東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
数学の授業中
ラギア(・・・千歳飴でポッキーゲーム出来るんじゃないか!?)
悪夢の誕生日パーティーは、アップルパイとダークマターで幕を閉じた。
荷造りを終えた幻夢は今玄関の前に立ち、ちょっと待っててと一言残して消えて行った三姉妹を待っていた。行く時と明日の妖力と魔力を封印する儀式には霖之助も来る。
三姉妹には、一日だけお留守番してもらおうと言う話だ。大きい荷物を背負った幻夢は、廊下の角からひょこっと現れた良夢、悪夢、怪夢と後ろに立つ霖之助の手元へ目が引き寄せられた。
「・・・お母さん」
「これ、頑張って作ったんだよ!!」
「霖之助さんが、今回の仕事は大変だって言ってた。だから、これ。三人で作った」
その手には、形の整ったお握り。三角形だけど、少し歪な味噌と焼いた肉の入ったお握り。丸いおにぎりが乗っかっていた。
幻夢はそれらを一つずつ丁寧に受け取り、満面の笑みを浮かべ三姉妹の髪を一人づつ撫でていく。
霖之助がバッグを持って、一足先に玄関を出る。彼の気遣いに感謝しながら、幻夢は全員をぎゅーっと力いっぱい抱きしめた。
「ありがとう。ありがとうね、良夢、悪夢、怪夢!行ってくるよ!」
「「「行ってらっしゃい!!」」
母の声に、娘たちが答える。玄関を開けた先から差し込む夕日に照らされた彼女たちは、玄関が閉じるまで笑顔で手を振り続けた。
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霖之助と幻夢が、もうすっかり空が藍色に染まった下をゆっくりと歩いていく。
妖怪は来た瞬間に死んでいる為、霖之助は安心して夜の森を歩けていた。幽霊でさえも真正面から叩き潰せそうな幻夢へと彼は目を向け、そしてまた前に戻す。
「・・・幻夢」
「ん?」
「例えばの話さ。もし明日、どっかの巫女さんが自分の夢を叶えようとしているとするよ?」
「う、うん。で?」
霖之助はそこで一息付く。自分自身よりも先を歩く幻夢へ向けて、彼は足を止めて言い放った。
「でも、そこに犠牲が伴うのなら。巫女さんの家族や、近くに居る人を思えるなら、絶対に止めた方がいい。絶対に、その人を大事に思って、待っていてくれる人は居るはずだから」
幻夢も、足を止めて振り返る。霖之助の片角は月明かりに輝き、黄色の瞳は真っすぐに幻夢の黒い瞳を射抜いていた。
ゆっくりと、”どこかの巫女さん”に対する言葉を聞いた幻夢は頷く。
そして、ポケットから徐にお握りを三つ取り出し、それらを味わいながら、それでも全部直ぐに食べきった。
満足げに息を吐き、水筒のお茶を豪快に飲む。
その後、勢いよく幻夢は前を向いた。右腕を大きく空に突き上げ、宣言する。
「さあーって!後二時間以内には到着するぞおー!」
「待って無理だからね!?あそこまで五時間は掛かるからあああああああ!!!」
走り出した幻夢を追いつつ、霖之助は絶叫する。
彼は気づいていた。彼女の声が、微かに震えていることに。さりげなく、目元を拭った事に。
今言ったのは、彼の本心だ。本音だ。彼女の心に響いたかどうかは、分からない。
それでも彼らは、今一瞬だけ、昔の無邪気に夢を追い続ける時へと戻っていた。
走る幻夢に、それを追いかける霖之助。それはまるで、彼らが出会った時の風景だったのだ。