東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

105 / 224
第七章第四話「空の上で」

見つけた。

人里を出て、飛ぶこと数時間。

最早日も暮れ始めて来た頃に、俺はやっと妖怪の山の麓にある大穴を見つける事が出来た。

空中からの散策。生い茂る緑が視界を塞ぐが、それでは隠しきれない程に穴は広く、大きかったのだ。

八咫烏をその場に留め、俺はじっと目を凝らす。

・・・誰も居ない。

 

「どう?行けそう?」

「ああ、隔か。・・・うん。これくらいなら八咫烏で・・・・」

 

突然声を掛けられる。

聞きなれた声音。俺は何の疑問も抱かず答え、そして全力で振り向いた。

 

「か、隔!?」

「やっほー。どしたの?」

 

そこには長い黒髪を揺らす、幼馴染の姿があった。

軽く右手を振った彼女は、俺の隣で浮いたまま首を傾げる。

 

「いやまあ、その・・・観光?」

「こんな所に?」

 

珍しく、隔がドンドン踏み込んで来る。ひょいと隔が俺に近づき、俺は八咫烏の上で後ずさりした。

 

「色々あんだよ・・・察せ」

「私にも話せないの?」

 

少しだけ俯く隔。どうしても話してはならないと分かっているのにも関わらず、俺は頬を掻きつつ口を開いてしまった。

 

「・・・悪夢の調査だよ。地底に居たらしくてな」

「へえ・・・」

 

俯いたまま、隔がぽつりと声を漏らす。

後ろで手を組んでいた彼女はぱっと手を離し、そして俺へと両腕を巻きつけた。

 

急に抱きしめられ、一気に頬が熱くなるのを感じる。

隔の温もりを体全体で感じながら、俺は耳元で囁かれる言葉に集中する。

 

「ありがとうね、真・・・・教えてくれて」

 

吐息が耳の先に当たる。長く滑らかな黒髪が頬を撫で、くすぐったさとそこから香る花の匂いに鼻孔を刺激される。

がっちがちに緊張した状態。数秒後、隔の腕から解放されると同時に俺は思わず長く息を吐いた。

 

「じゃあね、真。私も地底に行かなきゃ」

「お、おう。がが、頑張れよ」

 

盛大にどもりつつ、微笑んだ隔に俺も手を振る。

ふわりと距離を取る彼女。そのままくるりと体を180°回転させ、隔は大穴へとその身を躍らせた。

 

心臓に手を当てると、まだバクバクと強く脈打っている。

鼻血が出るのではないかと言うくらいの体温の高まり。

 

 

 

しかしそれは、何の気なしに思い浮かんだ考えによって、一瞬にして吹き飛ぶ事と成る。

 

 

―――――――待て。隔って、飛べたっけ(、、、、、、、、、、、、)

 

ドクン と。

今までとは違う心臓の高鳴り。

鼓動が早鐘を打つ。慌てて見下ろした大穴。最早隔の姿は見えない。

 

あいつは飛べたのか・・・?

いや、もし飛べる様になったら必ず俺に自慢してくる筈だ。

白玉楼にも遊びに来るはずだ。レミリア様も、きっと隔が飛べるのにお前は飛べないのか?とか言いに来る筈だ。

 

仮に全てが無かったとしても、それを差し引いても――――

 

あいつは、高所恐怖症じゃないが絶叫系が苦手だ。

 

 

ここから底が見えない大穴へと、自ら、全速力で突っ込むなんて事が。

 

それこそ、ある筈がない。

 

 

 

刹那。

 

「フルバーストッ!!」

 

切羽詰まった声で俺は叫び、右腕に刻まれた刻印を黄金の光と共に浮かび上がらせた。

八咫烏を解き、頭を大穴へと向ける。

そして、足から霊力を変換した炎を、空中に向けて放出した。

 

ボッ!! と加速する世界。真っすぐに迫る地上、暗く大きい口を広げる眼下の世界。

 

熱気が渦巻き状に撒き散らかされる。熱い風が渦を巻き、朱き炎は夕焼けの空を更に赤く染め上げる。

 

もしあの隔が悪夢だとしたら。

それは少なくとも、悪夢が隔に化けれると言う事だ。

 

いや、隔だけじゃないかもしれない。

もしかしたら霊夢にも、暁にも魔理沙にも妖夢にも化けれるかもしれない。

レミリア様や幽々子様にも。

 

底の見えない穴を下へ下へと落ちて行く。

その間に並べられていく仮説。考えられる可能性を、ただひたすらに思い浮かべる。

 

一番バレては行けない相手にバレてしまった。

 

ぎりっ、と奥歯を強く噛みしめる。

さっきまでの自分を殴りたい。良く聞いてみろ、隔の口調も、様子も少し可笑しかったじゃないか。

 

「もっと・・・燃え上がれ・・・っ!!」

 

絞り出すように、俺は気合を込める。

足から噴き出す炎。その熱気に汗がだらだらと垂れているのにも関わらず、俺は更に火力を求める。

 

速く。速く。

 

手遅れに、成る前に――――!!

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

ダガアアアンッッ!!!

 

強い衝撃が体を襲う。熱風が波紋上に周囲に撒き散らかされ、地面が余りのエネルギーに耐え切れずに網目状に砕け散った。

 

俺はゆっくりと立ち上がり、そして辺りを見回す。

 

そこは、太陽の光が一切入らない地下の世界。

俺はやっと、地底に着いたのだ。

 

周りには誰も居ない。それを確認し、俺は焦りを必死に押さえつけ、ゆっくりと歩き始めた。

 

焦るな。見落としを、許すな。

 

そう、心の中で呟きながら。

 

 

☆★☆

 

暫くして、俺はとある川にぶち当たった。

黒い、まるで呪いが掛かっているかのような川。

どす黒い流れから俺は一歩離れ、そして川の上流の方に在る木の橋と、その上に乗っている人を見つけた。

それが異変解決メンバーでは無い事を遠目に確認し、俺は小走りで近寄る。

 

「すみません!」

 

木の橋の真ん中。

手すりに体を預けている人物は、俺の声に顔だけ振り返った。

 

翡翠の様な、鮮やかな緑色の瞳。くすんだ金髪。でも決して汚くないそれは、彼女の瞳も合わさり物静かな雰囲気を醸し出している。

 

「・・・その・・・俺、天音真って言います。少し聞きたい事があるんですが・・・まず、お名前を聞かせて貰っても良いでしょうか?」

 

その女性は振り返り、俺の方を訝し気に見る。

感じるのは妖力。この人が妖怪なんだと理解するのに、そう時間はかからなかった。

 

数十秒後、徐に目の前の女性は口を開く。

 

 

「・・・水橋パルスィよ・・・人に気軽に話しかけれるなんて、妬ましいわね・・・!」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。