東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
走って走って、辿り着いたのは紅魔館。
いやまあ向かっていたんだけれどもね・・・。
息も切れ切れになり、俺は紅魔館の前で止まる。
疲れた、というのもあったが、大半の原因はそこに広がる異様な光景からだった。
「咲夜さん!」
「え?・・・あ、真!」
妖精メイドから咲夜さん、美鈴にパチュリーに小悪魔まで、皆が何故か外に出て来ているのだ。
俺が近づくと、妖精メイドとそれを纏めて指揮を執っている小悪魔さん以外が近づいてきた。
「どうしたんですか?」
心なしか、その場の皆は落ち着かない様にそわそわしている。
不安が表情から読み取れる。口を開いたのは、パチュリーだった。
「・・・レミィが急に出て行けって言ったらしいのよ」
「レミリア様が?」
「ええ、その・・・隔が、原因らしくて・・・」
良く分からない、と言った風に咲夜さんは首を傾げる。
しかし、俺にはそこで思い当たる物があった。記憶の中に、あってしまった。
暴走妖。今朝までは大丈夫だったのに、何故急に出て来たんだ。
「すみません、ちょっと行ってきます」
「え?ちょ、ちょっと!」
忘れ物を取りに来ただけの為、桜ノ妖は持って居ない。
俺はここまで来るのに使っていたバーストをそのまま、強く駆け出した。
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「霊甲[九十九]!!」
紅魔館の玄関を開け放ち、俺は直ぐに霊力の反応がある方へと駆けだす。
バーストの出力は15%。現時点での最高だ。
反応があるのは三階。階段を駆け上れば、そこは荒れ果てていた。
床は溶け焦げ臭い匂いが漂い、窓なんかはすべて割れている。咲夜さん達から見えない屋敷の奥側だったから気づきにくいが、相当凄まじい戦闘があったのを思い知らされた。
迷っている暇も、立ち止まっている暇も無い。俺は直ぐに近くの角を曲がり、
ドガンッ!!
「おうわっ!」
鈍い音と共に吹き飛ばされて来たレミリア様を慌てて抱えた。
服もボロボロ、息も絶え絶えの様子から苦戦して居る事が感じ取れる。
「レミリア様!?大丈夫ですか!?」
「隔相手だから無暗に本気出せないし・・・グングニルは真正面から受け止められたわ」
「なっ・・・!」
レミリア様の必殺、グングニル。
オーバーレイ状態で無茶をしつつ滅壊ノ星撃を撃っても恐らく粉砕できないであろう質量と威力を持つそれを、隔は素手で受け止めた・・・?
在り得ない。
昨日の夜からの、成長速度が異常だ。
ぞっと背中に寒気が走り抜ける。瞬間、本能の赴くままに俺は九十九の装着されてる右手を首元に当てた。
ガアアンン!!! と堅い音が響き渡り、九十九に軽いヒビが入る。
びりびりと震える腕を俺は懸命に動かしつつ、レミリア様を抱え俺は後ろの角へと飛び込んだ。
刹那、今まで居た廊下を端から端までぶち壊すような漆黒の砲撃が放たれる。衝撃波で宙を舞った俺達は、背中から地面へと叩きつけられた。
「・・・レミリア様、ここで待っててください」
九十九を構え、俺は長く息を吐く。
横たわるレミリア様。気休め程度に俺はそこに結界を設置。
数秒間、沈黙が流れる。
足音がゆっくりとこちらへ近づいてくる。チャンスは、一瞬。
カツン。
カツン。
カツン。
カツンッ…。
角に、隔が現れた。
奇襲作戦。死角になる壁に張り付いていた俺は一気に飛び出し――――
「オーバーレイッ!!」
全力の霊力を込め、隔へと九十九を叩きつけた。
しかし、ガギインッと音が響く。それは俺の拳と、隔の構える二刀の黒い刀がぶつかり合う音。
此方を見上げる彼女の眼に光は無い。禍々しい雰囲気は全てを包み込む中で、俺は本命を放つ。
「滅壊ノ・・・星撃!!!」
左腕を高く構え、俺は振り下ろす。
隔はそちらに反応するが――――
衝撃は、上からでは無く横から走った。
最近会得したばかりの、滅壊ノ星撃を蹴りで行うという技。
ミシミシと肋骨を砕く様な感触が走ると同時に、白と黒の尾を引く流星は隔の華奢な体を廊下の奥まで吹き飛ばした。
上手く行った。
でも、ここからが正念場。
「陽炎!トリガー頼む!レミリア様!力を貸してください!」
『了解』
「分かったわ・・・私の力で良ければ、持って行きなさい!!」
遠くで起き上がる隔を見据え、俺は大きく叫んだ。
「行きますッ!・・・オール、バースト!」
青緑の光が心臓から溢れ出す。しかしそれは次の瞬間、俺の中に入って来たレミリア様の魂によって紅の魔力に移り変わった。
「ポゼッション[レミリア]!」
レミリア様が俺へと憑依する。荒れ狂う魔力が俺をも蝕む中、その中心でそっと呟いた。
「霊刀・・・[羅刹]」
それは。
明らかに頼りの無い、俺の最初の刀の銘。