東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
えっとですね・・・
正直に言うと、寝落ちしました。
朝までずうっと寝るレベルの奴です。はい。
すみません、でも今日はちょっと長めです。
では、どうぞ!
(・・・幻夢さんが居て、しかも[隔離する程度の能力]が使える状態で、私に攻撃が通った!?)
隔は真横に吹き飛ばされながら、頭を回す。
今の彼女は、全身体能力が大幅に向上している。そして、隔離する程度の能力。この世から隔離すればそれは消滅する。
一瞬で出来るその動作を、出来なかった。これは、彼女の知覚を反応させないレベルの速さが必要だ。
例えばの話。もし、5m先から最高時速の新幹線が来たらどうだろうか。
避けられはしない。でも、それを見る事は出来るはずだ。
一瞬でも。そしてその一瞬が、命を奪い合う殺し合いには重要になる。
今の攻撃には、その一瞬が存在しない。反応できないと言う事は、喰らい放題と言う事にもなる。
「っ・・・鎌鼬・・・!」
だが、その速さまで到達するには勿論妖力を溜めなければならない。連射は不可能だ。
隔は血が出ている脇腹を霊力の蓋で閉じ込め、黒い刃を交差させる。
ドガンッ!! と、雷の電撃を纏った斬撃が黒い刃の交差点を穿つ。ギリギリと霊力の差、そして男女にある力の差で段々と隔が下に押さえつけられていく。
(どうする。身体能力で負けてるから、真みたいにガチンコは出来ない。・・・何で真はガチンコ出来るのかな。それより、作戦を練らなきゃ。時間を稼げる、方法を)
「妖夢ちゃん!白楼剣投げて!」
「はっ、はい!」
後ろで傷を抑えていた妖夢に隔は声を掛ける。動かない右手を庇いつつ、妖夢は左手で短刀を投げた。
「幻夢さん、[八咫烏]お願いします!」
その短刀に、黒い霊力が纏わりつく。
それは大きい、漆黒の翼を広げ光沢を光らせる嘴を持つ烏。
羽が空気を打つ。急加速した八咫烏は雷へと体当たりを噛まし、少しの時間を稼いだ。
隔は大きく後ろへ飛び退り、そして雷のロストバーストの外骨格へ狙いをつけ、
「隔離して!」
右肩の骨格を、50cmだけ破壊した。
「・・・隔の隔離する程度の能力って、限界があるよね」
雷は右肩を修復しながら、片翼を持ち上げた。
「上限の単位って、立方センチメートルかな?質量?・・・そんな感じだよね。うん、だから僕ごと消さない訳だ」
意外に早く能力の弱点を見破られ、隔は感嘆すると同時に歯を食いしばる。
その通りだった。彼女の能力は、一度に隔離出来る大きさが決まっている。
雷がロストバーストを使わなければ、何の躊躇いもなく彼女は雷を消し去っただろう。
それが出来ないのは、正にそのロストバーストの所為。
悪夢自身を霊力として具現化し、それを自分の体に纏うと言う事は、
「力の結晶である霊力。質量をももつこれを、世界最大の霊力を纏う僕の事はロストバーストのある限り消せないって事だ」
黒い霊力の隠された口元の口角が、吊り上げられる。
濁った眼だけが隔を捉え、忌々し気に雷を見つめる隔もまた少年の眼を射抜く。
「・・・ああ、そうだ、あと一つ」
その場に、妖力が吹き荒れた。
隔の心臓が、ドクンと高鳴る。それは彼女自身の体にあった、あの力。
「ゲームオーバー、だ」
ドズンッ!!!! と。
そんな音を立て、今まで隠れていた暴走妖達が一斉に雷の後ろへと降り立った。
圧倒的戦力差。
妖夢は戦えない。それに、彼女を戦力に居れたとしても――――
2対100。その差は、余りにも無慈悲で、そして今まで用意し続けた雷達の順当な結果と言えるものだった。
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時は、少し前に戻る。
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右腕が動く。
傷だらけの右腕、そして枯れている窓際の草木を見て、俺の[恵まれる程度の能力]が無意識化で発動していたことを知る。
どうやら、あの夢は嘘じゃないらしい。能力が、皆の記憶を呼び寄せ、俺の魂の穴を埋めた。
そういう事だろうか。
ベッドから降りても、特に何もない。
白衣のまま、スリッパが無いため包帯ぐるぐるの裸足でドアを出る。
すると、丁度目の前を霊夢と魔理沙が飛んでいくところだった。
「お、おはよう!」
「おはよう」
「おはよーだぜ」
慌てて声を掛けると、一応返してはくれたが霊夢と魔理沙はそのまま目の前を通り過ぎていく。
・・・そして、ぐるんと一回転して戻ってきた。
「おおおおおおおおおおおおおお!!!???真、お前起きたのか!?」
「起きたよ、復活したよ」
「また死にかけて、馬鹿じゃないのっ!?」
「わ、悪かったって霊夢!・・・で、今すごーく強い霊力と妖力感じるけど、どういう状況?」
ずいずいと前に出て来る二人を宥めると、急に真剣な表情になった霊夢が唇を動かした。
「・・・雷が襲撃してきたわ。今は患者さんを安全なところまで送って、それが終わった処」
「そっか。もう中に人は居ないんだよね?」
「そう。もうそろそろ貴方を運びに鈴仙が・・・」
「霊夢さん、魔理沙さ~ん!来ましたよー!」
「やっほ、優曇華」
「あ、真さん。どうもでー・・・・・・ふえええええええええええ!!??」
「起きたよ。うん、元気」
さっきと同じことになるのを見越して、俺は優曇華へと先に告げる。
ああ、そうなんですかー、と優曇華は笑みを浮かべ、
「いや納得できませんからね!?」
すぐさま突っ込んできた。
「うん、まあ・・・・あとで説明す・・・るっ!?」
しかし、次の瞬間急に永遠亭が揺れ、壁に無数の亀裂が走る。
もう持たない。逃げようとしたその時。
ドッガァアアアアアアアアアッッッンン!!!!!!
轟音。砂煙。衝撃。
大きい建物が、一瞬にして倒壊した。
巨大な瓦礫の連鎖が、真上から俺達を襲う。霊夢が結界を張ろうとし、魔理沙がマスパを放とうとするが、どう考えても間に合わない。
だから、俺は動いた。
右手を真上に向け、そこから青緑の砲撃を打ち出す。
地球のエネルギーを恵んでもらったその砲撃は瓦礫を瞬く間に粉にし、空へと続く大穴を創り出した。
「何、今の・・・!?」
霊夢が驚いたように呟く。優曇華と魔理沙が絶句する中、俺は体に巻かれた包帯を取りながら三人に向けて言った。
「えっと・・・悪い、霊夢達は患者さんを結界で守ってて?それも、とびきり強い奴で」
「し、真はどうするの?」
シュルルル、と包帯が完全に取れる。
それを地面に捨てると、俺は彼女らに向けて、笑みを浮かべた。
「ちょいと、また無茶してくるよ」
青緑の光が俺を包み込む。
幻夢はどうやら居ないらしい。中に感じる、暖かい魂へと俺は語り掛ける。
「行くぜ、陽炎ちゃん」
『・・・・陽炎ちゃん言うな』
ちょっぴり不貞腐れている彼女に苦笑をこぼし、俺は膝を曲げる。
ばねの力を溜めるように重心を落とし、そしてそのまま解き放つ。
一陣の風が吹き抜ける。そこに、俺はもう居なかった。