東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
真「急にどうしたし」
ラ「いや、シリアスな展開には前書きが無きゃ」
真「逆に雰囲気ぶち壊してるから!!」
ラ「なん・・・だと・・・!?」
真「馬鹿かお前よお!」
ラ「ば、馬鹿じゃねえし!ではどうぞ!」
真「あっ待て!逃げんなーー!!」
瞼を閉じた瞬間。
俺は、白い世界に来ていた。
どこまでも広がる、全てが白い世界。そこは、魂の住まう場所。
「・・・死んだのか・・・?」
呟き、俺は自身の右腕を見つめる。
今までの人生の中で、大分傷ついたものだ。
「死んでないよ」
「そっか」
俺は横から聞こえて来た声に安堵し、右手から視線を上げる・・・。
「あれ、陽炎さん」
「やっほやっほ。・・・で、魂の世界に来れたと言う事はあんたが死にかけって事だけど」
真正面で浮遊しつつ、赤い瞳を呆れたように細める陽炎。
彼女は一旦言葉を切り、次いで鋭く俺を睨みつけた。
「どうして真はあの時刀を振らなかった?」
その言葉が脳に染み渡ると同時に、フラッシュバックする映像。断片的に、あの戦いが脳裏に映り消えて行く。
「・・・恐かった」
「?」
陽炎から視線を外す。
そうしつつも、それでも俺は、途切れ途切れに話し始めた。
「初めて、俺は人を・・・この前殺した。天久だ。奴は確かに、良い奴とは言えない。でも・・・それでも、俺が命を奪ってしまった」
話していく度に、自分に対しての憎悪が積み重なっていく。
まるで白い世界が黒くなったかの様に、場の空気は硬直していった。
「恐いんだよ・・・自分の所為で、誰かが死ぬのも!傷つくのも!それは今更の事だろうけどさ!それでも・・・それでも、怖くなっちゃったんだ・・・!!」
震え始めた体を必死に押さえつけ、俺は全てを吐露した。
妖怪の命を軽く見ていた自分に。人を殺さなきゃ、命の価値観の可笑しさに気づけない自分が。
本当に、嫌いだ。
しかし、陽炎は俺へと答えはしなかった。
何故ならば、彼女も彼女で、突然話し始めたのだ。
「むかーしむかし、あるところに赤い眼の女の子が生まれました」
軽い口調で、時々おどけつつも話は進む。
それが――――――陽炎自身の話だと言う事に気づくのは、そう難しくない事だった。
「彼女は昔から不思議な事が出来ました。そう、時折体から溢れ出る赤い靄は全てを灰に返すのです!凄い、凄いと彼女は喜び、そして五歳くらいからでしょうか。赤い眼を輝かせ、少女はその力を完璧にマスターしようと修行を始めたのです」
そこで区切り、陽炎は一呼吸着く。
前髪の隙間から彼女を見上げる。懐かしむ様に、それでいてどこか自分自身を嘲笑して居る様な表情が、そこにあった。
「少女は14歳ながら、とても強くなりました。村を守るために。そして、この荒れた戦乱の世を少しでも良くするために。必死で頑張りました。そして、その噂は遂にその地域の大名に伝わったのです」
「そこからは、瞬く間の出来事でした。私はただの農家の娘だったのにも関わらず、大名の側近にいきなりなったのです。豪華な生活は、村娘にはとても刺激が強かったのですが・・・。そこに居る条件は唯一つ、」
陽炎はさっきよりも長く言葉を止める。
心臓の辺りを彼女は強く握りしめ、そして忌々し気に吐き捨てた。
「この力を使って、数多の大名を殺す事」
「少女は殺し続けました。時には正面から。時には貧相なカッコをし、そして迷い人として潜入し。時には女という事も武器にして。防御が固くても、彼女は女と言う事で警戒されず、寧ろ二人っきりになる事の方が多い程でした。・・・しかし、とある日の事です」
突然、彼女の言葉は優しくなる。
目を閉じ、陽炎はゆっくりと話し始めた。
「またとある少女は、とある大名を殺す為に忍び込みました。しかし、その大名は不自然とも言えるほどに、演技する私を必死に介抱してくれたのです。みすぼらしいカッコをして、旅人として忍び込んだ私に、彼はただただ優しく接してくれました。その性格のせいか、彼はとても人気のある大名。信頼も厚く、その地域はとても結束力が高く強かったのです。そうです、かくいう少女もその大名が好きになりました――――一目ぼれです」
そこで、声のトーンは下がる。
ぽつり、ぽつりと一気に声は重くなった。
俺は顔を上げ、必死に話す陽炎を見つめる。
「ですが彼女はその大名を殺さなければいけません。私は本当に殺せるのか?自分の好きな人を殺せるのか?自問自答をしつつ、少女は18歳のとある夜、その大名の部屋へと忍び込みます。そして、刀を持ち上げました。寝ている彼の傍で。そこで、彼女は彼の寝顔を視界に捉え――――」
「そのまま、躊躇なしに殺しました」
声音は、通常の陽炎に戻る。
下を見続ける赤い眼は、今一体何処を見ているのだろうか。
肩を竦め、彼女は続きを再び話す。
「彼女の中で、”殺す”という事はいつしか”普通の事”になっていたのです。殺し過ぎた代償。本当に大事な者、初めて好きになった者を殺した少女は、その場で自害しました。舞い散る鮮血。彼女はそのまま彼の上に倒れると、そのまま永遠の眠りにつきました・・・」
顔を上げると、陽炎は真剣な眼差しで俺を射抜く。
赤い瞳に鋭い眼光を宿し、彼女はきっぱりと言い放った。
「一番ダメなのは、殺しに慣れる事だ」
その言葉は、深く、俺の胸に突き刺さる。
薄れゆく意識。覚醒の時は、近いらしい。
朧げに薄れゆく俺にすうっと近づいた陽炎は、俺の額を人差し指で小突く。
そして、少し微笑んだ。
「真。あんたは――――何の為に、戦うの?」