東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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どうも!ラギアです!
この作品は完結した『東方夢幻魂歌』の続編となります。
・・・が、全然二部からでも楽しめると思います!
世界観の解説は勿論、前の作品とは全く違う作品としても読めます。
以前のも読んでいる方は、より深く謎を理解できると考えております。
タグにもある通り毎日投稿!
張り切って行きましょう、それでは、どうぞ!!


プロローグ「幻想への誘い」

朝七時ごろ。

とある少女はご機嫌で階段を駆け上り、上に居る幼馴染を叩き起こそうと考えていた。

さて、どうやって起こそうか。

この前突然関節技を決めるのはやった。

他に面白いのは・・・

 

「・・・よし、妹大作戦だ!」

 

長い黒髪を揺らしながら、少女は笑みを溢す。

ドアを静かに開け、ベッド際に立ち寄り。

 

大きく、口を開いた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「おにーちゃん♪もう朝だよ、起きて起きてー!」

「・・・ほあっ!?」

 

小鳥が囀り、眩しい朝日が俺を照らす。

そして、突如耳に入った謎の声。

可笑しい。何故かと言うと俺、天音真(あまねしん)は一人っ子である。

幼い頃に父と母は他界し、それから隣に住んでいた幼馴染の魂魄家にお世話になっていた。

かつての家で一人暮らしをしつつ、隣の魂魄家から時折仕送りをしてもらう。

どうやらかなりの資産家らしく、この程度の出費、人助けの為なら容易い!と言っていた記憶がある。

俺に、家族は居ない。

 

だが声は明らかにお兄ちゃん、と俺を呼んだ。

思わず変な声を上げた俺の上から、温もりを提供してくれていた布団が剥ぎ取られた。

 

それと同時に目を開けた俺は、真上で満面の笑みを咲かせている幼馴染、魂魄隔(こんぱくかくり)と目が合った。

名字から分かる通り、この少女は隣の家の長女だ。

昔から仲良くしていて、今でも毎日ご飯を創りに来てくれる。

 

「ふふふ、驚いた?残念、ロリコン真に呼びかけたのは私でした!!」

「いや、ロリコンじゃ無いし・・・。」

 

肩甲骨くらいまである黒い髪を耳に引っ掛け、薄い胸の前で彼女は手を組んだ。

身長は高校二年生ながら163と小さく、同じく黒い眼をきらきらと輝かせている。

 

「まあまあ、それより今日から新学期だよ!頑張ろうね!」

 

もう黒と赤が基調のブレザーに着替えた隔はそう言い、再び笑みを俺に向けた。

雪の様に白く絹の様にきめ細かい肌。整った顔立ち。

 

間違いなく学校で一番可愛い俺の幼馴染は、数か月ぶりの学校に心を躍らせている様だ。

 

 

 

そう。俺と隔は数か月前まで、とある場所に居た。

 

 

日本にあって、日本に無い。

その場所は、『幻想郷』。

忘れ去られた者たちが集うその場所で、俺と隔は大きな事件に巻き込まれた。

 

それは、夢を現実にする禁断の呪法を使おうとする奴を止める為の、大きな事件。

それには大量の魂が必要で、結界に穴が空いた所為で幻想郷に居ない隔の魂も取られてしまったのだ。

唯一の幼馴染を助けるべく、俺は戦いーーーそして、無事に日常生活を迎えることが出来た。

 

向こうには吸血鬼や魔法使い、巫女や幽霊なども居る。

ずっと居ても退屈しない、それが幻想郷。

 

 

まあ俺にはこっちの生活がある為、異変解決後は直ぐに戻ってきたが。

 

布団を剥ぎ取られたベッドの上で、俺は長く息を吐いた。

もう桜は咲き誇り、柔らかい風が頬を撫でていく。

 

「・・・新学期、ねえ・・・。」

 

ぽつりと呟いた言葉は、風にさらわれて消えて行った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「・・・ああ、校長先生の話長かった・・・。」

 

始業式もクラス分けも終わり、俺は友達と帰った隔と別れ一人通学路を歩いていた。

川沿いに見える桜並木は全て満開で、通り過ぎる車は少しだけ速度を落として行って居る。

風が吹くごとに舞い散る桜は儚くも、美しかった。

 

とぼとぼと帰り、空腹の腹をさする。

隔任せじゃ無くて、今日は何か作ってみようか。

俺はそんな事を考えつつ、何も入っていないであろうポストに手を突っ込み。

 

「ん?」

 

カサ、と言う擦れる音と紙の手触りを感じた。

意外に思いながらもそれを引き抜き、茶袋に刻まれた文字を読み上げる。

 

「天音・・・真様?俺宛てか。」

 

玄関のカギを開け、自室への階段を上っていく。

封筒の封を切り、バッグをベッドの上に投げた俺は茶袋の中に入っていた手紙に目を通し始めた。

 

 

『天音 真様へ

 

 ご機嫌いかがかしら?八雲紫です。

 そっちでは桜が咲いてる?こっちは白玉楼と博麗神社の桜が満開よ。

 貴方が特に何も言わず居なくなったから、皆結構怖い笑みで酒瓶を握りつぶしていました。

 賢者である私も思わず震えあがりました。まる。

 

 さて、本題に移ろうと思います。

 

 ・・・もう一度、幻想郷に来る気はないかしら?』

 

対して長くない文章。

しかしそこで手紙の一枚目は終わり、二枚目へと俺は目を通そうと紙を入れ替える。

 

はっきり言ってここでの返事は”来る気は無い”だ。

隔との日常も取り戻し、やっと男子高校生として生きて行ける。

あっちも楽しいが、流石にもう行く気はーーーー

 

 

俺はそう考え、ぼーっと二枚目に目を通した。

否、最初だけ読んであとはすっ飛ばした。

 

 

 

『霧雨魔理沙が異変に巻き込まれました』

 

 

一文。

たったこの一文で、俺は制服を脱ぎ捨て、パーカーとジーンズに急いで着替える。

 

 

さっきまでの浅はかな考えが全て馬鹿らしく、三分前の自分を殴ってやりたい。

そうだ。八雲紫が何の用も無く手紙を出すはずが無い。

友人が事件に巻き込まれた。

救けを求めている。

 

 

行く理由は、これだけで十分過ぎるほどに出来た。

 

 

 

 

竹刀と小手を引っ掴み、前に幻想郷で手に入れた二つの勾玉を首に掛ける。

 

そのまま自室のドアを強く開け放ち、俺は階段を滑る様に駆け下りた。

勢いを殺さないまま台所に滑り込み、食パンを口の中に放り込む。

 

咀嚼しながら俺は手紙の続きを読み始めた。

 

『・・・これだけで充分でしょう?行き方は簡単。玄関から外に出るだけ!!繋げて置いたわ。いつでも来なさいな。』

 

食パンの二枚目を口に入れ、俺は時計を確認する。

 

今は十二時半。

あっちとこっちは時の流れが一緒だから、今から言っても迷惑にはならないだろうーーー

 

 

そう考えている間に、玄関が開きただいまー、と声が室内に響いた。

今、一番会いたくない人が帰ってくるとは。

固まっていると、その人物は台所に入って来た。

 

 

「・・・真?どうしたの!?」

「いや・・・ちょっとね。お出かけ・・・。」

 

俺を見るなり、魂魄隔は叫び声を上げた。

無理も無い、帰ってきたら幼馴染が竹刀と小手を担ぎ食パンをかじっているのだから。

 

「お出かけ?どこに?」

「えっと・・・分かんない。」

「はあ!?・・・全く、何の為に行くの?」

 

 

「友達を助けるため」

 

 

流石に幻想郷と答えるのは不味いだろう。

俺は必死に目を反らしながら呟き、しかし次いで放たれた質問には即答する。

 

それ以外に理由は無い。

何も、恥ずかしい事は無い。

 

暫し、隔は動きを止めた。

何だこいつ、とか思っているのだろうか。

 

一分くらい経ち、隔は大きくため息を吐いた。

バッグを地面に放り投げ、制服を脱ぎ始める。

 

「え、ちょ、まあっ!?」

「あー、あっち向いてて。」

 

黒いリボンの付いたカチューシャは丁寧に地面に置かれ、衣擦れの音だけが静かな部屋に響く。

ここで覗けば確実に瞬殺されるから必死に目を手で隠しているが、それが余計想像力を掻き立てるのだった。

 

 

 

「・・・はい、着替え終わったわよ。」

 

数分後、隔の合図が出て俺は目を開けた。

目の前にはミニスカートにTシャツ、ジャケットと言う完璧に動きやすさを重視した格好の少女が佇んでいた。

おまけに右手には木刀が握られ、足元には乱雑に置かれた制服が。

・・・あれ?何か下着g

 

「ふん!」

「あぐおっ!?」

 

地面に視線を這わせていると突然木刀が腹に突き刺さり、本日何度目か分からない奇声を発してしまった。

涙目で隔を見ると、漆黒の瞳を俺に向けながら小さく口を開く。

 

「・・・私も手伝う。じゃないと行かせない。」

「危ないから、ダメだって」

 

「あのねえ!尚更そんなとこに真一人で行かすと思ってる?」

 

「うぐっ・・・」

 

思わず言葉に詰まった俺の横を通り抜け、隔は同じように食パンを一枚口に咥えた。

 

「私も行くからね!」

「・・・はい。」

 

口論では勝てない。

喧嘩?勝てる訳がない。

しかし、あの世界では幸いと言うべきか強い人が沢山いる。

何とかして隔を戦わせずに、魔理沙を助けよう。

 

「うし、行くか!」

「うん!」

 

 

心を決め、俺は竹刀で床を叩いた。

そのまま玄関に向かい、靴を履く。

意思を引き締める様に靴紐を強く結び、俺は玄関の取っ手に手をかけた。

 

「えっと・・・どこから行くか分かんないから。」

「え?それってどうゆう・・・」

 

一応注意だけし、俺はドアを大きく開け放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーその瞬間、とんでもない風圧が俺を襲う。

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

眼下に広がる壮大な自然。山の上に昇る太陽。

大きな青い空が広がり、緑生い茂る大地に俺は向かっていた。

 

・・・いや、落ちていた。

 

近くに隔は居ない。

 

「前に幻想郷来たときも空から落ちたのにいいいいいいいいいいいいい!!!!?????」

 

 

しかし、無情にも落下は治まらない。

かなりの速度で落ちながら、俺は一つの希望を見つけた。

 

そう、湖だ。

 

あそこにプロ顔負けのフォームで飛び籠めれば・・・

 

無理です。はい。

 

万事休す、一瞬でピンチに陥った俺はーーーー

 

 

「うおおおおおああああああああ!!」

 

結局、湖に垂直の姿勢で飛び込んだ。

ばっしゃーーーーーんん!と水飛沫が跳ね上がり、体のいろんな場所が地面に叩きつけられたかのように痛む。

 

 

そのまま気を失った俺の最後の記憶は、緑のチャイナドレスの女性が同じように湖に飛び込むところだった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

スン、と鼻に着く消毒液の匂い。

手足は包帯が巻かれているのか動かしにくく、メガネは取り外されている様だった。

意識が覚醒した俺は、そのまま目を開ける。

助かった。その安堵と同時に目に映ったのは、紅い紅い天井だった。

 

そして、数か月ぶりに見る見慣れた天井でもあった。

 

「・・・紅魔館?」

 

思わず呟き、俺は上体を起こす。

確かに痛んだが、我慢できない程ではない。

そのまま眼鏡を手さぐりで探し当て、掛けた所で。

 

「久しぶりね、真。・・・ふふふ、勝手に居なくなって。覚悟は出来てるわよね?」

「お久しぶりです、咲夜さん。・・・あのう、起きていきなり殺気を放つのは止めて欲しいのですが・・・!!」

 

視界に入ったのは、恐ろしい程綺麗な笑顔を浮かべている咲夜さんだった。

十六夜咲夜。

紅魔館という赤い館のメイド長であり、胸は貧相でありながらそのほかのスタイルは抜群に良いと言う女性だ。

年齢は十代後半。

銀髪に切れ長の眼、ナイフを主に愛用している。

 

「・・・むう。大体、勝手に居なくなる真が悪いのよ。心配したのよ?・・・もっと、お話ししたかったのに。」

 

しかし、咲夜さんは殺気を抑えた物のそっぽを向き頬を膨らませた。

そのまま口を尖らせて不満を発散し、ベッド近くの椅子でもじもじと体を動かした。

 

「・・・すみません。その、またこうして会えたので。・・・沢山お話ししましょう?」

 

「むう。・・・二人っきりで人里ね。」

「はい、喜んで。」

 

上体だけ起こしたまま俺が微笑みかけると、咲夜さんはぼそっと一つ呟いた。

それに直ぐ了承する。

すると咲夜さんはちょっと顔を赤くし、ふへへ、と笑みを漏らした。

 

 

ああ、帰って来た。幻想郷に。

俺はそう思い、窓の外へと視線を向ける。

 

 

かなり長い時間眠っていたのか、山の奥には夕日が身を潜め、そらを茜色に染め上げていた。

 

 

 

 

 

 

ここから、少年の物語は始まる。

運命の歯車は過去をも動力にし、今と未来、そして過去を一つに繋いだ。

 

明かされるのは果たして何なのか。

彼らを待ち受ける試練や困難は、どう言った物なのか。

 

希望も絶望も奇想も夢幻も取り入れ、たった一人の少年を軸に世界は動き出す。

 

 

 

待ち受けるのは、いったい何なのかーーーーーー?

 

 

そして、最後に掴むのは何なのか。

 

 

誰も知らないままに、幻想は語り始める。


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