東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

149 / 224
第九章第八話「独白」

暫くの間、俺の言葉に隔は答えなかった。

星が空を駆けていく。時々落ちる流れ星は、決して都会では見ることの出来ないものだ。

さわさわと草が揺れる。冷たい風が吹き、そっと俺は縮こまった。

 

「・・・なんで、来たの・・・」

「来たかったから」

 

絞り出すように、苦し気に、小さな声が呟かれた。

嗚咽を隠し切れない。目元を何度も何度も拭いながら、隔は続ける。

 

「来ないで、って。妖夢ちゃんに、真を来させないでって頼んでたのに・・・」

「あいつは悪くない。入院中、俺が右手治ってないのに抜け出しただけだ」

「・・・また、爆発させたの?」

「うん。これで後二回だ」

 

会話が途切れるごとに、短くない沈黙が周囲を包み込む。

左手を伸ばしても、ぎりぎり隔には届かない。すう、と息を吸い込んだ彼女は、長く言葉を続ける。

 

「朝日を見たい。それで、真に殺して欲しい。これが手紙の内容」

「お前の叶えたい夢はそれだけか?」

「・・・うん。それだけ」

 

頑なに、彼女は拒み続ける。

もう隠さなくても良いのに。

長くいたから、もう全て分かっているのだから。

 

「俺は、お前を殺さないよ」

「・・・どうして?」

「殺したくないから。ずっと一緒に居た大事な人が居なくなるのは、もう嫌だから」

 

俺に親はいない。

小さいころ、両親は交通事故で死んだ。奇跡的に生き残った俺は心臓移植や長期間の入院など、死と生の間をさまよい続けている。

 

 

 

「・・・それだけなの?そんなちっぽけな理由で、私を野放しにして、幻想郷が壊れてもいいの?」

 

 

 

小さな問い。

純粋な彼女の言葉に、俺は一拍置き。

 

――――そして、きっぱりと断言した。

 

 

 

「理由に大きさは関係ない。お前を助けて幻想郷も助ける。それで良いだろうが」

 

 

 

間が、再び空く。空を流星が駆け抜ける。

暗い星空は段々と明け始める。それでも不思議と、眠気や疲労は感じない。

 

「・・・そっか。私は、真の大事な人になれてたんだね」

 

そう、彼女は言った。

満足そうに、悲しそうに。そして、名残り惜しそうに。

 

死にたくないと。生きたいと、声音からひしひしと全てが痛いほどに伝わってくる。

 

隔は立ち上がり、寝っ転がる俺へと満面の笑みを浮かべた。

星明りのささやかな光が彼女を世界の中心に誘う。長く綺麗な黒髪は宙に舞い、頬を伝う涙は地面に滴り落ちる。

 

「真、楽しかったよ、ありがとう。――――大好き」

 

そう言って、隔は黒い刃を生成した。

ズッ、と片目だけが不気味に黒く輝く。自身の心臓に向けて、その刃を突き刺す。

 

直前。俺は、彼女を右手で突き飛ばしていた。

刃の軌道がズレ、見当違いの方向へと切っ先を向ける。

無理やり動かした右腕には激痛が走るが、それを気にすることなく俺は微笑んだ。

 

大丈夫。

大丈夫だ。絶対に。

 

 

「お前は俺が助けて見せる。・・・だから、今は安心して眠っていてくれ。お前の、隔の全てを、受け止めて見せるから」

 

 

左手に持っていた小石を、彼女の額へと投げつけた。

こつんと当たり、それは跳ね返る。でも俺の目的は、違うところにあった。

 

隔は暴走妖に支配されないように、ならないようにずっと意思で自信を守ってきた。

徹夜で。ずっと、彼女は戦っていたのだ。

そこに、例え小石であっても、それを邪魔するものがあったらどうなるのか。

 

綻びが生まれてきた精神は、呆気なく崩れ落ちる。

 

隔の目が驚愕に見開かれると同時に、その瞳が漆黒に染まる。

光の無い、そこに広がる無限の虚無。

 

 

さて。

 

[マックロクロスケ]を使わせれば――――俺の勝ちだ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。