東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第九章第三話「悪者」

朝から凄い大変だった、と永遠亭の医師である八意永琳はため息をつく。

自分で自分の肩を揉みながら、全くと呟いた。

 

「後少しで完治ってところで、何で腕壊すのか・・・それに、何で貴方もここまでやるか・・・」

「あうう、すいませんすいません・・・」

 

眼帯を付け、右手を包帯で吊った妖夢は椅子で思わず縮こまる。

呆気ない終末。動けない真の体を、傷ついた体で必死に運んだ妖夢もまた治療を受けていた。

火傷痕の残る足にも白い包帯がぐるんぐるんに巻いてある。圧迫感に慣れないと言う風に右足を上げ下げする妖夢に、永琳はそっと笑いかけた。

 

「・・・貴方一人で悪者にならなくて良いのに。言ってくれれば、医師である私の方がやりやすいのよ?」

「そう、ですね。いや、そうなんですがその・・・えっと・・・私が伝えたかったと言いますか」

 

左手でぽりぽりと頬を掻きつつ、妖夢ははにかむ。

しかしその笑みも一瞬。直ぐに、彼女の顔に暗い影が差す。

 

「・・・でも、本当にいいのかなって。真さんは隔さんを大事に思ってる。隔さんの意思を尊重したい。でも、私はどっちかっていうと、隔さんを助けたい・・・きっと、私の所に直接彼女が来てくれなかったら私は真さんと一緒に隔さんを捜しに行っていたと思います。だからこそ、私は真さんに伝えたかったんです」

 

同じ道を選ぶはずだった二人の、分岐点。

一人の少女の邂逅と突然の別れ。真と妖夢のこれは似ている様で違い、衝突してしまった。

 

何と言いますか。これだから半人前なんですよね――――と妖夢は自嘲気味に呟いた。

 

「そうね、半人前ね」

 

永琳は呟いた。

 

 

「でも、貴方で半人前なら私はどうなっちゃうのかしら」

 

椅子から立ち上がり、カルテを片手に病室の外へ歩いていく。

途中で妖夢の銀髪に優しく手を乗せ、驚く妖夢へ向けて優しく微笑む。

 

「悩んで、悩んで。・・・答えを出せたなら、それはもう一人前なんじゃないかしら」

「・・・っ」

 

「私は何も出来なかった、なんて結果論よ。過程が大事ってよく言うじゃない?貴方は過程で成長して見せた。答えを出して、天秤で測って、真の意思を知って、それでも突き進んだ。人の胸にある正義なんて全部一緒じゃないの。算数じゃないんだから、答えなんて無いのよ。・・・ゆっくり、やすみなさいね」

 

 

そう残し、永琳は病室のドアを開け直ぐに出て行った。

残された妖夢。彼女の言葉を考える、それでも、悔しさは胸に燻り続ける。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

コンコン、と永琳は一つの部屋をノックする。

しかし返事は無い。当然だろう、この部屋に居る少年は重体も重体なのだ。

右腕は複雑骨折に出血多量、全身の切り傷擦れ傷に網膜は強い光でダメージを受け、鼓膜も張り詰め切っている。鎮痛剤は打った。痛みは多少なりとも抑えられている筈だが、流石に起きられはしないだろう。

 

「・・・入るわよ」

 

返事が無いのを分かっていて、永琳は中に入る。

 

その中の、ベッドの上。返事が無いのも、納得の有様だった――――




次回は『今の』真君の描写をたっぷりと。
因みに、今回は隔さんの時間が無いですから、何時もみたいに寝てばっかでは無いですよ~♪

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