東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第十章最終話「それ以前の問題で」

明ケノ夜空の刃の側面に左手を押し当て、俺は根元から刃の先までスライドさせた。

すると、刀が強く金色に輝く。遠くにいる雷へ向けて、俺は輝く明ケノ夜空を振り下ろした。

 

「サンピラー」

 

ドッ!! と。その瞬間、黄金の支柱が天から雷へと降り注ぐ。慌てて回避するも、肩をそれは掠めた。

雷は左肩を庇いながら、彼岸ノ妖を持ち直す。切っ先が俺へ向き、雷は呟いた。

 

「ロストバースト」

 

再び、黒い霊力が雷の外骨格となり彼に纏わりつく。頭には二つの大角が後ろへと生え、黒い翼は片翼ではなく遂に両翼へ。

腕と足が、神話に出て来る悪魔の様に爪は尖り筋肉質に、黒く煌めく。

 

霊力の波動が、数十m離れている俺の白衣を揺らす。裸足の指で地面を掴むと、俺は雷が来るよりも先に、奴へと飛び込んだ。

黄金の軌跡が、宙に描かれる。24%の霊力が右腕に集中し、黒い刻印がリング状に浮かび上がり俺の右腕を中心に回り始めた。

 

霊力が増幅され、48%の幻夢の霊力が体中を駆け巡る。しかし、器が大きくなった俺の体が耐えきれなくなり壊れると言う事は無い。今まで以上の速度を出しながら、悪魔とも呼べるであろう外見の雷へ明ケノ夜空を叩き込む。

 

ドガアン!! と、それは雷の彼岸ノ妖に受け止められた。ギギギと鬩ぎ合う中で、雷は翼を広げ、俺へ鋭く打ち込む。

 

「壊せ、陽炎!!」

 

だがしかし、翼の攻撃はクールタイムを済ませいつでも使用可能だった陽炎の能力が破壊した。

一瞬、微かに雷に動揺が走る。そこを逃さず、俺は明ケノ夜空のもう一つの力を解放させた。

 

突然。鍔迫り合いを繰り広げていた明ケノ夜空が、空気に溶けて消えてなくなる。

反動で飛び出してくる彼岸ノ妖をバックステップで回避すると、何もない右手で俺は雷へ切り掛かった。

 

瞬間、光の粒子が集まり明ケノ夜空が瞬時に生成される。虚空から現れた刀の斬撃を諸に受け止め、雷はロストバーストの外骨格に亀裂を要れた。

明ケノ夜空の、固有能力。それは[サンピラー]という黄金の霊力を打ち出すのと、今の様に敢えて散らしたのを瞬時に生成できることだ。

自ら刀を空気に消し去る。見えなくなるだけで、まだ霊力として存在するそれを生成すれば、相手の盾や刀を躱しつつ斬撃が打ち込めるのだ。

 

ロストバーストは、もう見切った。

雷は電撃を纏い、自身の速度を上げる。しかし、もう遅い判断。

 

ギュルウッ!!!! と、俺は右足の爪先で鋭く地面を掴み、ブレーキを掛けた。

砂利が舞う。限りなく低い状態で俺は左足の指先にも力を入れると、

 

――――両足で、地面を砕き割った。

 

炸裂音と共に、俺は一気に雷の視界から消え去る。

正確には、遥か上空へと飛びあがった。

 

急な事に、奴は付いていけていない。俺は羅刹ー明ケノ夜空ーの柄を両手で力強く握りしめ、雷へ狙いを定める。

 

風を切り裂きながら、地面へと迫る。頭を下にしながら、俺は足から噴き出る霊力を炎に変換。ジェットエンジンの様に加速する俺に、今更雷は気づき。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

そして、俺が全力で突き出した刃にロストバーストごと腹部を貫かれ、そのまま吹き飛んだ。

 

ドガンッ!! と体を強く地面に叩き付けた雷は、気力が保てなくなったのかロストバーストを霧散させた。

黒い霊力が、雷の体の中へと戻っていく。青空の下で仰向けに倒れ、血まみれのまま奴は動かなかった。

さっきまでの轟音が嘘のように、静まり返る。

風が吹き抜け、少し紅葉してきた葉を散らしていった。俺は刀を消し、ドライブを解く。

バーストの出力が、15%に戻る。色も、優しい青白い色に成った。

 

気は抜かない。そう心に留め、俺は雷へと歩み寄った。

 

「・・・生きてるよな」

「死にかけだ。限りなく死にかけで・・・死にたいと思っている」

「そうか」

「ああ、そうだ。・・・安心しろ、このまま僕が死んでも、それはお前が殺したと言う事にはならない。唯の衰弱死だ」

 

話しかけると、雷は腹部を抑えながら呻いた。

どこか寂しそうに。そして、どこか安心したように雷は死にたい、と呟いた。

 

だが。

 

「そうか。実はな、俺は一つ夢があるんだ」

「何だよ、自慢か?・・・死にかけの奴に、何を話す」

 

俺は、人が生きる理由を”夢を叶えるため”なんだと思っている。

それが例え、主人公に成りたいでも。結婚したいでも、彼女が欲しいでも同じ事だ。

 

それらは全て夢。大きさは関係なく、全ては些細な事でもそれを叶えるために生きているのだと。

 

雷は生きている。勿論、俺も生きている。

 

 

 

「俺は、全ての人を助けたい。救いたい。夢を叶えるために生きる俺の夢だ」

「・・・ああ、そうかい。ご立派だなあ」

「だろう?だから、俺はお前も助けるつもりだ」

 

俺は雷を、優しく持ち上げる。

弱弱しい鼓動と整っていない呼吸を間近に感じ、俺は膝をぐっと曲げた。

 

「お前のやった事は、許されない事だと思う」

 

力を溜め、俺は一気に跳ね上がった。

何も言わない雷を担ぎ、そのまま虹色の結界へと跳んで進む。

 

 

「だからと言って、それが生きる事を辞める理由にはならない。それが、俺の夢を叶える事への障害にはならない」

 

俺の夢は、全ての人を助ける事。

 

「お前が悪とか正義とか以前に、俺はお前を助けるっていうのが夢の一つでもあるんだ。だから、それを強引に叶えさせてもらう。死なせたりはしない。異論は勿論、何一つ認めないぜ」


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