東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第七章第八話「二択」

――――――全身が痛い。

 

深い微睡から覚醒すると同時に、俺は明確に痛みを感じる。

甦る記憶。最後の、一瞬の決着。

何度目か分からない敗北に、俺はそっと唇をかみしめた。

 

そのまま固まる事数秒。俺はやっと目を開き、そして体を無理やり起こす。

 

「・・・ああ、起きたかい」

 

すると、隣から勇儀の声が聞こえた。優し気な声音に安心し辺りを見回すと、そこは畳の敷かれた家の中。

白い布団に横たわっている俺のすぐ隣で胡坐を掻いている勇儀は、頬杖を突きながら少し微笑む。

 

「どう?体は」

「痛いけど・・・動けない訳じゃないです」

 

右手を掲げ、掌を握ったり肘を曲げてみたりする。

時々軋むような痛みは走る物の、耐えられない程度では無い。

 

戦うな、と言われていた事を今更俺は思い出し、がくりと肩を落とす。

 

「そっか。悪いね、引き留めちゃって。・・・急いでるんだろう?」

「え、ええまあ・・・」

 

おずおずと答えると、勇儀は立ち上がり部屋から出て行く。

数分後、バンダナで何かを包んだものを勇儀は右手に持ち、俺へとそれを投げ渡した。

 

「一応、おにぎりとおかずだ。持って行きな」

 

そう言い、ニッと笑う勇儀。俺は一度大きく頭を下げ、そして立ち上がった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「慌ただしくてすみません。このお礼は、必ずします」

「おお、楽しみにしてるからな!じゃあ、何が起きてるか分からないけど頑張れよ!」

「はい!ありがとうございました!」

 

大きく手を振って来る勇儀に俺も振かえし、おにぎりを右手に携えその場から駆け出す。

遠くなっていく勇儀の家。地霊殿の方角へと、俺は走り続ける。

 

気を付けるのは、相も変わらず霊夢以外に見つかってはいけないと言う事。

 

走る足を止め、俺は旧都の分かれ道で左右の道を見回す。

 

隔・・・いや、悪夢は地霊殿に行った。

俺の目的に従うなら、本来ならばそっちへ行くべきだろう。

 

しかし。

 

俺はゆっくりと後ろへと振り返り、そこにそびえ立つ何かの施設を視界に納める。

 

不気味な程静かなそこは、さっきまでは無かった不穏な空気を湛えている。

嫌な、予感がする。

もし俺を撒く為に、そして間に合わせない為に異変の現場とは反対の地霊殿に行かせようとしていたらどうだろうか。

・・・ああ、ダメだ。やはり霊夢達と連絡が取りたい。

 

 

俺は奥歯を噛みしめ、しかし一個目の可能性を信じ地霊殿へと体の向きを変える。

そして再び走り始める。旧都の中を駆け巡り、街の外へ。

 

 

―――――――出た瞬間。

 

 

突然、ボガアアアアアアンンンッッ!!!! という轟音と共に俺の後方で何かが炸裂した。

鼓膜が張り詰め、キーンと頭の中で高い音が響く。

慌てて振りかえれば、そこには――――壁に大穴の空いた謎の施設が。

奥に見える、赤熱したマグマ。異常なまでのエネルギーが肌を叩き、その気配は”それ”だと俺に認識させる。

 

 

 

 

 

「暴走・・・妖・・・・ッ!!」

 

苦虫を噛み潰した様に俺は顔を顰める。

二択の、究極の質問。

 

どっちを選ぶのが。

 

果たして、正解なのか。


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