東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
その翌日。
博麗幻夢は、死んだ。夢幻魂歌を使って。『幻想郷を』創り出して。
霖之助の片角は折られ、七賢者は『幻想郷』を壊そうという者と残し、移住しようという者に分かれた。
その無駄な争いを無視して、霖之助は一人で帰っていく。夜の森を、一人で黙々と歩いていく。
彼女の決めた事に、家族でも無い僕は反論できない。出来るのは、笑って見送ってあげるだけ。
そう思い霖之助は彼女の夢幻魂歌の使用を手助けした。いや、してしまった。
彼女には、三人の娘が居る。まだ幼い娘たちが。
ずっと言い続けてきた言葉だったのに、最後の最後で霖之助はそれを振り切ってしまった。
丸一日かけて。彼は休みもなしに自分の家ではなく、幻夢の住んでいた家に辿りついた。ドアをノックし、霖之助です、と声を上げる。
間もなくして、良夢が迎えに出てきてくれた。彼女は霖之助の顔を見て、何かを悟る。
「・・・霖之助さん。実は、まだ夕飯の買い出しがまだなんですが、ちょっと重くなりそうなので手伝ってくれないでしょうか?」
妹たちを留守番させたまま、霖之助と良夢は二人で出かけた。
霖之助が訪ねてきた時間は、幻夢が居ないため無茶なところを通れず行きよりも時間の掛かった午後三時。
それでもただの人間と変わらない体力の彼がここまで早く来れたのは異常なのだが。
買い物を終え、荷物を持つ霖之助。ちょっとだけ、どうしても霖之助が持てなかったものだけを持つ良夢。とぼとぼと少女の後ろに着いて行っていた霖之助は、気づけば村のはずれにある小高い丘の天辺に来ていた。
その丘の頂上、真ん中に良夢は腰を下ろす。霖之助もそれに倣い、二人は揃って朱く染まる太陽を暫く眺め続けた。
「・・・何か、あったんですね」
良夢は聞かずに、それでいて断定した。霖之助が顔を横に向けると、そこには霖之助を見つめる緑色の瞳。
真剣に、嘘を許さぬ瞳。霖之助はすっと頷き、良夢へと告げる。
「・・・幻夢が、死んだ」
一言。だけどその重みは計り知れない。
――――しかし。良夢は微塵も表情を変えなかった。真剣な眼差しで、彼女は霖之助を見つめ、そして太陽を再び見る。遠くの山々に沈みゆく太陽。その光に目を細めつつ、良夢は言葉を紡いでいく。
「なんとなく、そんな気はしていました。お母さんが霖之助さんを一人で行かせるわけも無いですし、霖之助さんがお母さんに着いて行って帰ってきていると言う事は仕事はある程度終わり、安心できる状態と言う事です。それなのに貴方は、それを言わなかった。顔も暗かった。・・・気づいたのは、会った瞬間です」
聡い少女。緑の瞳は、尚もその鋭い視線を揺るがせない。
「私の能力は、全てを無に帰します。お母さんよりも、妹たちよりも全然霊力も少ない。強力な能力の、制御さえもままならない。・・・ですが、私はお母さんの後を継ぎます。お母さんに言われてましたしね」
悪夢の霊力は、幻夢以上だ。
怪夢の霊力も限りなく幻夢に近い。そして何よりも、その能力は常軌を逸している。
長女の良夢は常人と比べればとても高い力の持ち主なのだ。しかしその心の優しさと血の繋がっている家族の力が大きすぎるが故に、彼女は全く期待されてはいなかった。
幻夢の様な厳しさも。霊力も、強さも無い。
妹たちの方が優秀じゃないか、と言われるくらいには。
それを知って、良夢は宣言した。巫女に成ると。
彼女は、博麗家の長女ではない。
”博麗の巫女”。全てを守る力を持った、霊力の始祖の血を継ぐ少女。
霖之助は、何も言えない。幻夢を止めなかった事、止めれなかったことを悔いているわけでは無い。
その少女の強さに、ただただ言葉を失っていた。
ここで解説をば。
ネタバレ・・・は無い筈。これから一部読む人以外は。
幻夢さんは、霖之助の忠告と娘が居るのに夢幻魂歌を使いました。
しかし夢幻魂歌に必要なのは。『夢』と『霊力』です。
確かに彼女からは長年思い続けてきた『夢』は無くなりました。
でも、幻夢には同じくらい強い夢があったのです。(これは多分本編で)
だから彼女は、本当は夢幻魂歌を使っても生きていられたのです。
いや、生きていました。その彼女を殺したのは。
――――一部、ラスボス。黄昏です。
詳しい事は省きますが、まあこいつが居なければ幻夢は死にませんでした。
悪夢は『あくむ』を生み出さず。『あくむ』にも成りませんでした。
一部とも少しリンクしています。
『Memories of blood』四話と今回の話の間の事は、一部の『夢幻魂歌』という話に書かれています。
気に成ったら、どうぞ。読まなくても一応話は繋がります。
この章の目玉は、これからの『血の記憶』です。
過去の物語は、三姉妹が紡ぐ。
それがどう真君や魂の悪夢、幻夢にバトンタッチするかはお楽しみに。
では、また明日。読んでくださり、ありがとうございました!