東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第十一章第五話「決戦前夜」

文に持ちかけられた、頼み事。

俺としては行かなくても良いのだが、悪夢が身を潜めている中で強くなるチャンスではあると思う。

何よりこれで俺が行かなかったら天狗が殺到するか偉い人の地位が危うくなる。勝手な決定と知られたくはないだろうし、だからこそ文を俺の処に送り込んだのだろう。

 

「・・・分かった。戦うよ」

「おお!!ありがとうございます!いやあ、真さんならそう言ってくれると思ってました!」

「で、俺にハンデは無いの?」

「ありません。・・・と、上層部は言っていますが、実は私今日は”偶然”里の名簿を持ってきてるんです。この名簿には能力や年齢、武器や身体能力テストの結果まで記されているんですよ。・・・どうです?興味出てきましたか?しょうがないですね、貸してあげますよ!」

 

黒皮のファイルを手にまくしたてる文。俺が頷く暇も、返事をする暇もなく彼女は俺に名簿を押し付けた。

 

「じゃ!私は明日の朝迎えに来ます、おやすみで~す!」

「お、おやすみー!」

 

シュバンッ!! と幻想郷最速を誇る文は白玉楼の出入り口まで飛びぬけ、長い階段を下っていく。

呆然とそれを眺めつつ、俺は付箋が貼ってあるページを開いた。

 

「・・・うわあ、『羅刹』ばっかりじゃん・・・。槍とか弓とか・・・」

 

顔写真、プロフィール。

そして能力や、文によって付け加えられた付箋による戦い方の解説など。

流石に今回のは悪いと思っていたのか、文の手の込んだ名簿はとても見やすく、すらすらと読めていく。

しかし覚えられるかと言われればそうではない。何故なら俺は、成績が余り良くないのだっ!!

 

周期表とかなら112くらいまで言えるが、歴史の年代は答えられない。

と言う事で俺は、文が要注意!! と言っているところを重点的に読み始める。

 

やはり、天狗系は風にまつわる能力が豊富で、要注意と書かれている奴らも例外ではない。

特に、里内で一番成績の良い男は俺を敵対視。女の子は俺を倒すべく、俺の行動パターンを計算しているらしい。とても怖い。怖いのだが。

 

「・・・俺、そんな考えて戦ってないから計算意味ないと思うんだけど」

「うん、本当にそう思う」

 

ぼそっと独り言を呟いた瞬間に、俺の右隣で長い黒髪が揺れる。俺の名簿を覗き込みながら隔は俺の横に座り、すっと顔を寄せてきた。

 

「この子、能力と身体能力的に弓。多分、軌道は曲がるから全部撃ち落として。この里内一位は刀だと思う。まあ、真なら負ける事無いよ!」

「お、お前どうしてここに・・・?もう夜遅いし、寝ておけよ」

「どこで寝ろと・・・。真の部屋は妖夢ちゃんが寝てるし、勝手に妖夢ちゃんとか他の部屋使うわけにも行かないじゃない」

「というか何でお前来たの?」

「レミリア様が『ジャムを作りたい!』って言い始めて、多く作りすぎちゃったからここまで持ってきたの。最初は咲夜さんと二人で行くつもりだったんだけど、丁度文さんが来てね。真を説得するために来たの」

「・・・レミリア様、見に来たり・・・」

「するよ」

「ですよねええええええ!!!」

 

大方、文がレミリア様に今回の事を話したのだろう。

俺が少し悩むのを見越して隔を送り込み、そして自分たちも明日妖怪の山へ行くと言う事か。

難易度が大きく上がった。これはつまり、レミリア様を楽しませつつ勝てと言う事にならないか・・・?

 

「これさ。隅っこで戦ってたらレミリア様に怒られるよな」

「アグニシャインだって」

「パチュリーかい!」

 

俺にバツを下すのはパチュリーらしい。早くも涙目である。

どうしようかと唸っていると隔は俺から名簿を取り、一通り目を通した。

そして二言三言呟くと、彼女は突然俺へと手を差し出した。

 

「真、ちょっと幻夢さんに、霊力を貸してほしいって言ってくれる?」

「・・・どうして?」

 

尋ねると。隔はにっこりと、可憐に。

 

そして、

 

「要注意人物の戦闘パターン。全部、再現して上げる」

 

――――さらりと。とんでもない事を、呟いた。


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