東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第十章第九話「ピエロ」

「隔さん・・・!」

「久しぶり・・・でも無いのか。こんにちは。あの時はごめんね。あんな頼み事しちゃって・・・。ありがとう、妖夢ちゃん」

「もう、大丈夫なんですか?」

「うん、バッチシだよー!真が助けてくれたからね!・・・さって、まずは雷か」

 

妖夢に微笑んだ隔は、襲い掛かってきた翼を右手の刀で軽くあしらう。

くるりと振り返った少女は、青白い霊力を黒く染めながら話しかけた。

 

「お久しぶり、高校での一年一組に居た子。いやあ、成績優秀だったねえ。うん」

「・・・全部満点のお前が、嫌味か?」

「いや?私は嫌いな人に本音以外ぶつけないから。嫌味とか言わないよ」

 

あからさまな挑発だった。

雷の殺気が少し強まる。幾ら何人も人を殺していると言っても、彼は数か月しかここに居ない。

真や妖夢の様に戦い方が決まっても居なければ、妖夢や夢月、霊夢の様に才能がある訳でも無い。

 

ただ、同じ高校の同級生の挑発に乗る。その程度の、少年だった。

 

天音真は、普通の少年だ。高校生だ。

雷は、成績優秀な少年だ。高校生だ。

 

しかし真は、幾度も幾度も死線を潜り抜けてきた。

しかし雷は、幾度も幾度も力でごり押ししてきた。

 

雷の持つ武器は、その悪夢の能力と絶大な霊力による圧倒的アドバンテージ。

 

そこを埋められれば、彼は勝てない。故に、挑発に乗る事は悪手。

 

それを分かっている雷は、隔の言葉を無視する事に徹し始める。

隔が、それを分からない筈がないのに。

 

「んにゃまあ、主人公とは良く言ったもんだねえ。ねえねえ、主人公って誰が決めると思う?」

「・・・自分が中心になれば、おのずと自分で気づく」

 

「残念、一番近くに居る人だよ」

 

隔の黒い霊力・・・幻夢の、破壊の霊力が黒みを大きく増す。

口調が強く厳しくなり、それは開戦を合図した。

 

「私の主人公は真。貴方は主人公じゃないし、貴方を主人公と言ってくれる人はもう居ない。・・・さて」

 

それは、遠くから聞こえただけだった。

バーストは、身体能力を高めるだけの技。そしてそれは何も、筋力だけではない。

 

聴覚や嗅覚、更に言えば第六感までも高める。

 

最後の方の言葉だけが、隔の耳に届いた。

だから、彼女は最後にこの言葉を選ぶ。相手を嘲笑うような声音で、

 

「ピエロはどっちかな?」

 

刹那、ドズンッ!! と雷の刀が地面に突き立てられた。

地中を進む霊力が、隔へと迫る。声を上げようとする妖夢を隔は手で制し、地面に強く足を叩き付けた。

 

するとどうだろうか。

いきなり、雷の霊力が消え去った。驚きを隠せない雷へと隔は右手を向け、

 

「・・・・[隔離]して」

 

パチン、と指を打ち鳴らす。

 

次の瞬間。まるで根元から食いちぎられたかのように、ロストバーストの翼が無残な傷跡を残し消え去った。

 

「幻夢さんが、私に可能性を示してくれたの。私の能力を見抜いて、それで使えるようにまでしてくれた」

 

地面を蹴り、隔から前へ飛び込む。低い姿勢から逆袈裟気味に右の刀を振り上げ、直後に左の刀を振り下ろした。

ガギイン!! と流石にそれは彼岸ノ妖に防がれる。

 

しかし、もう右の刀が雷の脇腹を切り裂いていた。

 

二刀を用いての、圧倒的手数で押す戦法。

雷の攻撃は全て[隔離]されて届かない。狙うならカウンターだが、無暗な大出力はそれこそがカウンターが危険だし、高校生である雷に剣道日本一の隔の連撃は止められない。

 

だけど。それだけ有利な状況であっても。

 

 

脇腹に刃が食い込んだ瞬間に、隔自身もまた、風の刃を喰らっていた。


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