東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第十章第七話「想いも夢も幻も」

・・・抱き着いた俺は、直後に刀で殴られ吹き飛んだ。

うわあ痛そう、と思いつつも、あれは俺の体である。

頭のあたりを摩り、俺は銀髪の少女をじっと見つめた。

 

端的に言えば、少女は隔と酷似していた。

眼の色と、髪の色。髪の長さ。隔との違い何てこれくらいで、他は見分けがつかない。

二人が入れ替わろうと思えば、俺は簡単に騙される自身がある。それくらい、二人は似ている。

 

「・・・あの子の名前は、魂魄妖夢。君の剣の師匠さ」

 

恵が呟けば、世界は再び変わっていく。

今度は、彼女の右足が段々と消えていっていた。

 

記憶が・・・魂が所々抜けている俺は、妖夢という少女を見るのは初めてだった。

初めて会ったのは、いつだろう。でもこれは、最近じゃない。

俺自身の右腕の傷を見て、そう直感する。

今の右腕は物凄い傷跡が無数にある。そして、動かない。

 

「キミは、妖夢とかなり長い間一緒に居たね。・・・彼女はキミを慕い、キミも彼女を師匠と慕っていた。そろそろ、断片的に思い出してきたんじゃないかな?」

 

その通りだった。

 

妖夢の持っている剣。二振りの刀は、楼観剣と白楼剣。

思い出す。思い、出せる。

魂魄一刀流。少女を氷の中から救い出したことも、厳しい修行に付き合ってくれたことも、夜の草原で戦ったことも。

全てが鮮明に、くっきりと瞼の裏に再生された。

 

青緑の風が吹き荒れる。

それは俺の体の中に吸い込まれ、その度に少女との記憶が脳裏を駆け抜ける。

 

夜明けに、彼女は俺の前に立ちふさがった。

自分の気持ちを殺して。人の気持ちを、尊重した。

動かない筈の右腕に、何故か熱い物がふつふつと煮えくり返り始める。

 

「俺にとって、妖夢は大切な人だった」

「そう。それに気づくのがもう少し早かったら、どんなに良かったか」

 

あの朝。

隔を助けるために抜け出した俺の前に立ちふさがった少女と、手を取り合えていたらどうなっていただろう。

後悔が胸に燻る。その手を伸ばさなかった自分が、ただただ激情をぶつけただけの自分がいつになくみすぼらしい。

改めて記憶を辿る事で、やっと妖夢の大切さが、いかに彼女が俺の事を気遣っていてくれたかが漸く思い出せた。

 

「でも、妖夢はまだ君を信じて、キミの為に戦ってくれるんだ」

 

恵の右足が、消えていく。

 

金色の粒子は、風に溶けていく。俺の右足が、金色の輝きを纏う。

 

――――世界が、変わる。

 

 

「こんな処で、燻ってるなよ、天音真。君には今や、七賢者の血が流れているんだ」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

蒼い霊力が朧げになっている俺の目の前で、爛漸苦の首が吹き飛ばされた。

紅魔館に来て、俺の居場所を奪い、そして大事な人たちを傷つけ続けた憎い奴の首が。

俺より何倍も強い奴の首が、雲を切り裂いて舞い降りた少女の刃によって呆気なく飛ばされる。

 

『・・・お前は、誰だ』

 

俺が震える声で呟く。

少女は端的に、短く、銀の刃を鞘に納めながら返した。

 

『・・・私は、暁』

 

赤いマフラーが風に靡く。

その少女の眼は、どこまでも黒く、そして濁り切って居た。

 

 

「暁。・・・夜明け、か」

 

ぽつりと、俺は呟いた。

国語の授業で聞いた事があった。それだけの知識。

 

「そうだよ、夜明け。・・・絶対に明けない筈だった夜に囚われていた朝さ」

 

恵の左足が溶けていく。宙に浮かびながらショートカットを風に躍らせる彼女と同時に、景色が移り変わる。

 

再び、景色が俺の脳を駆け抜けていく。体が暖かい感覚に包まれる。

 

魂に空いた穴が、段々と、埋められていく。

確かに。ゆっくりと。

 

少女が、魂が不完全な状況で俺を殺すだけに執着している。

 

無邪気に、蟻の四肢をもぎ取るかのように、暁は俺を殺そうと刃を振るう。

 

『てくびを、きればいいんだよね?』

 

確かめ、直ぐに彼女は地を蹴る。

俺が攻撃しようとすれば、彼女の意思は戻る。

そこに生じる一瞬の迷い。暁はすかさず、連撃を俺へと叩き込んだ。

 

・・・ああ、俺って昔っからボロボロにされてたんだな。

 

ただ必死に耐え続ける俺自身の姿。

苦笑が思わず滲み出る。そんな中で、記憶の俺と現在の俺は同時に口を開いた。

 

『今だ、陽炎!!』

 

「それでも、ずっと誰かを助けるために戦って居れたんだな」

 

カチリ、とパズルのピースが嵌った。

世界は更に加速する。段々と増える暁の笑顔。蘇ってくる記憶。

 

妖夢に会う直前に、励ましてくれたのも暁だった。

纏はいつも俺を助けてくれた。日登と時雨を使い舞う暁の姿は綺麗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、幻想郷を過去に戻そうとしている黄昏の前に立ち塞がる。

 

夢なんて。

 

何の力も無い奴が持っても、叶えられるわけがない。

 

奴は口を開く。

 

所詮、お前らのそれは夢幻なんだ――――

 

そいつはそう言った。

 

良いじゃないか、見せてやるよ。

黄昏の姿が、天久に変わる。悪夢に変わる、雷に変わる。

 

 

そして、俺自身に変わる。

 

 

 

「ぶっ壊れた魂がぶっ壊れたからこそ持てた(夢幻)を、まずは俺自身に見せてやるさ」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

現実から、幻想へ。

今まで関わってきた全ての人の記憶が蘇る。

魂の、心の隙間を埋める力となって。暖かい力となって。

 

パキン、と音がした。

それは俺自身の魂の殻が割れる音。俺自身の力が、完全に開花した音。

 

恵は七賢者の子孫だ。

俺はその血を、受け継いだ。

 

 

ならば。俺にだって、それなりの力があっても良いじゃないか。

 

 

気づけば、恵は居なかった。

黒い世界。

 

鼻孔を擽る炎の匂い。聞こえる騒音、感じる霊力。

 

眼を開ける。白いベッドの上で、眼鏡を掛ける。

 

 

――――――――そして俺は、強く強く、今までの想いを全て、右拳(、、)で握りしめた。




やっと覚醒。
次回、雷の襲撃戦。

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