東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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ピーンポーンパーンポーン

注意!注意!

1.ラギアは女子と二人っきりで祭りを楽しんだのは人生で30秒くらいしかありません。なので、多々可笑しい所があります。ご了承ください(遠い眼)

2.遅れてすみません。

3.7000千文字突破。相当長いと思います。
  いつもの話の三個分くらいですね。

それでも良いよ!ったく、しょうがねえなあ!という方はどうぞ!


番外編「夏祭り(真&隔)」

「夏祭り?」

「はい、今日の夜、人里で開催されるらしいんです!」

 

事の始まりは、とある真夏の日だった。

台所で朝食を作っていた俺と妖夢は、お互いに手を止めずに会話する。

 

「ふーん・・・じゃあ、一緒に行く?」

「ふぇっ!?・・・い、いや私より、隔さんを誘ってあげた方が良いんじゃないでしょうか」

「あいつは良いよ。昔っから何度も一緒に行ってるし」

「熟年の夫婦みたいな感想ですね。・・・いやまあ、でも隔さんは悲しむと思いますよ?」

「・・・それは困る」

 

女の子を・・・隔も一応女の子なので、困らせたり泣かせるのは男として非常に嫌な事である。

ただでさえ隔は常日頃から酷い目ばかりに合っているのだ。

俺が一緒に行っても何の得にもならないだろうが、誘われたら素直に行こう。

因みに俺は、祭りが嫌いでは無い。寧ろ好きだ。

主に射的。自慢だが、結構得意である。

 

「あれですよ?女の子の方から誘わせるのは非常にカッコ悪いですよ?」

「・・・夕方なったら紅魔館行ってくる」

「ダメです。女の子の準備を甘く見過ぎですよ!」

 

遅すぎる、と妖夢は俺に対して口を尖らせる。

 

「え?だって妖夢三分くらいで終わるじゃん」

「・・・夏祭りに私服で行くと思います?男の子に誘われて」

「もしかして・・・俺、女心という物を分かってなかったり?」

「はい。完璧に」

 

魚を焼きつつ、俺はほろりと目から汗を流す。

真っ向から断言されると、流石に辛いものがある。俺は鮭をひっくり返しつつ、再び妖夢に話しかけた。

 

「じゃあ、お昼頃行って、夕方迎えに行く感じで良いの?」

「そうですね。それくらいで丁度いいと思います」

 

頷く妖夢。じゃあそうするか、と俺は行動を決め、朝食を作る作業へと意識を戻した。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

紅い館の一室。

そこで主と、一人の従者はカーテンを閉め切り密会を開いていた。

 

「・・・私と同じくらいぺったんこね。自分でいうのも何だけれど・・・」

「止めて下さいレミリア様!それ以上言わないでください!」

 

下着姿で、紅魔館の主レミリア・スカーレットと魂魄隔は向かい合っている。

慌てて胸元を両手で覆う隔。それを気にせず、レミリアは水色の浴衣をクローゼットから取り出した。

涙目の隔にそれを渡し、彼女自身も紅い浴衣を着始める。

 

「・・・真、一緒に行ってくれますかね?」

「必ず行ってくれるわよ。真は、そういう子だからね」

 

袖に手を通しつつ、隔はぽつりと心配そうに呟く。

しかしレミリアは確信をもって断言した。驚く隔に向けて、レミリアは微笑む。

 

「浴衣、似合ってるわよ」

 

 

☆★☆

 

「美鈴さん・・・」

「んにゃ・・・ああ、真さんですか。どうしました?」

「隔の所に案内してほしいでござるです候」

「ああ・・・。承知しました」

 

門番の途中で眠っている美鈴さんを突いて起こし、俺はそっとお願いごとをする。

笑顔でサムズアップし、彼女は俺を肩に担いだ。

 

「さーって、行きますよー!」

「うぇい!?」

 

そして案の定、そのまま大きく跳躍。

異常なまでの身体能力を以て俺と美鈴さんの体は天高く舞い踊り、紅魔館の屋上に音も無く着地。

そのまま歩き続け、俺は遂に隔の居る部屋へとたどり着いた。

 

「おや。お嬢様も一緒に居るみたいですね」

 

そう呟き、彼女はコンコン、とドアをノックする。

直後に響く、入っていいわよという声。美鈴さんの後に続き、俺はその一室へと足を踏み入れた。

 

「・・・いやお前何してんの?」

「き、着替えてんの!」

 

入ると、そこでは隔がカーテンの隙間から顔を出している状態だった。

紅い浴衣を着たレミリア様はそっと俺に近づくと、小声で呟く。

 

(真、勿論隔は祭りに誘うのよね?)

(ええ、そのつもりで来ました)

(頼むわよ?あの子、楽しみ過ぎて一週間分の仕事咲夜と一緒に十分で終わらせちゃったからね?)

(あいつ人間なんですか?)

 

ひそひそと話していると、カーテンに潜っていた隔がひょいっと顔を出した。

 

「・・・真、で、どどどうしたの?」

 

(可愛いわね)

(可愛いっすね)

 

赤くなっている顔を隠しきれていない隔は、上ずった声で俺へと尋ねる。

ちょっと揶揄いたいが、ここは素直に言っておこう。

 

「いや・・・その、なんだ。一緒に祭り行かない?」

「・・・う、うん」

 

すすす、と隔は恥ずかしそうに再びカーテンへともぐりこんだ。

聞こえる衣擦れの音。どうやら、着替えているらしい。

 

(もっとカッコつけなさいよ!)

(いやどんな事言えばいいんですか。俺隔と祭り行くときには『行くかー』『うん!』でしたからね?)

(夫婦か!)

 

脇腹を小突きつつ口をとがらせるレミリア様。

しかし次には笑みを浮かべ、優しい声で俺へ耳打ちする。

 

(・・・まあでも、ありがとう)

(俺こそ、ありがとうございます)

 

この人には、感謝してもしきれない程の恩がある。

そっとウィンクするレミリア様。俺は再び、そっと頭を下げた。

 

シャーっと言う音がし、カーテンの奥からメイド服姿の隔が出て来る。

 

「初めてだな・・・隔のコスプrゲフン、メイド服見るの」

「今コスプレって言いかけたよね!?」

 

慌てて捲し立てる隔から俺はそっと目を外す。

隔のメイド服の破壊力は、今知ったが相当である。

ずっと見てたら色々危ない気がする。うん。

 

「じゃあ、夕方迎えに来る」

「うん!分かった!」

 

満面の笑みを咲かせ、手を振る彼女。

俺も小さく手を振り返し、そのまま部屋を出て行った。

 

 

「いやはや、羨ましい限りです。あんな可愛い彼女が居るなんて」

「か、彼女じゃないです!」

 

門へと向かう途中に美鈴と会話する。中身は他愛の無い物だが、バクバクとなっていた心臓を落ち着けるには丁度良いようなゆったりとした時間だった。

 

それでは、と俺は美鈴と別れる。

迎えに行くのは夕方の五時くらい。

白玉楼に八咫烏に乗って帰りつつ、俺は何食べようと考えていた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「じゃあ妖夢、また後でなー!」

「はい!真さん、朝帰りで良いですからねー!」

「いやお前何言ってんの!?」

 

夕方の四時半。

悩んだ末にいつもどおりの私服の俺は、玄関で靴を履いていた。

何か危ない事を叫んでいる妖夢に突っ込むと、若干急ぎ足で俺は白玉楼を後にする。

八咫烏を生成し、大きく翼をはためかせる。

 

・・・どうしても隔に見せたいものがある。でも、祭りも楽しんでもらいたい。

 

大空を見あげると、そこは雲一つない快晴。

今夜は綺麗に見えるだろう。俺は少し微笑み、紅魔館へと全力で急ぐ。

 

☆★☆

 

「此方です」

 

美鈴が一つのドアの前で立ち止まり、そして三回ほどノックする。

財布とハンカチとティッシュの確認をしつつ、俺は「入って良いわよ」の声が響くまでずっと心臓を撫でていた。早鐘を打つ鼓動。

 

そう、俺は今物凄く緊張している。

 

隔と少し離れたからか、今まで家族同然だった彼女の事が少しづつクラスに居る様な女の子と認識し始めてしまったのだ。

俺の通っていた高校の中での有名な、完璧な少女。

あれ?俺って物凄い恵まれてた?とか思いつつ、俺は美鈴さんの後について部屋に入り――――

 

「・・・」

 

言葉を失った。

 

部屋の中、レミリア様と一緒に居るのは水色の浴衣を着た隔だ。

花柄模様の着物に、しっとりとした流麗な長い黒髪。

足は何時もの靴では無く下駄を履いており、此方に気づいた彼女は嬉しそうに微笑んだ。

 

「真、どうこの浴衣!可愛くない?レミリア様が貸してくれたんだ!」

「上げても良いわね・・・これなら」

 

椅子から立ち上がり、裾を軽く摘まみ隔は其の場でくるりと回る。

長い黒髪が舞い上がり、ふわりと花の良い香りが漂った。

 

「・・・お、おう。可愛いと思うぞ、うん」

 

慌てて気を取り直し、何とか感想を述べる。

直視できない。そっと目線を逸らすと、視界の端で隔が少しだけ顔を伏せる。

 

「・・・やっぱり変かな?」

「そんな事は無い。可愛いよ」

 

きっぱりと断言し、俺は顔を上げた彼女の手を取った。

もう日は落ち始めている。西の空が茜色に燃え上がるのを窓の内側から望み、俺はレミリア様へと向き直った。

 

「では、行ってきます」

「ええ、行ってらっしゃい。・・・隔、朝帰りで良いわよ?」

「何言ってるんですか!?」

 

顔を赤らめる隔の手を引き、俺は紅魔館の玄関まで行く。

前までここで働いていたので、大体の場所は分かる様に成った。恐らく今でも迷うだろうが。

 

「・・・んじゃあ、飛んで行きますか」

 

懐から取り出した銀のナイフを宙に放り、八咫烏を生成する。

先に乗り、浴衣で少し動きづらそうにしている隔の手を引いて何とか持ち上げた。

 

「行くぞ、隔」

「うん!」

 

一言確認を取り、大きく翼をはためかせる。

落ちないためか急に抱き着いてきた隔をなるべく意識しない様にしながら、俺は人里へと結構な速度を出して急いだ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

空がやっと藍色に染まり始めた頃、しかし人里は沢山の人々で賑わっていた。

提灯からは淡いオレンジ色の光が零れ、たこ焼きや焼きそば等の定番メニューも見受けられる。

太鼓の音が大きく響く中、辺りを見回した隔は楽しそうに俺を先導する。

 

祭りの中心で、笑う隔。その風景は、とても幻想的だった。

 

 

「食べるよー!」

「太るぞ」

「そういう事言わないの!」

 

早速俺達は近くにあった屋台を冷やかし始める。

射的やヨーヨー釣り、金魚すくいと遊べる屋台も結構中で、全てを素通りした隔は一つの屋台の前で立ち止まった。

 

「お好み焼き食べたい」

「ん。一つで良い?」

「うん」

 

俺は隔の分と自分の分のお好み焼きを買う。焼きたてを袋に入れて貰い、割り箸を二本取って俺は戻った。

 

「ほら、どうぞー」

「やったー!」

 

お腹が空いていたのか、隔は割り箸を綺麗に割ると美味しそうにお好み焼きを頬張った。

俺も自分の分の紅ショウガをもぐもぐとしつつ、当たりの屋台を見つけるべく目を凝らす。

 

祭りには、美味しい屋台と普通の屋台があるのは分かっているだろう。

しかし、見た目的には全て同じ。だからこそ、しっかりと観察せねばならない。

 

箸で丁寧にお好み焼きを切り分けて行く彼女からそそっと離れ、俺は近くの屋台に入る。

 

「ラムネを二本下さい」

「はいよ、200円ー」

 

氷水の中から取り出された、キンキンに冷えたラムネ。

祭りと言えばこれだろう。まあ、開けるのは大変だけど。

 

空は暗くなり始めて来ている。しかし、まだあの時間には早い。

 

思ったよりも長く楽しめそうだ、と思いつつ俺はすでにお好み焼きを食べ終えた隔へとラムネを渡した。

 

ゴミを受け取り、袋に入れる。ポン、とラムネを開けた隔は一口含み、息を付いた。

 

「真、ありがとうね」

「どういたしまして。じゃあ、次は何食べる?」

「焼きそば」

「即答ですね・・・」

 

きらりと目を輝かせる隔の前を歩き、お目当ての屋台を探すべく俺は人混みを掻き分けて行く。

人の流れはかなり多い。これ、下手したらはぐれるんじゃないか――――

 

と思っていると、急に右手の先が優しい温もりに包まれた。

後ろを見ると、ほんの少し頬を紅くした隔が俺の手を包んでいる。

 

「は、はははぐれない様にな?」

「うん・・・」

 

大分どもり、俺も少し彼女の手を握る。

左手に持って居るラムネの冷たさが心地いい。ビー玉がカラン、と鳴り響く。

 

おや、あそこは美味しそうだ。

 

人で賑わう屋台を見つけ、俺は隔と一緒にそこへと歩いていった。

 

 

「あ、真と隔じゃない。いらっしゃい」

「おお、デートか。いらっしゃいませなんだぜー!」

「いや何してんの二人とも」

 

少し並び、中に入ると霊夢と魔理沙が焼きそばを作っていた。

どっちも手際が良い。作る手を止めないまま、魔理沙がにやにやとしつつ答えてくれる。

 

「いやあ、私達も今年は店だそうぜって事になってな。霊夢を誘って屋台を出してんだぜ」

「暇だったしね。やってみると結構楽しいのよ」

 

パックに焼きそばを大盛りで入れてくれた魔理沙は、ゴムをパチンと鳴らすとウィンクしつつ俺へと渡す。

 

「おまけだ。二人とも、楽しめよ!」

「ありがとうな、魔理沙」

「良いって事よ!」

 

力強くサムズアップする魔理沙に手を振り、俺は隔へと焼きそばを渡す。

俺もぱっぱとお好み焼きの余りを食べつくすと、霊夢と魔理沙の手作り焼きそばを大きく口に入れた。

 

ソースと青のりの香りが口中に広がる。程よく水分の飛んでいる麺を噛みしめ、つくづく俺はマヨネーズとソースって相性良いなと感じた。

 

「美味しいね!」

 

にっこりと微笑む隔。楽しそうにしている彼女は、まるで世界の主役に成ったかのようだった。

 

☆★☆

 

「・・・ちょっと待っててね」

 

突然、隔がそう言うが速くそそくさと一つの屋台へと入っていく。

目を輝かせていたが、一体何をするつもりなのだろうか。

若干の恐怖を覚えつつ、近くにあったゴミ箱にゴミを全て投げ入れる。

 

「真真ー!」

 

買って来たのは、どうやらたこ焼きの様だ。

小さめの串を二本使い、隔は器用にたこ焼きを持ち上げる。

 

「はい、あーん」

「え・・・え?」

 

すると何を思ったのか、俺の口元へと隔はたこ焼きを差し出した。

戸惑う俺へ、どんどん距離を詰めて来る隔。遂に道路の端っこまで追い込まれた俺は、見るからに熱そうなたこ焼きを口の中へ入れる。

 

「どう?」

「あ・・・あづい・・・おいしい・・・!」

 

緊張しすぎて、味何て分からない。

舌を火傷しそうな程に熱々のたこ焼きを、ラムネも使って何とか咀嚼する。

あーんされたの何て初めてだ。食べ終え、俺は色んな意味で大きく息を吐いた。

 

隔はどうやら、自分も小さな串でたこ焼きを食べている様だ。

余程たこ焼きが熱かったのか、隔の顔は耳まで真っ赤である。

 

「・・・ら、ラムネ頂戴・・・」

「絶賛飲みかけしかないぞ」

「それが・・・それでいいから!」

 

左手に持って居たラムネを隔に渡し、逆にたこ焼きを受け取る。

今度は良く冷ましてからたこ焼きを食べ始め、俺達は再び歩き始めた。

暫く、隔は真っ赤であった。

 

☆★☆

 

「お、射的やらない?」

「良いよー」

 

お腹も一杯に成った所で、俺達は遊ぶ為の屋台へと移る。

リンゴ飴を食べている隔の手を引き、人混みを掻き分ける。着いたのは、中々に賑わっている射的の屋台。

 

「二人分お願いします!」

「あいよ!ほれ、説明はいるか?」

「大丈夫です、ありがとうございます!」

 

屋台のおっさんからコルクを受け取り、列に並ぶ。

射的と言うのは、その名の通りコルク銃で景品を撃ち落とすという遊戯だ。

単純だが、難しい。列の一番前で、俺と隔は銃に弾を込め、準備を終わらせる。

 

・・・さあて、落としますか!

 

 

 

「・・・真・・・」

「隔・・・何でお前五発中五発あてて落としてんだよ・・・」

 

駄菓子などを抱える隔は、可哀想な物を見る目で俺を見下ろしている。

肩を落としていた俺は顔を上げ、そして唯一の戦利品をじっと見つめた。

 

「おお、可愛いの落としたね」

「うん。・・・髪を結ぶ奴か」

 

それは花をモチーフにしたシュシュだ。淡いピンク色のそれを、俺は隔へと渡す。

 

「これ・・・要る?」

「え?良いの?」

「いやあ・・・持ってても使わないし。隔に似合うと思うし」

「そ、そっか」

 

おずおずと、隔はシュシュを手に取る。

可愛いね、と小さく呟き、隔は後ろで髪を結び始めた。

 

「ど、どうかな」

「似合ってる似合ってる。可愛いぞ」

 

頭の後ろでお団子にした隔は少しはにかむ。

まるで隔の為に作られたかのように、シュシュは似合っていた。嬉しそうに微笑みながら歩き始めた隔の後ろで、俺は急いでかき氷を購入した。

 

小走りで隔に追いつき、スプーンで氷をすくう。

そして、無防備に晒されている白いうなじへと、氷を流し込んだ。

 

「ひゃうっ!・・・え!?何、氷・・・!?」

 

ビクンッ!! と体を跳ねさせた隔は慌てて背中を触り、そして後ろに立って居る俺へと目を向ける。

 

「・・・真・・・?」

「悪かった。いや、ちょっと出来心で・・・!」

 

ゆるりと俺へと近寄って来る隔。怖いです。

目線を逸らした先には、時計が設置されていた。指示している時間は、午後八時十分。

そろそろ、行っておいた方が良いだろう。

 

隔の口へと苺ミルク味のかき氷を突っ込み、もごもごと唸る彼女の手を引っ張る。

 

「ちょっと、見せたいものがあるんだ・・・えっと、暴れないで着いて来て欲しいなゴフアッ!!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

少し人里から離れたところで、再び俺達は八咫烏に乗って飛んでいた。

漆黒の空に広がるのは、雲一つない満天の星空。

現実では決して見る事の出来ない輝きを、隔は精一杯見渡す。

 

「綺麗だね・・・凄いね・・・」

「こっちは車とか、ネオンとか無いからね。綺麗に見えるんだ」

 

白い光を湛える無数の星々。これも確かに見せたかったものだが、本番はこれからだ。

 

「・・・そろそろ、かな。隔、あっちの方見てて」

「え?わ、分かった」

 

首を傾げつつも、隔は俺の指さした方へと視線を向ける。

 

その直後。静寂に包まれた夜の中で、それは打ち上げられた。

 

 

ヒュルルル… とオレンジ色の光は空へと飛んで行く。

隣で隔が驚きに目を見開く。一瞬、音が消えると、次の瞬間。

 

眩い光を放ち、大きい音を鳴らし――――――虹色の花火は、大空で弾けた。

 

それを合図に、次々と撃ちだされる無数の花火。

様々な色の光を放ちながら、星空の元、それらは美しく咲く。

 

「花火・・・やっぱり、綺麗だね」

 

隔は、花火が好きだ。

夏祭りに行けば必ず、二人で花火を見ていた。

 

暗い夜空の元、花火と星はお互いに光る。

カラフルな色は世界を彩っていく。

 

「・・・真」

 

隣を見ると、隔花火から目を外し此方へと顔を向け――――

 

 

そして、何よりも美しく、綺麗に、満面の笑みを咲かせた。

 

 

 

「ありがとうね」

 

 

 

夜空に輝く星々も花火も、全ては隔と言う、唯一人の為に用意された背景に過ぎない。

 

 

――――そのまま花火が終わるまで。俺達は、そこで空を仰ぎ続けた――――――

 




次は真&暁!
・・・そういえば、チョコバナナとかも祭りにあったな・・・

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