れている。窓にはカーテンが掛けられ、外の光は全くと言っていいほど入ってきていない。真っ暗な部屋で、霖之助は唯一人あの『幻想郷』が出来た日の事を思い出していた。

 

あの時、止めればよかったのだろうか。

彼女の夢を壊すという選択肢は、僕には無かった。その弱さが招いたのが、この姉妹同士での殺し合いだったのだろうか。

霖之助と怪夢は、親族として最初の発見者の次に良夢の無残な死体を見ていた。右腕は肘の先から無く、内臓は剥き出しになっている。紅く黒い岩壁に地面、水たまり。

マイペースで無表情な怪夢でさえも表情を曇らせる。霖之助は吐き掛けたが、他の人も居る手前何とか抑え込んだのだ。

 

僕が。僕は、僕を。そんなマイナス思考が霖之助を覆い尽くす。今、博麗悪夢は行方不明の状態だ。どこに居るのかも、何をしているのかも分からない。

 

そんな霖之助の部屋に、一人の訪問者がやってきた。セミロングの黒髪に、紫の瞳。

博麗怪夢だ。ドアを後ろ手に閉めた彼女は、起きているが反応をしない霖之助へ向けて口を開く。

 

「……良夢お姉ちゃん、殺したのは悪夢お姉ちゃんだよね」

 

確信を持った口調。そして、珍しく強めの口調で彼女は話す。

霖之助は腕を目の上からどかし、上体を起こした。

ドアの前で、真剣な表情をしている怪夢の表情が目に入る。眼の下に隈を付け、何も言わない霖之助は視線で続きを促した。

 

怪夢は、紫の瞳を輝かせる。

その眼には。確固たる決意と、恐怖が垣間見えた。

 

「私は、お姉ちゃんを……封印するよ。きっと、多分悪夢お姉ちゃんはこのままじゃ壊れちゃうから。そしたら、何の罪の無い人まで死んじゃうから。『幻想郷』にまで恨みを持っちゃうから。博麗の罪は、博麗が償うの。皆の支えを奪ったなら、支えにならなくちゃ行けないの」

 

霖之助は、ぼやけた頭で首を振る。

ダメだ、と。これ以上姉妹で殺し合うのは絶対にやったら行けないと。

 

「……ごめんね、霖之助さん。……多分もう、終わらないの。刻まれた『血の記憶』は、終わらせる以外に忘れる方法は無いんだよ」

 

見れば。

怪夢の姿は、巫女服であり。そして、手には式神とお札を持っている。

霖之助は、呼吸を止めた。一瞬。その瞬間に、怪夢は部屋を出ていった。

 

「ダメだ……」

 

誰も居ない部屋でただ一人、霖之助は呟き、叫んだ。

 

「ダメだ……!!ダメだ怪夢!!行くなあああああああああああああああっっっ!!!」

 

ベッドから跳ね上がると、霖之助は転び、徹夜明けの体で力が入らないのにも関わらず走る。

ふらふらで、色んな所に体を強く打ち付けながら彼は走った。走り続け、そして玄関に辿りつき。

 

 

――――――開け放たれた扉と、一つ足りない靴から。自分の叫びが届かなかった事を、霖之助は悟る。


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