東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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「誕生日パーティー」

一通りの話を聞いた僕は、むっすうと拗ねている悪夢の髪を撫でた。

幻夢の仕事上、しょうがないのだが。それでも、誕生日は祝ってもらいたいものだろう。

良夢、悪夢、怪夢には話していないのだが、今回の幻夢の仕事内容を僕は知っている。

それは、この地域一帯の妖力と魔力を封印する事だ。

それによって、封印はされない七賢者、そして霊力を持つ『人間』が実質最強の立場に成る。

幻夢や僕はこれに反対なのだけれど、決まっちゃったのだ。準備も含めて、明後日までに帰るのは厳しい。

だからこそ、か。これは今日、誕生日会を開くしかないだろう。幸い幻夢も今日の夕方までは居る。時間はまだまだあるし!

 

「悪夢、帰らないかい?」

「・・・やだ」

「そうか、そうか。じゃあアップルパイは食べれないなあ!」

「っな、何で!?」

「今から幻夢の家に行って、焼こうと思ってたんだけどなあー!?しょうがないよなー?」

「か、帰るし!・・・頑張って、仲直りするもん」

「そうだね。その後、ちょっと早いけど君の誕生日パーティーをしよう」

「い、良いの!?」

「勿論。幻夢も良夢も怪夢も悪夢も、皆で祝おう」

「やった!」

 

年相応の無邪気な笑みを浮かべ、悪夢はひょいと丸太から降りた。

僕の手を引いて、帰り道を辿ろうとする悪夢に着いて行くと、途中で再び声が聞こえる。

そっと耳を澄ませると、それも良く聞く声で。僕たちは手を繋いで、声の聞こえる方向へ歩いていった。

 

「良夢ー!」

「あっ、霖之助さん・・・と、悪夢!心配したんですよ、勝手に出て行って!」

「ごめんなさい、良夢お姉ちゃん。・・・ね、ね!帰ったら誕生日パーティーしよっ!霖之助さんがアップルパイを焼いてくれるんだって!」

「そうですか。それはとても良いですね!・・・私もごめんなさい、悪夢。帰りましょうか」

「うん!」

 

悪夢は元気よく頷くと、そのまま駆けて行った。慌てて追いかけようとした良夢は一度駆け出し、そこで止まり。

 

「霖之助さん、ありがとうございました。おかげで、悪夢も元気になりました」

「良いんだよ。ほら、行っておいで」

 

アップルパイ一つでこんなに元気になって貰えるのなら、安すぎる物だ。幻夢の家の厨房は真面目な良夢が仕切っているし、きっと綺麗だろう。使いやすそうだ。村の市場で林檎等を買ってこなければならないとは思うが、そこでは三姉妹と一緒に行くか。

 

・・・それとも、もう一度幻夢に念を押しておくか。絶対に、完全な『夢幻魂歌』は使うな、と。

僕が考えた技だけど、それは余りにも危険すぎる。

自身の夢と霊力を代償に、不完全ならば記憶を世界に映し出すのみの技。

 

完全ならば、夢を失い生きる気力をなくす代わりに、世界を夢の通りに作り替える秘儀。

彼女はそれで、僕と幻夢とその死んだ夫で砂に木の棒で書いた世界――――

 

幻想郷、を創ろうとしていたのだ。

 

僕が頑張って話したおかげで最近は滅多にその言葉を口に出さないが、無鉄砲で無茶ばかりする彼女の事だ。今回も言っておかなければ、いつやるかわからない。

草原を駆けていく悪夢と良夢の背中を眺めながら、僕はふっと柔らかい笑みを浮かべた。

 

 

☆★☆

 

怪夢が食べ終わったのか、台所へ食器を運んでいく。

私はまだ、立ち直れずに居た。やっぱり今回の仕事は断るべきだったのだろうか。娘の誕生日なのに。

でも、今回はチャンスなんだ。大規模な霊力展開が認められる儀式で、あの技を使っても誰も気づかない程度には霊力が解放できる。

霖之助も私に説教するのは忘れているだろう。

しかし残念。私は根っからの頑固者なのである。

 

私は、創って見せる。妖怪も人も、皆仲良く暮らせる。そんな世界を。

 

あの日、砂場に木の棒で描いた『幻想郷』を。

 

朝食に手を付け始める。誰に似たのか、良夢は本当に料理が上手い。

因みに私はダークマターを創るのは得意だ。どやあ。

 

豪快に御飯を口に放り込んでいると、くいっと服が引かれた。服の裾を摘まんでいるのは、紫の瞳を持った怪夢。どうかしたの?と尋ねると、

 

「・・・悪夢と仲直りする。アップルパイとか、甘いもの作った方がいい・・・」

「お前、私に料理をしろと?」

「私が、監督する。最近良夢お姉にお料理教わってるから」

「頼もしい・・・!!」

 

感動に打ち震えていると、家のドアが開く音がした。聞こえる声は三つ。どうやら霖之助が来たらしい。

 

「おかえりーっと・・・ご馳走様っしたー!」

 

目玉焼きを丸ごと食べ、咀嚼し呑み込む。

食器を台所に置き、私は財布を持って娘と霖之助を迎えに行った。


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