東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第八章第六話「そこに居た物」

それは、深夜の事だった。

もう夕食も食べ終え、お風呂にも入り、紅魔館は静かな沈黙に包まれていた。

誰も起きていない。それは俺も例外では無く、(おもむろ)に目を覚ましたのは午前三時くらいの事。

部屋に掛かっている時計を確認し、眼鏡を手に取る。

起きてしまった物はしょうがない。トイレでも行って、寝直そう。

ドアを静かに開け、俺は暗い廊下に出た。

流石に明りが無いとここは歩けない為、右手にほんのりと光る霊力を宿す。

青白い光が少しだけだが先を照らす。大丈夫だろうと思い、俺は歩き始めた。

 

 

トイレは全階にあるらしい。何故”らしい”なのか、断言できないかって言うと・・・それは俺が、一階のトイレしか場所が分からないからだ。

右手に宿る明りだけを頼りに、俺は歩いていく。

 

しかし、その途中で俺は不思議な物を見た。

廊下の窓に近寄り、眼を凝らす。

・・・見間違いでは無い。やはり紅魔館の近くで、何かが暴れている。

 

「んー、抑えに行くか・・・」

 

眠たい体を頑張って動かし、俺は踵を返し玄関へと向かい始めた。強い妖怪だったら素直に逃げようと思いつつ、玄関の扉を開ける。

幾ら夏と言っても、夜は涼しい。五月蝿い蝉の声も止み、明るい満月が夜空に浮かんでいた。

 

「・・・バースト」

 

小さく呟く。出力、15%。

爆音が近づく。高まる緊張感、まるで刺す様に猛威を振るっている霊力の気配。

ここまで強いのは、久々に感じる。

 

暴走妖を超えているんじゃないかという禍々しい霊力の気配。深夜の森の中を進み、やがて俺は少し開けた場所に出た。

 

「・・・は?」

 

辿り着き、思わず声が口から漏れた。

そこにあったのは、無数の妖怪達の死骸。

月明かりに照らされ、紅い濁った血が鮮やかに浮かぶ。剥き出しになった骨や内臓が、グロテスクに惨状を物語る。

灰色に見える草原は、そんな妖怪の死骸でびっしりと埋まっていた。

 

・・・気づけば、先ほどまで聞こえていた轟音は途切れている。それとは裏腹に、感じる気配は強くなっている。何があった。広がる光景に、俺はただ立ち竦む事しかできない。

 

死体を避ける様にして、俺は草原を進む。

 

すると見えて来たのは、月明かりの元佇む大きい死骸の山。

吐きそうになる口元を押さえ、死臭に顔を顰める。

その山は、俺より大きかった。

数m離れていてもその頂点は見えない。少しづつ、俺は顔を上げて行く。

 

―――――――そこで、俺は声を失った。

 

その山の頂点には、一人、俺の良く知る人が此方を見下ろしていたのだ。

どうして、と疑問を抱く事しかできない。その人物は。その人物は――――

 

 

 

魂魄隔だった。

 

 

 

 

無機質に黒く澱んだ瞳を宿し、手は真っ赤な液体で濡れ切っている。

その心臓部分からは漆黒の霊力が静かに隔の体を蝕んでいた。右手と左手に持って居る黒一色の刀は、不気味な程にひんやりとした雰囲気を放つ。

 

何故。どうして。

 

状況から考えて、この惨状を生み出したのは誰でも無い隔だ。俺の良く知る幼馴染だ。

だからこそ疑問が浮かぶ。こいつは、確かに”完璧”であっても”人外”では無い。

霊夢や魔理沙の様な例外もあるが、隔にそんな力は無い筈。

 

だとすれば。だとすれば。

 

 

もしも、彼女が――――

 

そこまで考えた処で、突然隔が動いた。

ゆらり、と右手に構えた黒い刀を上段に構え、圧倒的に間合いが足りないのにも関わらず真下に振りぬく。

 

刹那、俺を襲う衝撃。赤黒い霊力がいきなり俺の体の中から吹き出し守ってくれるが、それでも俺は吹き飛んだ。

 

『真!戦闘準備!!』

 

幸い、バーストは使ってある。二撃目の準備を隔がした所で、俺は大きく横へと飛び退った。

一瞬遅れ、今まで俺が居た場所に漆黒の斬撃が夜空を切り裂いて叩きつけられる。草が舞い散り、土が飛び散った。

 

「隔!おい、隔!聞こえてるか!?」

 

襲い掛かる斬撃を必死に躱しつつ、隔へと呼びかける。だが答えは無く、帰ってくるのは斬撃のみ。

やるしかないのか。せめて、この一瞬だけでも。

 

桜ノ妖は今無い。隔に対抗できるのは。

 

心刀(しんとう)天開(あまひらき)羅刹(らせつ)]!!」

 

霊刀[羅刹]の上位互換。純白の光を放つ刀を手に、俺は隔へと勢いよく突っ込んだ。


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