東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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「譲れないものの激突」

幻夢の死を知って、一番怒った。そして、一番落ち込んだのは悪夢だった。

もう良夢が巫女に成って、一か月が経とうとしている。その働きぶりと優しさは以前とは違い皆に認められ、良夢は着々と母の後を継いで行けていた。

 

……しかし。転機は急に訪れる。

 

それは、良夢と悪夢が会ってしまったのが始まりだった。

雨が強く振り続け、空を灰色の分厚い雲が覆う、秋の日の事だった。

 

 

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良夢は、村の人の依頼で冬の貴重な食料となる熊を食べる妖怪を倒しに行っていた。

追い払うだけに留めた良夢だが、熊と言う動物を食料にする妖怪を相手にして疲労がたまらない訳は無い。かなりふらふらに成りつつも、村へと彼女はゆっくりと歩いていた。

 

悪夢は、冬の為に村の皆の分まで薪を集めに来ていた。

母を失ってからと言う者の、彼女は全く感情を表に出さない様になり、ただひたすらに皆の為に成る事をしていた。しかし彼女は、家族と一緒に居る子供の笑顔を見ると、少し表情を綻ばせる。

それを知っていた霖之助は悪夢にこの仕事を授け、村の人たち、子供の笑顔と触れ合わせることで悪夢を幻夢の死から立ち直らせようとしていたのだ。

 

その日も、雨が降っていた。だけど悪夢はその仕事を熱心にこなしている。しっとりと黒髪は濡れ、紅い瞳は陰っていた。

 

ざくざくと、落ち葉を踏みしめる。濡れた木は本来薪には使えないが、日光で乾かしたり。或いは、様々な妖怪や人に手伝ってもらうと言う手段も選べる。集めておいて損は無い、あるとすれば風邪を引きやすい事くらいだろうか。

 

小さな体躯に、背中に背負う大きな籠。そろそろ一杯に成りそうなそれを、悪夢は霊力の力でしっかりと支える。時には高い処の枝を。時には屈み、下に落ちている枝を。

順調に薪を集める悪夢。その大木の周りをぐるりと回り、木の無い、崖の岩肌から続く地面の場所を見つけた。

いや、その場所ではない。そこに居た、少女を見つけたのだ。

 

博麗良夢。彼女の緑の瞳と、悪夢の紅い瞳が混ざり合う。

 

ずっと、良夢は悪夢が幻夢の死について騒ぐだろうと。そして、自分自身へとその怒りを発散するだろうと思っていた。

別に、良夢は自分自身に怒りが解放されるのは仕方が無いと思っている。でも、彼女を傷つけた悪夢の方は、確実に村の人々から迫害されるだろう。

それを恐れて良夢は悪夢に近づかなかった。しかし、会ってしまったのだ。

 

「……お姉、ちゃん」

 

感情が無かった悪夢が、ぽつりと呟く。雨音に遮られ届きそうにない声を、良夢は霊力で身体能力が強化されているために聞き取れた。

どさっ、と今まで必死に拾い集めていた薪が全て籠ごと地面に放られる。水たまりに散らばった細かい木の枝を見もせずに、悪夢はゴオッと黒い霊力を体から立ち上らせた。

 

「お姉ちゃん……何で、平然と巫女なんかできるの?」

 

悪夢の問いに、良夢もまた白い霊力を立ち上らせながら答える。

 

「お母さんは、死にました。ですが、巫女は『幻想郷』が出来た以上必ず必要になります。私は、博麗の長女としてその使命を全うしなければなりません」

「そういう事じゃないよ」

 

切り裂く。

怒りの刃を以てして、久々に感情を露わにした悪夢は良夢の建前を壊す。

 

「何で、お母さんが死んで平然としてられんのって聞いてんの」

「……寧ろ、人の死は何時でも訪れる物です。何故それにそこまで捕らわれるのかが気になりますね」

「何時でも訪れるからこそ、その一瞬が大事で!そこに色んな思いとかがあるんでしょ!?」

「そうですね。私も悲しかったですよ。人並みには」

 

ぎりっ、と悪夢は奥歯を噛みしめる。

ゴギンッ、と拳が作られる。殴り掛かる寸前で、良夢は口を開いた。

 

「ずっと前に。私は、母の夢と『夢幻魂歌』という禁術について、霖之助さんから聞いていました」

 

白い霊力を纏いながら、彼女は言葉を続ける。

雨音に負けない様に、大きく。芯の通った声で。

 

「夢を追いかける事を邪魔するのは、如何なる理由があろうとも邪道だと私は思います。人が生きるのは、夢を叶えるため。霊力を扱いたい、そんな些細な事でもそれは夢です。人間は、それを求めていきます。じゃなければ、この生きると言う苦しいだけの道を歩まず、直ぐに死んで、楽な道に行くでしょうから」

 

だから、と良夢は続けた。

きっと彼女は大人よりも大人らしい、悪く言えばすべてに対して冷めているだろう。

でもそれは否定する理由が無いからだ。寧ろ、彼女は自身の決めた道には全力で取り組む。

料理だって。家事だって。妹との遊びだって。

 

母の夢を応援するのだって。霖之助に交わした約束を、守るのだって。

 

「私は、人の夢を応援し続ける。手助けする。それが、私にとってどんなに悲しい事でも!絶対に、後ろは向かずに逃げない―――――霖之助さんと、そして、幻夢お母さんと交わした約束です!!!」

 

悪夢が幻夢の死に衝撃を受けている以上に。

 

良夢は、本当に自分の選んだ道が正しいかを悩んでいた。誰も知らないところで、声を出して泣いたりもした。

人並みには。

 

家族が死んで悲しくない人間など居ない。人並みには、彼女は泣き叫び嘆き自分自身を恨み。

 

家族の絆が失われたことに、心を殺されかけていた。

 

「意味が分からないよ、それ。……お母さんの夢が、『幻想郷』を作っても死ぬことだったらさ!お姉ちゃんは、死ぬことさえも応援している事になるんだよ!?」

「それでも、私は自分の夢の為に駆け抜け、人の夢を叶えます」

 

悪夢に取って。

良夢の言葉は、完全に悪だった。

 

お互いに譲れないものが拮抗し、激しく火花を散らす。すれ違う。

 

ゴオオオオオオ!!!! と悪夢の右手と良夢の左手に白と黒の霊力が集められた。

 

凄まじい霊力の旋風。雨粒が揺さぶられ、不安定な気候がその場だけに展開される。

軋む拳。二人の少女は共に地面に亀裂を走らせ、蹴り砕き。

 

「滅壊ノ星撃」

「滅壊ノ星撃!!!」

 

叫び声と共に、衝突した。




悪夢VS良夢。

遂に、開戦です。

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