東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第七章最終話「虚ろに」

一番早く辿り着いたのは、魔理沙だった。

 

「うわあ、荒れてやがるぜ・・・それにしては、やけに静かだが」

 

箒に跨りつつ、派手にぶち壊されている銀の壁を眺める。

暑さに服の胸元をぱたぱたと動かし自身に風を送っている途中で、魔理沙は一人の少女を見つけた。

 

「あれが犯人か・・・?」

 

眉をひそめ、魔理沙はそれの元へと辿り着く。

灼熱のマグマによる熱が魔理沙を焼く。しかし、暴走妖の被害が収まった今ではさっきよりも随分とマシだ。

そんな事も露知らず、静かに施設の真ん中で羽ばたいている少女へと魔理沙は声を掛けた。

 

 

「おっす、なあお前さん。聞きたいことが・・・おい、大丈夫か・・・?」

 

警戒を解く意味も含め、魔理沙は飄々とした態度で少女の肩に手を置く。

しかし返事も無く、静かすぎる。慌てて少女の顔を覗き込めば、そこに広がっているのは虚無のみだった。

 

「魔理沙ー!飛ばし過ぎよ・・・もう・・」

 

遅れて、やっと霊夢達も到着する。

魔理沙の傍に集まるも、その異様な雰囲気に皆は押し黙る。

何があった、とは誰も口に出さず。

 

「・・・貴方達は」

 

突然、黒い翼を広げ右手に木筒を付けている少女が口を開いた。

自身の胸の中心。そこを手で覆いつつ、言葉を続ける。

 

 

 

「・・・紫色の刃の刀を使う男の子の、友達?」

 

さっと頭を過るのは、勿論、天音真。

血相を変える隔。妖夢は落ち着いた声で、そっと問いただす。

 

「ええ。私達は心当たりがありますよ。・・・でも、どうしてそんな事を聞くんですか?」

 

その言葉に、少女は体の陰に隠れていた左手を持ち上げた。

 

息を飲み、眼を逸らす霊夢達。

それでも視線を外さず、真剣な眼差しを宿す妖夢は、そっと少女の持つものを見る。

 

――――左手は、惨い状態だった。

 

火傷だろうか。膨れ上がった掌に、青くなっている肌。

うっすらと見える生肌は痛々しい。血は滴り、生皮は空気に晒されている。

そしれそこに握られているのは、漆黒の鞘。

 

「・・・桜ノ、妖・・・」

 

呆然と、妖夢は呟いた。

震える声で、少女は話し始める。

 

「私を助ける為に・・・私が、私が・・・!!」

 

少女が顔を伏せる。

しかし、シャラアアン… という綺麗な音がその声を遮る。

 

抜き放たれたのは、巨大な白銀の刀。

背筋が凍ったのかと錯覚するほどの冷たい殺気を漂わせるその刀を、妖夢はマグマに向けて――――一閃。

 

空中に銀の軌跡が描かれる。直後、まるで道が出来たかのように割れる眼下のマグマ。

 

ダパアアンッ!! と飛沫を上げる。その中から、衝撃によって飛んできた紫紺の刃を持つ刀。

 

「暁さん、あれ凍らせてください」

「・・・」

 

妖夢は楼観剣を鞘にそっと納める。それと同時に放たれる冷気、宙で凍り付いた桜ノ妖。

重みを増したそれを片手で掴み取った妖夢は、右手の拳を激しく叩きつけた。

それにより、氷が全て砕け散る。妖夢の手からも鮮血が舞い散り、マグマに熱されていた桜ノ妖が露わになった。

鞘にそっと納め、妖夢は自身の腰にそれを括り付ける。

 

「・・・帰りましょう。私達がここに居る理由は、無いようです」

 

静かに、顔を伏せたまま妖夢は呟いた。

 

「私は、こいつを地霊殿のさとりに預けて来る。何か分かんだろ」

 

顔を伏せる少女を優しく箒に乗せ、魔理沙は飛び立った。

 

 

静かな・・・静かすぎる、異変の閉幕。

何も言わずに、彼女等は其の場を後にした。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「・・・おーおー、こら酷いねえ」

 

くいっと瓢箪を呷りつつ、霊夢達が去った後の施設、その下で何かが呟いた。

 

「さあて・・・どうしようか。こいつは面白い奴だし、死なせたくはないんだよなあ」

 

ま、取り敢えず、とそいつは呟き、自身の懐から取り出した小瓶の中身を目の前の奴に振りかける。

 

「河童からくすねて来た薬だが・・・効くもんかね?まあ、私も地霊殿にこいつを届けに行くかあ・・・」

 

欠伸を噛み殺し、パチンと指を鳴らす。

途端にそいつの体と、横たわっていた者の体が散った。

 

ゴポゴポと、マグマの泡が膨れ破裂する音だけが後に残る。

虚しく、ひっそりと。

 


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