東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第十一章第三話「二泊三日!なにを、しているの?」

ぱちり、と目が覚めた。

何度か瞬きをして、寝っ転がったまま枕元に置いてある眼鏡を掛ける。ぼやけていた天井が障子から入る月明かりでぼんやりと映し出され、俺はもう夜か、と長く息を吐いた。

 

そして、ちらりと横を見た。

何気ない、本当になんてことない動作。俺としてはそこに対して意味は無かったのだ。

 

・・・が、しかし。そこには、妖夢がすうすうと小さく寝息を立てているではないか。

やけに紅潮した頬に、安心したような目元。緑のワンピースだけを着ている少女は、俺の鼻に吐息が掛かるほどに近い。

綺麗な銀髪に、整った顔立ち。隔と良く似ているようで、活発な彼女とは違う静かで厳かな雰囲気を漂わせる妖夢は、百人中百人が認めるであろう美少女だ。

 

・・・というか、そんなの全部ひっくるめて蹴り飛ばしても俺の理性がやばい。

待て、落ち着け。思い出すんだ、今日の記憶を・・・ッッ!!

 

「そうだ、風邪ひいて看病されて、妖夢が寒そうだったから布団に引き込んで寝てしまい、昼頃寝たため夜に起きてしまったところなんだな・・・・!」

 

え、俺マジで何してんの?

何で妖夢布団に入れてるの?何で妖夢は入ってきてるの?

 

そういえば、風邪は治ったようである。頭痛も何も無く、いつも通り。強いて言うならば理性が悲鳴を上げているくらいか。

・・・ちょ、ちょっとお手洗いに・・・。

 

そう思って立とうとすると、ぐいっと腕が引っ張られ俺は再び布団に倒れこんだ。

 

「行かないでくらさいよお・・・寒いじゃないですか・・・」

「っ!?」

 

寝ぼけ眼の妖夢が、倒れこんだ俺を胸元に引き寄せる。

体温が低い半人半霊。しかし彼女は布団で温まっていた所為かとても暖かい。

・・・が、俺の顔には妖夢の慎まやかな胸が当てられている。良い匂いもするが、それは同時に男性の理性を粉砕する最強の武器でもあるのだ。

とくん、とくんと鼓動が聞こえる。呼吸で上下する胸は時折強く押し当ててきたりするし、ぎゅーっと抱き枕感覚で妖夢は俺を抱きしめて来るのだ。

・・・妖夢、良い香りだな。うん、心を無にするんだ。妖夢柔らかいな。黙れよ俺。殴るぞ天音真。

 

もじもじと、妖夢は俺に足まで絡めて来る。太ももの内側を膝で撫でられ、くすぐったさと恥ずかしさが一瞬で俺を包み込んだ。

 

こ れ は や ば い。

 

まるで某狩りゲーの海竜の雷撃に当たったかのように、俺の脊髄を砕け散った理性の欠片が通っていった。

耳元にかかる吐息も、押し当てられる柔らかな胸も絡みついてくる足も全て忘れる。

 

・・・ああ、こんな所隔に見られたら・・・

 

死n

 

「やっほー真!遊びに来たよーーー!!!」

 

スパアアンッッ!!!

 

これ以上無いくらいにハイテンションでハイスピードで、俺の部屋の障子が開け放たれた。

寒いのかいつものメイド服の上に白い裾の長いコートを羽織っている。手には紙袋、後ろにはカメラを構えてにこやかに笑っている烏天狗。

 

「・・・」

「・・・」

「・・・」

 

寝ている妖夢以外が、全員そのままで固まる。

 

次の瞬間、俺の脳裏を過るのは―――――今までの記憶である。

俗にいう走馬燈。烏天狗は幻想郷最速を以てして、スキャンダル好きなのにも関わらず写真を一枚も取らずに逃げ去った。

 

いや、これの前には百獣の王、ライオンでも尻尾を巻いて逃げ出すだろう。

俺の高校の校長先生でも話を速く切り上げるだろう。

 

目の前には、黒い瞳からハイライトを消した魂魄隔。

月明かりを背負い、夜空をバックにしながら、少女は瞬き一つせず虚無の広がる光の無き瞳で俺を見つめる。

その顔に、表情は無い。絶対零度を超えたであろう冷気が場を支配する。

 

・・・少女はやがて、にこり、と柔らかい笑みを浮かべた。

そして、首を傾げる。瞬きはしない。とすん、と紙袋が地面に落ち、隔は・・・一言。

 

 

 

 

「何を、しているの?」

 

 

 

テントウムシは、死んだふりが出来る。

それは昔から天敵に食べられない様にする自衛。長い歴史を築き作られてきた『本能』は、今のテントウムシの生態となっている。

死んだふりをしているテントウムシは、動けない。動かないのではなく、動けない。

 

俺は動けない。

ひたり。と隔が一歩踏み出した。

 

そして俺は、本能の赴くままに、目を閉じる。

意識が間もなく闇に落ちる。

 

生を諦めた俺にとって、それくらい、なんてことの無い技なのである・・・。


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