これによってついに7人となったμ's。
新たな物語は穂乃果の体験通り着々と進んでいた。
お久しぶりの投稿です。
今回はにこちゃん誕生日ということもあって、アニメの時系列5話から6話に移動する前ににこちゃんがどのような状況がなどのお話を少し。
投稿ペースについてですが、かなり不定期になります。8月は何話か投稿できれば良いなとは思っています。
それではどうぞ。
『最高の時間が待っているわよ』
未来の私から言われたのはその言葉だった。
約一ヶ月間、私の中にもう一人の誰かが同居していた。その感覚はとても不思議なもので、何かをしたいと思うとそれに上塗りされる形でもう一人の意思が介入してくる。記憶もなんだかめちゃくちゃで、自分の分からない情報でも分かっていたかのように頭の中に浮かんでくる。でもその内容を思い出そうとしても思い出すことはできない。そんな奇妙な日々だったがでもそれは嫌な事ではなくて、私はそれを受け入れていた。
それにこのような経験がなければ私はずっと謝れなかっただろう。ずっと抱えていたあの悩みを解消できることはなかったはずだ。
だが、そんな日々にも終わりの時がやってきた。
未来の私はずっとこの日がやってくることを自覚していたらしい。
今彼女は、未来の『矢澤にこ』はもう私の中に存在しない。
喪失感に近いものは感じたが、寂しさのような感情はなかった。それはきっと彼女が最後に笑って帰ることができたからだと思う。
高坂穂乃果、彼女の願いは間違いなく叶っていた。
「今は未来のにこちゃんじゃなくて……この時代のにこちゃんってことでいいんですか?」
7人でのSTART:DASH!!を踊り終わった後、生徒会へ書類を提出。無事問題が解決したところで、今日のところは解散ということになった。
そして今は穂乃果とにこだけがアイドル研究部部室に残り、席に向かい合って座っていた。確認するべきことがいくつかあった。
「別に今更敬語じゃなくていいわよ、みんなの前では気を付けた方が良いとは思うけど。とりあえずその認識で間違いないわ。まぁ私自身ちゃんと理解できてるわけじゃないんだけど」
「えーっと、どこまで記憶してるの?」
「そうね、始業式から今日まで全部覚えてるけど、未来の記憶は思い出そうとしても思い出せないって感じね」
にこはより詳しく記憶について話す。
未来のにこがおそらく現れたと思われる始業式の日から今日に至るまで、自分の行動から何から何まですべての事を記憶している。しかし未来の内容だと思われることについては、靄がかかったようにはっきりと思い出すことはできない。穂乃果とはもちろん繋がりはなかったが、始業式の日から当たり前のように知っていた感覚があった。
「あなたが未来の穂乃果だってことは把握してる。おそらく今のあんたは私と同じ感覚なんだと思う」
「つまりこの時代の私はちゃんと今の行動を記憶してるってことだよね……」
ぎゅっと心臓のあたりを掴む。もう一人の自分がどうなっているのかという疑問に、彼女が答えを与えてくれた。
確実にもう一人の私は今という時間を生きていると分かると、脳裏に今のままでよいのかという疑問が過った。
「私はこの一ヶ月を違和感なく受け入れることができた。あまり気にする必要もないんじゃないかしら」
僅かに穂乃果の表情が曇ったように見えたにこはそう言った。
本当にそれでよいのかと悩みはするだろうが、今は気にしたところで対策があるわけではない。気楽に、という言葉はあまりにも無責任だが気にせずに過ごすように言う以外に言葉が見当たらなかった。
そんな時ふと思い出したことがあった。間違いなくそれは穂乃果にとって朗報であることは確かだったので、とっさに。
「そういえば、あんたに言っておきたいことがあって。未来の私、最後も笑ってた」
「本当!よかったー、昔と違うことやっちゃったから、迷惑かけちゃったかなって思って」
彼女の表情はすぐに明るくなって笑顔を見せた。
穂乃果の事は先程も言った通り良くは知らない、あるのは未来の私が彼女と交流していた記憶だけ。しかもその記憶は未来の自分が関わったことなので、何も知らないはずの人物と当たり前のように話す記憶は正直なところとても奇妙なものだ。
けれどその未来の自分が楽しそうに話していた記憶は彼女の笑顔を見て、印象が変わった。
残した言葉の意味が、少し分かったかも。
「ん?何か言った?」
「何でもないわよ、とりあえず確認したいことってこれぐらい?こっちは何だかんだ違和感がないから、あんたが未来から来たのかってこと以外、確認も疑問も特に浮かばなくて」
にことしては、確かに未来から来たというSFじみた事に何の疑問も浮かばないわけではないが、未来の自分がいたということもあって受け入れ難い事実ではない。もっともどうやってこの時代になどと質問したところで解決しないことは、すでに理解している。
一方穂乃果は少し考えた様子を見せた後、
「私も大丈夫だと思う!もし何かあったとしても、連絡はすぐに取れるし!」
そう言って携帯を取り出す。
確かに今となっては特別急ぐ必要はない。後々湧いてくる疑問もあるだろうが、いつでも話し合うことは可能だ。
むしろ今は各々ゆっくり考える時間を設けるべきかもしれない。
「そうね、それじゃ今日のところはお開きにしましょうか。日も暮れてきたし」
「うん、そうだね!いやー何か色々安心したらお腹空いてきちゃったー」
「お腹空いたって、結構呑気な性格なのね。まぁ悪くないと思うけど」
えへへ、と笑う穂乃果。そんな彼女を見て少し笑みを浮かべるにこ。
彼女にとって穂乃果という存在は、まだ生まれたばかりの人物で、彼女が一体どんな性格なのか、彼女と過ごして一体どうなっていくのか、まだまだ未知数だ。
しかし未来の自分が言ったその言葉に嘘があるとは思えない。
未来の自分が信じた仲間達、高坂穂乃果とはμ'sとはなんなのか。
明るい希望を胸に部室の扉に鍵をかけた。
––▽––▽––▽––
実に神秘的な光景だった。
天国など見たことはないが、あそこが天国だと言われれば十分に納得できるほどの空間、輝くように咲く花畑。
そんな場所が目の前に広がったかと思えば、強い風が一瞬吹いて、美しく花を散らす。
思わず目を閉じて次に目を開けた時には、見知らぬ天井が広がっていた。
「っ……」
僅かに重く感じる自分の身体は何かふかふかとした柔らかいもの上にあった。それが布団である事にすぐに気付く。
だが何故私は布団の上にいるのだろうか、と考えた時、あまり慣れない僅かに薬品が混じったような匂いと、高い機械音がなっていることを脳が知覚した。
それらの要素から、ここがおそらく病院であろうという結論に至るまで時間はかからなかった。
ゆっくりと上半身を起こす、周りを確認するよりも先に現状を理解することに頭は動いていた。
今の気持ちは、充実感、もしくは喪失感。対照的とも言える言葉が混在している。
そして上手く言葉が当てはめることができないと悩んだ時、ハッと我に返ったかのように手元を見る。
そこには何もなかったが、一枚の羽根がそこにあった事を思い出した時、約一ヵ月間の記憶が走馬灯のように駆け巡った。
「私、そっか」
軽く手を閉じたり開いたりしながら、記憶に浸り、全てを理解した。
戻ってきたんだ、元の世界に。
それを理解した時、ようやく視線は動き出した。
そして真っ先に視界に入ってきたのは、
「虎太郎に、ここあ、こころ?」
夕日が差し込む窓、椅子に座って互いに肩を寄せ合って寝ている三人の姿。
まだ脳に三人の小さい頃の姿が鮮明に残っているからか、6年という時が経って大きくなった三人と小さい頃の三人の姿が重なる。
大きくなった……ときっと何度も思ったことを改めて感じていた。
「に、こ……?」
そんな時、扉を開く音と共に何度も聞いた、母親の声が聞こえてきた。
その声に視線を向ける、声からも分かっていたが驚いた表情をしていて、扉の前で固まっていた。
なんて声をかけようか?言葉選びに迷い、視線が泳ぐ。
自分が病院にいるということは、きっと家族に心配をかけただろう。それは分かっているのだが、自分はずっと6年前の家族と共に過ごしてきていたので、第一声かける言葉は何か思いつかない。
「え、えっと」
「やっと目を覚ましたのね。皆、心配したんだから」
言葉に迷っていると、そう言って静かに抱きしめてくれた。
その腕は僅かに震えているのが分かる、先程の表情からも察するに想像以上に心配をかけたのかもしれない。
そう感じ取ったにこはこちらからも抱きしめる。少しでも安心してもらえればよい、という気持ちだけだった。
「それじゃあ私は一ヶ月も?」
落ち着いたところで、何があったのかを話を聞いた。
にこはアイドル活動を終え休憩室で一人休んでいた、しばらくしてマネージャーが彼女を呼びに部屋の中に入ってみるとそこには倒れた彼女の姿があり、緊急搬送された。
彼女が倒れた原因ははっきりしたことは分かっていないらしく、現状は多忙なアイドル活動による疲労から起こったとされているらしい。そして彼女は一ヶ月もの間そのまま眠り続けたいたそうだ。
その話を聞いた彼女は当時の事を思い出す。
確かそう、あの時は話の通り休憩室で休んでいて、少し動こうと思って椅子から立ち上がったら何故か一枚の羽根が……
その時すっかり大事なことを忘れていたことに気付いた。
一ヶ月間、時間としては同じだがタイムスリップという奇妙な現象が本当だったのか、それとも夢だったのか、それを確認しなければならない。
その為には、にこはある質問をした。
「ママ!皆は、μ'sの皆は今どうなってるの!?」
確認する為の方法はすぐに浮かんだ。
もしこの経験が事実なら、きっと私と同じ状況にあったはず。つまり今の彼女たちの現状が、特に穂乃果の現状が分かればそれが事実であったと分かるはず。
「なんでそれを……?」
「やっぱり、何かあったのね。いったい誰に何があったの?」
「それは――――」
母親から語られたものはにこに答えを与えるものであった。
にこちゃんは未来から来たと知っている人物にはなりましたが、記憶は残っていないようです。しかし穂乃果ちゃんとの交流した一カ月は記憶に残っている、その為かなり距離が近づいた状態での再スタートとなりました。話し相手ができたのはとても良い変化ですね。
一方、未来のにこちゃんは無事家族と合流できました。そしてこのタイムスリップが事実であったかどうかの確認のため、μ'sメンバーについての質問をしましたが……その答えはなんだったのでしょう?
さて、久々の投稿でしたが如何でしたか?次回は6話に入ると思われます、不定期ではありますが楽しみにお待ちいただけましたら幸いです。
それではまた次回。