東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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ラ「暁って保育士とかしてそう」
真「急にどうしたし」
ラ「いや、シリアスな展開には前書きが無きゃ」
真「逆に雰囲気ぶち壊してるから!!」
ラ「なん・・・だと・・・!?」
真「馬鹿かお前よお!」
ラ「ば、馬鹿じゃねえし!ではどうぞ!」
真「あっ待て!逃げんなーー!!」


第七章第十一話「とある少女の独白」

瞼を閉じた瞬間。

 

 

俺は、白い世界に来ていた。

 

 

どこまでも広がる、全てが白い世界。そこは、魂の住まう場所。

 

「・・・死んだのか・・・?」

 

呟き、俺は自身の右腕を見つめる。

今までの人生の中で、大分傷ついたものだ。

 

「死んでないよ」

「そっか」

 

俺は横から聞こえて来た声に安堵し、右手から視線を上げる・・・。

 

「あれ、陽炎さん」

「やっほやっほ。・・・で、魂の世界に来れたと言う事はあんたが死にかけって事だけど」

 

真正面で浮遊しつつ、赤い瞳を呆れたように細める陽炎。

彼女は一旦言葉を切り、次いで鋭く俺を睨みつけた。

 

 

「どうして真はあの時刀を振らなかった?」

 

 

その言葉が脳に染み渡ると同時に、フラッシュバックする映像。断片的に、あの戦いが脳裏に映り消えて行く。

 

「・・・恐かった」

「?」

 

陽炎から視線を外す。

そうしつつも、それでも俺は、途切れ途切れに話し始めた。

 

「初めて、俺は人を・・・この前殺した。天久だ。奴は確かに、良い奴とは言えない。でも・・・それでも、俺が命を奪ってしまった」

 

話していく度に、自分に対しての憎悪が積み重なっていく。

まるで白い世界が黒くなったかの様に、場の空気は硬直していった。

 

「恐いんだよ・・・自分の所為で、誰かが死ぬのも!傷つくのも!それは今更の事だろうけどさ!それでも・・・それでも、怖くなっちゃったんだ・・・!!」

 

震え始めた体を必死に押さえつけ、俺は全てを吐露した。

妖怪の命を軽く見ていた自分に。人を殺さなきゃ、命の価値観の可笑しさに気づけない自分が。

本当に、嫌いだ。

 

しかし、陽炎は俺へと答えはしなかった。

 

何故ならば、彼女も彼女で、突然話し始めたのだ。

 

 

「むかーしむかし、あるところに赤い眼の女の子が生まれました」

 

軽い口調で、時々おどけつつも話は進む。

それが――――――陽炎自身の話だと言う事に気づくのは、そう難しくない事だった。

 

「彼女は昔から不思議な事が出来ました。そう、時折体から溢れ出る赤い靄は全てを灰に返すのです!凄い、凄いと彼女は喜び、そして五歳くらいからでしょうか。赤い眼を輝かせ、少女はその力を完璧にマスターしようと修行を始めたのです」

 

そこで区切り、陽炎は一呼吸着く。

前髪の隙間から彼女を見上げる。懐かしむ様に、それでいてどこか自分自身を嘲笑して居る様な表情が、そこにあった。

 

「少女は14歳ながら、とても強くなりました。村を守るために。そして、この荒れた戦乱の世を少しでも良くするために。必死で頑張りました。そして、その噂は遂にその地域の大名に伝わったのです」

 

 

「そこからは、瞬く間の出来事でした。私はただの農家の娘だったのにも関わらず、大名の側近にいきなりなったのです。豪華な生活は、村娘にはとても刺激が強かったのですが・・・。そこに居る条件は唯一つ、」

 

 

陽炎はさっきよりも長く言葉を止める。

心臓の辺りを彼女は強く握りしめ、そして忌々し気に吐き捨てた。

 

 

 

 

 

「この力を使って、数多の大名を殺す事」

 

 

 

 

 

「少女は殺し続けました。時には正面から。時には貧相なカッコをし、そして迷い人として潜入し。時には女という事も武器にして。防御が固くても、彼女は女と言う事で警戒されず、寧ろ二人っきりになる事の方が多い程でした。・・・しかし、とある日の事です」

 

 

突然、彼女の言葉は優しくなる。

目を閉じ、陽炎はゆっくりと話し始めた。

 

「またとある少女は、とある大名を殺す為に忍び込みました。しかし、その大名は不自然とも言えるほどに、演技する私を必死に介抱してくれたのです。みすぼらしいカッコをして、旅人として忍び込んだ私に、彼はただただ優しく接してくれました。その性格のせいか、彼はとても人気のある大名。信頼も厚く、その地域はとても結束力が高く強かったのです。そうです、かくいう少女もその大名が好きになりました――――一目ぼれです」

 

そこで、声のトーンは下がる。

ぽつり、ぽつりと一気に声は重くなった。

俺は顔を上げ、必死に話す陽炎を見つめる。

 

「ですが彼女はその大名を殺さなければいけません。私は本当に殺せるのか?自分の好きな人を殺せるのか?自問自答をしつつ、少女は18歳のとある夜、その大名の部屋へと忍び込みます。そして、刀を持ち上げました。寝ている彼の傍で。そこで、彼女は彼の寝顔を視界に捉え――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そのまま、躊躇なしに殺しました」

 

 

 

 

 

声音は、通常の陽炎に戻る。

下を見続ける赤い眼は、今一体何処を見ているのだろうか。

肩を竦め、彼女は続きを再び話す。

 

「彼女の中で、”殺す”という事はいつしか”普通の事”になっていたのです。殺し過ぎた代償。本当に大事な者、初めて好きになった者を殺した少女は、その場で自害しました。舞い散る鮮血。彼女はそのまま彼の上に倒れると、そのまま永遠の眠りにつきました・・・」

 

顔を上げると、陽炎は真剣な眼差しで俺を射抜く。

赤い瞳に鋭い眼光を宿し、彼女はきっぱりと言い放った。

 

 

「一番ダメなのは、殺しに慣れる事だ」

 

 

その言葉は、深く、俺の胸に突き刺さる。

薄れゆく意識。覚醒の時は、近いらしい。

 

朧げに薄れゆく俺にすうっと近づいた陽炎は、俺の額を人差し指で小突く。

 

そして、少し微笑んだ。

 

 

 

 

 

「真。あんたは――――何の為に、戦うの?」

 

 

 

 


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