東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第八章第十三話「ノイズ」

腕が動かない。

足も動かない。

感覚的に、俺は寝っ転がっている。鼻に付く消毒液の匂い、ずきずきと痛む全身。

 

体全体を何かで締め付けられている様な感覚のまま、俺は目を開けた。

 

「・・・そこは永遠亭だった」

「何言ってんですか」

 

ギギギ、と機械の様に俺は動かしづらい首を動かす。

横の椅子に座っていたのは、眼の下に隈を作り寝不足そうな妖夢だった。

俺の体にもたれ掛かる様に寝そべる妖夢は、俺の額を人差し指で小突く。

 

「忘れ物取りに行って大怪我するとか、馬鹿なんですか?しかも最後はスーパーノヴァ以上の自滅技だったんですよね?今、多分自分で思ってる以上に酷い怪我してますからね?」

「うう・・・で、その・・・」

 

額をぐりぐりと圧迫され呻いていると、突然病室のドアが強く開かれる。

妖夢と俺は揃って其方に向くと、

 

「あー!真起きたー!」

「ちょっと待てよ隔いいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」

 

 

黒のワンピースに身を包んだ隔が満面の笑みで立って居た。

俺の叫びも空しく、隔は妖夢と反対側の椅子に座る。

ベッドを挟む様になった彼女たちを前に、俺は謎の虚無感に襲われていた。

 

「・・・んで、何で真はそんなに大怪我してるの?何で紅魔館あんなにボロッボロなの?」

「一発殴らせろ」

 

本気で首を傾げる隔に向けて呟くと、妖夢の方からチョップが飛んでくる。

 

・・・どうやら隔は、暴走した時の事を覚えていないらしい。

そのあどけない表情に、戦った時の虚ろな瞳は見えない。光を宿した目に俺は安心し、ぽつりと洩らす。

 

「・・・俺、今回は何日間寝てたん?」

「最早何日間って・・・四日間ですよ」

 

うん。そろそろ俺月単位で寝るんじゃないかな。

 

寝ぼけ眼を擦る妖夢の答えに俺は清々しい笑みを浮かべる。もう俺に出来る事は何も無い。

 

「妖夢ちゃん、もう寝ちゃいなよ。流石に四徹はきついよ・・・」

「え?マジすか?」

「マジです。ずっとここに居て体が痛いですよもう・・・おやすみなさい」

 

とすん、と妖夢は俺のお腹の辺りに頭を落とす。

・・・直後に寝息が聞こえ始め、え、そこで寝るの!?と俺はパニックに陥った。

 

「・・・ねえ真、お腹空かない?」

「空いたけど食えないよ」

「大丈夫。・・・その・・・うん!私頑張るから!」

「何を!?」

 

叫ぶ俺を尻目に、そっと手を振った隔はそのまま病室を出て行った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

誰も居ない永遠亭の廊下。

薄暗く明りの付いていない所で、隔は心臓の上を強く握り壁にもたれ掛かる様に崩れ落ちる。

 

「はあっ・・・はあっ・・・」

 

辛かった。

真の病室に居る間も、彼女の心臓は棘が付いた虫が這いずり回る様な激痛に襲われていたのだ。

荒く息を繰り返す。脂汗が額を伝い、ぽたぽたと地面へと落ちて行く。

 

「何・・・これ・・・っ!!」

 

隔の脳裏に、ノイズが掛かった映像――――記憶が再生される。

 

自身の手には黒い刃。

歩いているのは、紅い廊下。

 

ノイズが掛かる。

 

何かを切りつけている。舞う鮮血。

遠くから深紅の何かが飛んでくる。

 

弾かなきゃ、死んじゃう。

死ンジャウ。

 

 

ノイズが掛かる。

 

誰かに刃を向けていた。

自分の表情は分からない。でも、決して笑ってはいない。

 

ノイズが掛かる。ノイズが掛かる。ノイズが、掛かる。

 

 

奥に人の顔が見える。刃を向けられて、それでもまだ尚強く目を細める――――

 

 

 

天音真の姿が。

 

 

――――そして、ノイズが掛かる。

 

 

ドグン!! と、隔の心臓は強く跳ね上がった。

そして痛みは消える。脳裏に再生されていた映像は消える。

 

 

「今の・・・今の・・・何っ・・・!?」

 

少女は困惑する。

自身の手に染みついた、黒い刃の感触と共に。


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