東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
隔「何言ってんの?」
ラ「遅くなって&短くてすみません。では、どうぞ」
駆け出した俺に向かって、無表情のまま隔は数回斬撃を繰り出す。
俺は天開・羅刹を大きく横に薙ぐことで、全てを弾き返した。隔との距離は3m程。射程距離拡張を発動し、隔へと刃を振るう。
―――――しかし、隔は避けようとしない。
「っ!」
慌てて羅刹の軌道をずらす。それと同時に、此方へ駆け出す隔。
女の子を基本的に殴らない性格を逆手に取られ、俺は思わず体を硬直させてしまう。
刹那、鋭い蹴りが俺の腹部へと突き刺さる。しなやかな筋肉を存分に使った一撃は、吹き飛ばしはしなくとも相当のダメージを俺に与えた。
次いで、隔は更に俺へと接近。黒い刀の形を変え、羅刹に巻き付けるとそれを捨てる。武器を失った俺達は、同時に肉弾戦へと意識を切り替えた。
ボッ!! と鋭い拳が俺の耳元を掠める。瞬時に二発ほど放たれた突きを、バックステップで回避。
そんなカッコいいもんじゃない。ただ、頑張って後ろに飛び退っただけだ。
だが、それだけで攻撃が止むはずがない。隔のスカートが派手に捲りあがり、俺の顔面に黒い革靴が迫る。
「お・・・おおおおっっ!!」
「・・・っ」
腹の底から気合を入れ、俺は顔を必死に後ろへと持っていく。極限まで仰け反った状態に成り、急いで立て直そうとしたところで。
ヒュンッ、と軽い音を立てて隔は上段の回し蹴りを俺の真上で停止。直後、踵落としが顔面へと突き刺さった。
脳が直接揺らされたんじゃないかという衝撃が体を襲う。更に襲い掛かる隔のパンチを未だに揺れる視界の奥で受け止め、俺はさっきよりも大きく隔から距離を取った。
鼻の奥から血がだらだらと流れる。腕で強引に拭うと、少し鼻の骨がひび割れている様な感触で手に伝わった。
回し蹴りを止めての踵落とし。器用すぎるその技をしても尚余裕のある隔。
・・・割と真面目に、やるしかないらしい。
「陽炎」
『ん?』
「三分間・・・
『・・・分かった』
そう言い、俺はそっと体から力を抜いた。
目を閉じると、夜風が頬を撫でて行く。雨で湿った空気の香りが、鉄の匂いと混ざり合う。
一回、俺は長く息を吐いた。
そして、右拳を強く握りしめる。
ミシッ… という、筋肉と骨が軋む音が静かに響く。俺は地面を強く、蹴り砕いた。
世界が加速する。バースト15%は、勇儀師匠と萃香師匠との修行で初めて辿り着いた。
隔との距離が一瞬で零に成る。驚きを隠せず目を見開くも、直ぐに彼女も応戦。
・・・が、その時にはもう俺は隔へと右拳を振るっていた。
吸い込まれるように拳を隔に迫る。
しかし、当たる寸前で――――
「・・・ああもう!」
俺は、拳をぱっと開いた。
そのまま中指を親指で押さえつけ、それでも霊力は盛大に込めて。
パアアンンッッ!!!
と、派手な音を撒き散らしデコピンをした。