東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第十一章第二話「二泊三日妖夢、幸せ・・・!?」

上半身だけを起こしている真さんの口元に、スプーンに乗せたお粥をゆっくりと運んでいきます。

真さんはそのまま少しだけ口を開いて、でも一粒も零さない様に食べきってくれる。作った人としては、とても嬉しいです。

 

しかし、とてつもなく恥ずかしい状況である事は事実。実をいうとスプーンを持つ手は震え、顔が熱いです。爆発寸前です。

でも、真さんが風邪を引いたのは雨の中私たちを助けに来て、それで戦ってくれたからなんですよね。あれから二日間が立ってからの発症ですが、ちょくちょく頭が痛いと言っていたので軽くはあったのでしょうか。

 

・・・二人だと間が持ちませんね。真さんはヘタレ・・・というか風邪ですし、私は元々人と全然話さない性格でしたから。この沈黙も我慢できなくはありませんし、真さんとの沈黙はとても安心すると言うのが本音でもあります。

だけど、この状況は不味いですね。

普通に考えて丸二日間は真さんと二人っきりの訳です。ああ、気分が高揚しま・・・せんよ?

本当ですよ?本気ですよ?はいそこ、斬りますよ?

ましてやこの俗にいう『はい、あ~ん』状態。誰かに見られたら悶絶ですね。

 

まあ、実はちょっとやってみたかったりして。誰も見てないですし、少しはやっても良いですよね。

と、言う事で。

 

「し、真さん」

「・・・ん?」

 

「あ、あ~ん」

「・・・・!!??」

 

何故でしょうか。真さんの顔が更に赤く成りました。

口をパクパクと魚の様に開閉させ、瞬きを何度も繰り返す。いつ見ても綺麗な蒼い眼です。

 

「真さん、早くしなきゃ適温を通り越して冷たくなりますから」

「あ、あい・・・」

「はい、あ~ん」

「あ、あーん」

 

そろそろ緊張で押しつぶされそうなので、催促。ちょこっと小首を傾げた処で、真さんは堕ちました。

失敬、口を開きました。スプーンをゆっくり入れ、真さんが口を閉じたところで抜き取ります。

 

「美味しいですか?」

「・・・美味しいです。はい」

「ふふふ、良かったです!」

 

嬉しいです。素直に。

一番最初の出会いは突然抱き着いてきた真さんを刀で殴り飛ばすと言う最悪な出会いでしたが、今となっては大分仲良くなれたと思います。

そろそろ真剣勝負では勝てなくなりそうですね。

・・・寂しいけど、師匠としては嬉しい。半人前が何を、と思うかもしれませんがね。

 

 

 

その後、真さんは鍋に残っていたお粥を見るからにきつそうに、でも

 

『腹減った。食わせろ!』

 

・・・と、全て食べきってくれました。

うんまあ、案の定今ぶっ倒れているのですが。氷嚢を額に乗せ、布団をしっかりかけなおします。

水と薬を飲ませると、真さんは直ぐに寝てしまいました。何分間か頭を撫で、私はお盆にコップや鍋を置き、台所へと向かい始めました。

 

水道から流れる水も、冷たくなってきました。

指先がかじかみ、赤く成るのを時折息を吐きかけて何とか動かします。お皿洗いも楽ではありません。

今日はいつもの服ではなく、緑のワンピースに白いカーディガンを羽織っています。寒いので、どちらも長袖ですが。

真さんの言っていた『ゆかだんぼう』とやらが欲しいですね。というかもうそろそろ炬燵、出してもいいのでは無いでしょうか・・・?

 

水差しとコップを持って、再び真さんの元へと戻ります。

なるべく近くに居てあげなきゃですね。これ以上悪くなったら大変です。永遠亭まで行くのも大袈裟なので、緊急時以外は白玉楼を出ない様にしましょうか。

 

寝ている真さんの枕元に腰を下ろし、お盆を近くに置いて私は正座しました。

昔っからこれでしたから、もう正座が一番落ち着くんですよね。ワンピースだから下着も見える可能性がありますし。時々足が痺れますが・・・。

 

ちく、ちくと時計の針が規則正しく狂わないリズムを刻みます。すうすうと寝息を立てる真さんは弟の様で微笑ましく、思わず真さんの前髪を整えてしまいました。

 

「・・・ん」

「あ、すいません・・・。起こしちゃいましたか?」

 

そんな事をしていれば、真さんが起きるのも当然ですね。重たそうに瞼を開き、じっと此方を見つめてきます。

結構恥ずかしいのですが・・・。そう思って顔を手で隠すと、突然真さんが手をがしっと掴んできました。

 

「え、えっ?」

 

そのまま、病人なのにやけに強い力で真さんの寝ている布団の中へ引きこまれました。布団の端に移動し、わざわざ私のスペースまで開けて。

 

「・・・指、赤く成ってる。俺の傍に居てくれるのはありがたいけど、寒いだろ。・・・ここ、暖かい」

「あっひゃいそうでひゅね!」

 

どうやら、真さんは頭が回って居ないようです。細かいところには目が行くのに、何故に自分の寝ている布団に女の子をあんなにスムーズに誘導できるのでしょうか。

まさか手練れ・・・と考え、それは無いと直ぐに割り切ります。失礼ですがね・・・。

 

というかヤバいです。何がって、もう真さんにかじかんだ指先握って貰いながら同じ布団で狭いから密着しちゃって真さんの良い香りがすぐ傍にあって・・・!!

 

(ふにゃあああああああああ!!!)

 

心の中で、というかもう実際に布団に顔を埋めて小さく叫びました。

これが幸せと言う物なんですね。至福です。

 

・・・ああ、眠くなってきました。

真さんの匂いには、安眠効果(当社比)があるようです。

 

看病しなきゃ行けないのに、段々と微睡が私を包み込んでいきます。

暖かい布団、包まれた両手。

 

抗えるはずもなく、目の前で寝始めた真さんに吊られるように、私も寝てしまいました。


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