高坂穂乃果は再びスタートする   作:ひまわりヒナ

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ずっとずっと、勇気が持てず悩み続けていた花陽。
そんな花陽は多くの応援をもらい、ついに勇気を出して踏み出した。そしてそれを支えた真姫と凛もμ'sに加わり、メンバーの数は3人から6人となった。


さて6人となって、次はあの人……と思いきや、穂乃果ちゃんにとんでもない出来事が……?

それではどうぞ


16話 新たな予感

 花陽、凛、そして真姫。

 3人がμ'sの一員となってから、1週間程経過していた。

 

 本格的な練習は控え基本的な練習を重点的に行い、体力をつけると共に今の生活に慣れさせる事を目的とした活動をしていた。

 その活動はかなり順調に進んでいた。というのも、穂乃果が彼女達の特徴、どれだけ運動できるかなどを熟知していたからである。

 海未が練習メニューなどを作り上げる、それに変わりはないが、そこに穂乃果の的確なアドバイスが入る事により、さらなる完成度を引き出したのである。

 

「今日の練習も疲れた〜!」

 

 22時00分を過ぎた頃、いつも通り食事や風呂を終え、布団の上に横になる穂乃果。

 まだ昔のような仲の良さは存在しない。先輩後輩の隔たりはあるし、第1メンバーが揃って初めてあれは完成するものである。

 だから満足しているわけではないが、それでも今は楽しい。

 メンバーと共に練習をし、時には雑談をして、時には寄り道をして、そんな毎日にほとんど不満はない。

 強いて言えば、このまま順調に進んでくれるかという悩みが絶えないことぐらいであった。

 

「でも、ここまで来たなら、多分大丈夫だよね」

 

 大きな変化を起こさず、昔の自分を精一杯演じ、その為前と同じように事は進んでいる。

 そう、このままの自分で、昔通りの自分であれば何も問題はない……そのはずなのだ。

 だがその心のどこかで、

 

 上手くいきすぎている生活に疑問を抱いている。

 

「……考えても分からないよ」

 

 自分の今の状況さえ分かっていないのに、先の事が分かるわけがない。

 未来のことを体験しているのに、未来のことが分からない。矛盾してはいるが、悩む要因はいくつかある。

 そもそも、数年という時が経った記憶。確かに強い印象が残る1年だったとは言え、1日1日細かいことを全て覚えているわけではない。

 精一杯やっているとは言ったが、自分は本当に昔の自分を演じられているのか、その悩みも絶えない。

 

 何よりも彼女にとっての問題は、それを相談できる人がいない、という事。

 

 決してメンバー達、家族、友人達などを信頼していないわけではない。けれど言ってしまった時にどうなるか、言って何か根本的な解決にはなるのか、相談するにしても悩みは絶えない。

 

 そんな時、

「お姉ちゃん、起きてる?」

 ドアの向こうから雪穂の声が聞こえた。

 突然の事に少し驚きながらも上体を起こし「起きてるよー」と返事する。

 

「入っていい?」

「うん、いいよ。おいで」

 

 穂乃果からの返事を確認し、引き戸を開く雪穂。既に寝巻きに着替えていた。

 

「どうしたのー?」

 

 笑顔で質問しながら、布団の上にスペースを作り座るように手招きする穂乃果。雪穂はちょっとね、と言いながら静かに座る。

 

「最近どう?アイドル活動、上手くいってる?」

「うん!前にも話したけど、花陽ちゃん、凛ちゃん、真姫ちゃんっていう1年生の子が入ったんだ!」

「ふふ、毎日聞いてるから覚えてるよ」

「あれ、そうだっけ?」

 

 キョトンとした表情で首を傾げる穂乃果。雪穂はクスッと笑う。

 

 雪穂にはスクールアイドルを始めたことはもちろん、時間があれば毎日の出来事を話していた。

 こちらからだけではなく、雪穂の事についても何度も話している。

 これは昔からずっと、そして未来も全く変わらずやっていることで、この時だけは本当の意味で特に何も考えず素直に話せる時間だった。

 

「雪穂は?勉強とか上手くいってる?音ノ木入れる?」

「言ったでしょ、私はUTX」

「えぇ!?待って待ってぇ〜!絶対上手くいく!穂乃果達が絶対に廃校阻止するから!」

 

 UTXにすると言われ慌てて彼女を止めようとする穂乃果。

 そんな彼女を見て雪穂は笑いながら、

 

「大丈夫大丈夫、今のは嘘だよ。私、お姉ちゃんならやってくれるって信じてる」

「本当?本当だよね?」

「うん!もちろん!だから頑張って、お姉ちゃん!」

 

「うぅ、ありがとう〜!雪穂〜!」「ちょ、お姉ちゃん泣かないでよ!もう……」

 

 泣きながら抱きついてくる穂乃果を、そんな言葉をかけながらも優しく受け止める。

 そんな彼女の表情はどこか安心しているような感じがするものであった。それを証明するかのように、雪穂は小さな声で、良かった、と呟いた。

 

「良かった、って何が?」

 

 その言葉に疑問を感じた穂乃果は、雪穂に問いかける。

 彼女は最初は視線をズラし、話すのを躊躇うような素振りを見せたが、少し考えた後口を開いた。

 

「最近、ちょっとお姉ちゃん変わったなーって思ってたから」

「え、私が?」

「うん。あ、悪い意味ではないんだ。昔より少し大人っぽくなったって言うか、落ち着いたと言うか……最近は凄い考え込んでるでしょ?昔はあんなに考え込んでるの見たことなかった。

 本当に私が見てるのはお姉ちゃんなのかな、って思っちゃうぐらいに……心配だった」

 

 そう言われ穂乃果は気づく。

 最近は自分の状況に頭を悩まし、μ'sのことばかり考えていた。

 それは学校もそうであったが、家の中で特に集中していただろう。だからこそ、今まで気付かなかった。

 自分の目の届かない場所で、悩ませてしまっていた事。自分の視野が自然と狭まっていた事に。

 

 μ'sはもちろん大切だ。そもそも今ここに自分がいるのは、おそらくこの頃に戻りたい、この頃に戻ってμ'sとしてもう一度活動したいと願ったから。

 でも家族のことも大切だ。

 養ってくれる両親、そして今こうして心配した表情を向けてくれる雪穂。

 

 自分は昔も今も未来も、彼女の姉、高坂穂乃果なのである。

 

 −−ありがとう、雪穂。

 彼女は雪穂を抱きしめそう言った。

 心配してくれていたこと、いつも自分と話してくれていること、いつも応援してくれること、感謝する事は沢山ある。

 その中でも1番強かったのは、自分の妹として生まれてきてくれたことだったかもしれない。

 

「私は大丈夫。私は私だよ、雪穂のお姉ちゃんの高坂穂乃果」

「……うん、そうだよね。うん、お姉ちゃんはお姉ちゃんだ」

「ごめんね、心配かけて」

「ううん、大丈夫。悩んでたの廃校とかμ'sのことだったんでしょ?当たり前だよね、悩まないわけがないもん」

 

 悩みの正体、雪穂の予想は不十分であった。いや、そもそもタイムスリップなんていうことを予想できるわけがない。

 だから穂乃果は一瞬、うん、と一言言うのを躊躇った。けれど彼女は頷きながら、うん、と返した。

 

 今の私は本当の私……それさえも偽りと言えるのかもしれない。

 だから彼女は思う、私は嘘をついている、と。

 

 でも、時には言って良い嘘もある。

 

 

 

 その日、2人はそのまま一緒に寝る事にした。

 何となく一緒に寝たくなった、2人の気持ちは単純で同じものであったが、それこそが2人の仲の良さなのであろう。

 

「昔はよくこうして一緒に寝てたよね」

「一緒のベッドに寝たら……同じ夢を見られるのかなってよく話してたね」

「雪穂はいつもお姫様の夢」「お姉ちゃんはいつも怪獣の夢」

 

 そう言って2人はクスクスと笑う。

 

「見れたらいいな、私とお姉ちゃんで音ノ木坂の制服着て、家族皆で写真撮って……」

「見れるよ。だって私達、いつまでも一緒でしょ」

「そうだね。お姉ちゃん、私が入れるように頑張ってよ」

「お姉ちゃんに任せなさい!!」

「ふふ、流石私のお姉ちゃん」

 

 そんな話をしていると、気が付けば2人は瞼を閉じていた。

 

 

 

 

 次の日、昨日の夜励ましてもらったおかげもあってか、肩が軽いように感じながらいつも通り朝練に向かった。

 そして5人と会って、5人と学校へ行って、授業を受けて、昼は一緒にご飯を食べて、また授業を受けて、普段と変わらないいつも通りを過ごす。

 

「一緒に帰りましょう、2人とも」

「良かったら、甘い物でも食べに行かない?」

 

 2年生教室、放課後となり一緒に帰ろうと言う海未。それに続いてことりは今日は練習が休みの為、甘い物を食べに行こうと提案した。

 

「いいですね、穂乃果は?」

「大丈夫!あ、1年生の3人も誘ってみよ!」

「そうだね、それじゃ早速……」

 

 予定が決まり、早速1年生を誘うと教室を出ようと、教室後ろ側のドアを開けようとしたその時だった。

 

「高坂穂乃果、いる?」

 

 前側のドアが開いたと同時に、聞き覚えのある声で名前を呼ぶ声が穂乃果の耳に届いた。

 廊下側から聞こえ、教室内には入っていない様子。彼女は目の前のドアを少し開け、上半身を出してその声が聞こえた方を見る。そして驚愕する。

 

(に、にこちゃん……!?)

 

 そこにいたのは矢澤にこだった。

 何故ここに!?その疑問と同時に焦り始める穂乃果。

 彼女と会うのは、後1週間程経ってからのはずであったからである。そもそもそれが記憶違いだったとしても、今この場に彼女がいること、それ自体が驚くべき事なのである。

 

「穂乃果、呼ばれているようですよ」

「誰だろう?」

「あぁ!ちょ、ちょっと待って待って!」

 

 海未とことりの耳にも呼んだ声は届いている。

 一体誰だろうかと気になり見ようとするが、穂乃果はそれを必死に止めた。彼女を見てしまったら、その後どうなるか考える暇がなかったからだ。

 

「今日は一緒に帰れないかも……って、うわっ!」

 

 マズイと思った穂乃果は彼女をとりあえずここから離す為、2人に今日は一緒に行けないと言ってドアを開けてすぐに向かおうとした。

 だがドアを開けた瞬間、腕を掴まれ引っ張られた。

 

「ほ、穂乃果!?」「穂乃果ちゃん!?」

 

 2人は驚いて、直ぐに教室を出たがその時には既に穂乃果の姿が小さく見える程の距離を何者かに連れられながら走っていた。

 

「走りなさい!」

「な、何で!」

「いいから今は黙って走りなさい、穂乃果!後で話すから!」

「えぇ!えぇ!?」

 

 何で既に私の名前を……そんな疑問をする暇もない程とにかく走らされる穂乃果。

 

 にこはどこに私を連れていくのだろう。にこは何故私を呼んだのだろう。にこは何故このタイミングで現れたのだろう。

 そんな多くの疑問は、突然の出来事で頭の中でグチャグチャになっていたが、とにかく何かとんでもない事になるのではないか、穂乃果はそんな気がしながら彼女に連れられ走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




雪穂と会話を通し、色々な事に気付いたと同時に、励まされ改めて頑張る事を決めた穂乃果。
そんな彼女が次の日の放課後に出会ったのは、矢澤にこ。
会うはずのない彼女がどうして、穂乃果の前に現れたのか……


にこちゃん出現、しかしまさかのタイミング。
全く予想されていなかった出来事に戸惑う穂乃果ちゃん。
次回、何故彼女が現れたのかそれが分かります。
もしかしたら、過去の話を読んで頂けると何となくこれかもという予想が出てくるかもしれません。

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本当にありがとうございます。
投稿ペースは遅いですが、完結を目指しこれからも頑張りますので、今後もよろしくお願いします。

@LLH1hina twitterにて活動報告、適当に呟いてます。
何か質問などがあればそちらから、又、感想や評価よかったらお願いします。

それではまた次回。

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