高坂穂乃果は再びスタートする   作:ひまわりヒナ

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廃校阻止のために動き出す3人。
その中でも穂乃果は廃校だけではなく様々な悩みを抱えていた。
特に1番の悩みは、μ'sをどうするかということであった。


3話 あの夢をもう一度

 穂乃果達3人は食事を終え、学校のアピールポイントを探し始めた。

 まず向かったのは図書室。そこにはもう何年も使われていないであろう資料がいくつかある。

 

「うわ、埃っぽいね」

「随分使われてないそうですから」

 

 とは言え、こんなにまで埃を被ってて良いのか?と思わず穂乃果は苦笑い。

 兎にも角にも古い資料本が見つかったので、近くの机で本を広げる。だがしかし、

 

(何にもないんだよね……)

 

 ため息をつく3人。

 この学校には歴史がある、それぐらいしかない事を知っていたからだ。その証拠に分厚い資料の中に特に目立った功績は書かれていない。

 それは何度細く見ても変わらない事実であった。

 

「次、校舎を改めて探索してみよ」

 

 ことりの提案通り、資料を戻した後、彼女達は校舎内を歩き回ることにした。

 人数に対し広すぎると感じるぐらいに、立派な校舎を持つ音ノ木坂学院。それは歴史があるというのがやはり大きいのだろう。

 

 しかしこれぐらいでは今一アピールに欠ける。

 3人はもう2年生であり、校舎内はよく分かっているが、一応見落としがないかくまなく探した。

 けれど、その先にある結果を穂乃果は知っていた。

 

「唯一分かったのは、やはり歴史があるってことぐらいですか……」

 

 探索を終え、教室に戻ってきた3人。

 結局分かったのは、歴史がある、という事だけであった。

 

「ことりちゃん、何かないかな?」

「うーん、強いて言えば、古くからあるってことかな?」「ことり、話聞いていましたか?」

「あ、でもさっき調べて、部活動では少し良いところ見つけたよ!」

 

 あ……、穂乃果は特に反応を示さなかった。ことりが持ってきた情報は非常に微妙だと知っていたからだ。

 

「あんまり目立つものではなかったんだけど、うちの高校の部活で最近1番目立ったことって言うと、

 珠算関東6位、合唱部地区予選奨励賞、最後は……ロボット部書類審査で失格」

「どれももう一声欲しいですし、最後に至っては自慢できることではないですね」

 

 調べてきたことりも思わず苦笑い。

 やはり目立った功績がなかった、という事実に穂乃果は分かっていたのにもかかわらず、だめだー、と心からの声をあげた。

 

「考えてみれば、目立つところがあればもう少し生徒も来ているはずです」

「そうだね、家に帰ったらお母さんに聞いて、もう少し調べてみるよ」

 

 訪れる静寂。

 とてもではないが、今の情報だけではアピールなんてできない。そして、今後探して見つかる可能性があるとは思えない。

 ことりと海未は廃校を阻止するのは難しいという事実に頭を悩ませ、穂乃果はμ'sを作るしかないという事に、覚悟を決めたはずがやはり頭を悩ませていた。

 

 その日、学校で廃校を阻止する方法は穂乃果以外分からなかった。

 

 

 

 

 穂乃果は家に帰った。

 未来で目立った改装はしていないため、いつも通りの家が確かに存在し、帰ったらタイムスリップなんて嘘でした、みたいな感じにならないだろうか?と僅かに期待していたが、そんな事は一切なかった。

 

「ただいま」

「あ、お姉ちゃん、お帰り」

 

 穂乃果はため息をつきながら座り、机に突っ伏す。

 絶対に廃校から救おう、と思ったが、その為にはμ'sを作らなければならない。そして一度は作ろう!と決めた。

 もちろん、作ってもう一度活動したいというのは、やりたい事であるし、何よりそれが願いであった。

 

 けれどそれ以上にあの時の誓いが、μ'sを解散するという誓いが、彼女を引き留めていた。皆で精一杯悩んだ結果だからだ。

 

 一方雪穂は内容までは分からないが、誰がどう見ても一目で分かるほど落ち込んでいる姉に、

 

「チョコいる?」

「いる」

「餡子入りだけど……」「ありがと」「え」

 

 その情報は穂乃果の耳から耳へと見事通り過ぎていき、チョコを口の中へと放り込んだ。

 そして感じる何度も食べ覚えのある甘味。もはや飽き飽きとした甘味が口の中に広がった。

 

「っ!? これ餡子入ってる!」

「言ったよ!?」

「あぁ、もう餡子は何度も食べて飽きたよ……」

 

 あれ? 雪穂は少し違和感を感じた。

 姉としては正直情けないが、いつもなら駄々をこねたように、餡子飽きた!と言うのが彼女であったことを知っていたからだ。

 それがどうだろう、今目の前にいる彼女は大人しく、文句を言っている。違和感を感じるのも普通であった。

 

「あ、雪穂、それ……」

「え、あ、これ?UTX。私来年受けるの」

 

 唐突な話題転換に少し戸惑いながら、雪穂はそう言った。

 あぁ、そう言えばそうだった。と穂乃果は過去を振り返りながら、置いてあったUTXのパンフレットを開く。

 そして雪穂はUTXを受けると言って、何も驚く様子を見せない彼女にやはり違和感を感じていた。

 

「A−RISE……」

「お姉ちゃん知ってるの?」

「うん、まぁ、ちょっと」

「意外。お姉ちゃん、アイドルとかそういう情報に乏しいかと思ってた。UTXのことも」

 

 雪穂の言っている事は正確には正しい。

 昔の彼女は確かに知らなかった、雪穂がUTXに通おうとしていることも含めて。けれど今の穂乃果にはこの頃の身の回りの情報であれば、ほとんど分かっていた。

 

「ま、周りの子達が結構話してるから」

「あぁ、そっか。そりゃ、あれだけ人気なら話題にもなるよね」

 

 何とか誤魔化すことはできたが、少し気を付けないと行けないなと感じた。穂乃果はできるだけ穂乃果らしさを出さないといけない、そう無意識に感じていた。だからこそ、

 

「何で、UTXにするの?」

 

 昔の自分なら聞いているであろう質問をした。

 

「音ノ木坂無くなっちゃうって聞いたから……」

「やっぱり、もう噂になっちゃってるんだね」

「うん、もうこの辺りでは有名な話。廃校の話まで出てきたから、友達も受けてもしょうがないって」

「そうだよ、ね……」

 

 何度も聞いた廃校の噂、廃校を阻止した経験があるけれど、その噂を聞くのはやはり辛い。ましてそれが妹からとなると、尚更。

 けれど、それが理解できないわけではない。廃校、UTXの人気、それらを考えれば誰だってUTXに入りたいと言うだろう。

 そう、これは今の状況からすれば必然的、当たり前の事。穂乃果はその事を痛い程理解していた。

 

「あのさ」

 

 当たり前の事実に直面し、気持ちを暗くする彼女に、雪穂は心配した表情で話しかけた。

 

「こんな事言うのおかしいけど、お姉ちゃんなら私の事止めるかと思ってた」

「え?」

「だってお婆ちゃんもお母さんも、そしてお姉ちゃんも音ノ木坂。別に受け継いでるってわけじゃないけど、お姉ちゃんなら無理にでも止める……説得ぐらいしてくるかなって」

 

 あぁ、そう言えばあの時は必死に雪穂を止めようとしたっけ。

 穂乃果の脳裏に、雪穂からUTXを受けると最初に聞いた時の光景が流れた。そう、あの時は彼女をとにかく止めたかった。雪穂と一緒に音ノ木坂の制服を着て一緒に通いたい気持ちが強く表れていた。

 ずっと、ずっと一緒だったから。

 

「穂乃果は雪穂と一緒に音ノ木坂に通いたい気持ちはかわらないよ」

「お姉ちゃん……」

「雪穂とは昔からずっと一緒だった。だから音ノ木坂に一緒に行きたい、同じ制服を着たい、同じ学校で一緒に笑っていたい。

 それは私の夢、私の叶えたい夢なの」

 

 そう言って穂乃果はニコッと雪穂に笑顔を見せると、

 

「だから止めないわけないよ、それに雪穂のためにも廃校になんてさせない」

 

 1人の少女が学校の廃校を阻止する事を決意した。

 それはあまりにも、『無謀な夢』

 けれど雪穂は不思議と無理ではないように思えた。姉からの言葉は何とも言えない、不思議な力が秘められているそんな気がしたのだ。

 だから……

 

「私、本当は音ノ木坂に行きたい。

 お婆ちゃんやお母さん、お姉ちゃんと一緒の制服着て、家族で一緒に写真に写りたいの」

「うん、私もだよ」

「でも、でも……悔しいけど、もうどうしようもないじゃん!」

 

 雪穂は涙を流す。そんな彼女を穂乃果はそっと抱きしめる。

 いつもはクールな彼女、でも、本当はこんな気持ちを隠している。だから穂乃果は抱きしめる、そっと優しく包み込むように。

 

「私が……私達が何とかする。絶対に廃校を阻止するから」

 

 ごめん。

 海未ちゃん、ことりちゃん、凛ちゃん、花陽ちゃん、真姫ちゃん、にこちゃん、希ちゃん、絵里ちゃん。

 μ'sをまた作らせてください。

 そして……

 

 私達の夢をもう一度皆で叶えさせてください。

 

 

 

 




廃校阻止、そうなればμ'sの復活から退くことはできない。けれど皆と決めたことが穂乃果ちゃんにμ's復活の判断を止めていました。
しかし雪穂ちゃんの思いを知り、覚悟を決めた穂乃果。
無謀な夢を叶えるため、本格的に動き出します。

後半の雪穂ちゃんとの話はsidを参考にしています。大好きな回だったので。

それではまた次回。

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