東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
パ「何をよ」
ラ「勇儀、幻夢さんに似てるわ」
パ「・・・そう?」
ラ「うん。(自分的に)書きやすい」
パ「上手く書けてるかは別としてね」
ラ「うっ・・・では、どうぞ!」
パ・・・パルスィ
パルスィが足を止める。
ざわざわと賑やかな声が聞こえ、アルコールの匂いは強くなる。
提灯が沢山付けられているそこは明るく、オレンジ色の光が辺りを包み込む。
その中心、体操着の上を着ている、一本角の女性を元へと俺達は歩み寄った。
「・・・勇儀」
「ん?おっ、パルスィじゃないか。どうしたんだい、珍しいな」
赤い枡を豪快に傾け、並々と入った透明な酒を喉に流し込む。
かーっ、と体を震わせ息を付いた女性は、頬をうっすらと赤く染めながら俺を見た。
「おっ、見ない顔だね。あんた、名前は?」
「あ、天音真です」
「へえ・・・あんたが、あの闇鬼を倒した奴か・・・」
胡坐を掻いたまま、パルスィの後ろに立つ俺の体をじっと眺めまわす。
面白そうに口元をむにむにとさせる彼女は、強く自分の胸を叩いた。
「あたしは星熊勇儀。鬼の四天王やってるもんだ。んで?何かようかい?」
「えっと・・・長い黒髪の女の子か、白髪の少年を見てないでしょうか?もし知って居たら、情報が欲しいのですが・・・」
「ふーん・・・あたしは知らないねえ」
勇儀はそういうと立ち上がり、大きく口を開いた。
「おーいあんたら!!長い黒髪の女の子か、白髪の少年を見てないかー!?」
どんちゃん騒ぎの、鬼の集会。
良く見れば皆角を持って居る。体全体に傷があり、そして豪快に酒を呑んでいた彼らは――――
勇儀の一言に静まり返り、そして何名かが手を上げた。
あの騒ぎを一瞬で納めた勇儀。改めて凄さを感じると同時に、俺は一つずつ発言を聞き始める。
「ああ、それなら・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
要約すると、どうやら目撃されたのは長い黒髪の女の子らしい。
その子は地底の、更に奥深くに鎮座する屋敷、その名も”地霊殿”の方面へと真っすぐ歩んで行った。
周りには誰も居ない。ただ感じたのは、強大な霊力と不気味な雰囲気だったと鬼たちは告げる。
「・・・ま、こんな感じさ」
「ありがとうございます、助かりました!」
「いやあ何、気にする事は無い。ただその・・・・お礼と言っては何だが、私の願いを聞いてもらえないかい?」
勇儀は申し訳なさそうに頭を下げる。
俺が慌てて了承すると勇儀は顔を上げ、そしてにかっと口角を吊り上げた。
「あたしと戦って欲しい。ちょっと、闇鬼を倒したあんたの強さが知りたくなった」
☆★☆
どうしてこうなった。
何で俺は、こんな所で鬼の四天王と戦う事になったんだ。
「よし、始めるよ」
目の前で楽しそうに笑う勇儀。
内心、冷や汗が洪水の様に流れている俺はそっと桜ノ妖に手を当てる。
「よーい、どんっ!」
勇儀は盃にお酒を入れたまま、開始の宣言をした。
どっと沸く観衆。奥の方で頭を抱えるパルスィ。
俺は柄を握り、走りながら抜刀しようとした所で――――
「無理だな・・・・。うん。フルバーストっ!!」
その手を離し、30%の霊力で身体能力を大幅に向上させる。
刀を抜かない事に驚いたのか勇儀の眼が見開かれるが、俺はそこに遠慮なく拳を叩き込んだ。
パアン! と肌と肌がぶつかる音が響き、より一層観衆が湧いた。
俺の拳を片手で受け止めた勇儀。杯の中の酒を揺らさず、彼女は俺へと鋭い蹴りを撃ち放つ。
・・・が、それを俺は体を捻る事で回避する。そしてその捻りを利用し、今度は俺が蹴りを叩き込む!!
それは一瞬の攻防。
勇儀は直ぐに跳び退り、その蹴りを回避し。
俺はそれを見るまでも無く、再び構える。
一瞬の静けさ。高まる緊張感、鼓動。
勇儀がニヤッと笑うのと、俺が右拳を強く握りしめるのは、全く同時だった。
ゴオオ・・・・と俺の右手から炎が燃え上がる。霊力を変換して生成されたその炎はちりちりと肌を焼き、僅かながら熱風を周囲に撒き散らかす。
「・・・へえ」
面白そうに、勇儀が声を漏らした。
悠然と立つ彼女。杯を持ったままただ突っ立っているだけだが、どこにも隙は見つからない。
考えろ。幻夢ならどうする――――?
いや、考えるまでも無く、答えは一つ。
「正々堂々・・・真っ向勝負!!」
更に炎は強まる。
俺は地面を全力で蹴りぬき、爆発的に加速。
周囲の景色が飛んで行く中で詰められた勇儀との距離。零にも等しいその位置で、俺は真紅の弧を描き炎の拳を振るう。
上体を逸らして躱す勇儀。振りぬいた拳から迸る熱風で、彼女の髪が大きく舞い上がる。
まだだ。
幻夢なら。ここで、逃げない。
俺は目標とする師を思い浮かべ、左拳をも強く握りしめる。
今までの自分を超えろ。振るえるのは、一つだけでも、真っすぐに進むだけの力では無い。
右拳を戻しつつ。そして、上体を起こす勇儀に向けて俺は左拳でアッパーをかます。
炎が宙に軌道を描く。火柱の様になったそれを彼女は寸前で回避するが。
そこには、俺の燃え盛る拳が撃ちこまれていた。
ドゴォンッ!!!
堅い手応え。鈍く響く音。
振りぬいた拳は勇儀の頬骨に衝突し、彼女の体ごと大きく仰け反らせる。
追撃しようとするも、その状態からバク転を繰り返し勇儀は態勢を立て直す。
再び開く距離。彼女の眼から、最早油断は消えていた。
「・・・いやあ、思ったよりも強いねえ。・・・でも、その腰の刀を使わないのは何故だい?」
勇儀は酒を口に含み、そして呟く。
鋭い眼光を宿し、強く、勇儀は俺を睨みつけた。
「それとも・・・・舐めてるのか?余裕か?」
「舐めてないですし、余裕も無いです」
俺は勇儀に即答する。本心を。
謙遜でも無い。嘘でも無い。
刀を抜かない理由。それは――――――
「丸腰の相手に、俺は刀を抜きたくありません」
勇儀の表情が固まる。
驚きに包まれた顔。静かな世界。
しかし、俺が何かを言うよりも早く、観衆がどっと笑いだした。
『姉御にあんな事言ってやんの!馬鹿だろあいつ!』
『そんなに死にてえなら殺してやるよー!!』
『勇儀の頭ー、そんな奴相手してないで酒呑みましょうよー!!』
様々な声が聞こえる。俺を嘲笑う声が聞こえる。
確かに馬鹿な話だ。下手したら、勇儀の気分次第では死ぬ状態にある俺が、こんな事を言っているのだ。
だけど俺は、眼をそらさずに勇儀を見続ける。
彼女の瞳を睨みつけ、そしてまだ俺は戦えると無言のまま示す。
「・・・ああ・・・そうかい」
やがて、ぽつりと勇儀は呟いた。
未だに笑い続ける観衆。勇儀はそれを一瞥もせずに、杯を口元に持って行き。
一気に、中身を全て飲み干した。
それを見て、周りの奴らの動きは止まる。
再び訪れる静けさ。空になった杯を、勇儀は後ろへ放り投げた。
「・・・馬鹿だ、って事は分かったよ」
両手の指を絡め、そして音を鳴らす。
急激に高まる緊張感。張り詰めた糸が切り裂けそうな程に、場に立ちこめる殺気はヒートアップしていく。
「ただ――――そういうのは、嫌いじゃない」
勇儀は獰猛な笑みを浮かべ、軽く膝を曲げた。
俺もそれに応える様に、少し腰を落とす。
静かな雰囲気。戦いの火蓋は。
・・・たった一滴。酒が、零れる音。