高坂穂乃果は再びスタートする   作:ひまわりヒナ

14 / 29
1stライブ、気がかりな点はあるが次に向けて動き出す穂乃果。
そんな彼女の次のすべき事は、花陽達の勧誘。
今の所問題はないが、このまま問題なく進むか分からない恐怖が彼女を苦しめていた。

時間があったので完成させる事ができました。
2点報告があるので、よろしければ後書きをご覧ください。


13話 それぞれの思い

「生徒は全く集まりませんでした。

 スクールアイドルの活動は学院にとってマイナスだと思います」

 

 放課後、理事長室。そこにいるのは希と絵里、そして理事長長。

 椅子に静かに座っている理事長に対し、絵里はそう言った。

 

 1stライブから得たものは穂乃果達には確かに多く、結果は良いものだったかもしれない。

 しかし客観的に評価すれば、絵里の言葉はもっともである。

 マイナスだと言われても、中々反論し辛いのが現状であった。

 

「学校の事情で、生徒の活動を制限するのは……」

「でしたら、学院存続のために生徒会も独自で活動させてください!」

「それはダメよ」

 

 絵里の言葉をバッサリと切った。

 学校の事情で生徒の活動を制限するのがダメだと言うのなら、生徒会が独自に活動をするのも認められるはずだ。その絵里の考えは間違っていない。

 だが理事長は彼女の行動を認めようとはしなかった。その意味が、絵里には全く分からなかった。

 

「何故ですか!」

 

 思わず絵里は机を強く手を置く。

 彼女の音ノ木坂学院への気持ちを考えれば、自然とそうなってしまうのも無理はなかった。

 しかしそれを知っているのに理事長は彼女の行動を認めない、その気持ちに揺らぎはなかった。

 いや、寧ろ知っているからこそ、彼女の行動を認めなかったのだ。

 

 その理由はもちろんある。

 絵里も分からないとはいえ思考を放棄しているわけではない。何かしらの理由から断られてしまっていることは分かっている。

 なら教えてくれても良いではないか、そう彼女は思うかもしれないと考えるが、理事長はその口を開く事はない。

 憎まれようと怒りを買うことになろうと、それを彼女自身に気付いて欲しかったからだ。

 

「全然人気がないわけじゃないみたいですよ」

 

 話を変えるように、理事長はパソコンの画面を絵里と希に見せた。

 そこに映っていたのは穂乃果達の1stライブの映像。

 

「この前のライブの映像やな」

 

 希はこの時初めてライブの映像がアップされていた事を知った。そして絵里もそのはず、と希は思っていたが、どこか様子がおかしいように思えた。

 

「誰かが撮ってたんやな」

 

 そう言う希の視線は絵里の姿を捉えていた。

 希は隠れてμ'sを支援している。そして気付いたのは、中心であろう穂乃果が計画的な人物ではない事である。

 1stライブの動画をアップし多くの人に知ってもらう。という発想は何も奇抜な発想ではない。

 だがそれをする気配は見当たらなかった。

 

 もちろん自分の見ていない範囲でやっていたと言うのなら話は別だが、あのチームの性格上この動画をあげたのは他の人物である可能性が大きい。

 そして候補を考えれば、あの時手伝っていた3人。もしくは……絵里。

 根拠を並べたが、絵里の事をよく知る希は、絵里ならこうするだろうという彼女だからこそ分かる事がある。

 ほぼ彼女で間違いないと思っていた。

 

「……失礼します」

 

 動画はまだ途中であったが、目を離し絵里は理事長室を出た。

 そんな彼女の後を追って希も理事長を出る。

 

「なんで、なんでなの……」

 

 絵里は利口な人物であった。

 相手に文句を言うのなら相手の事をよく知ってから、そう思っている彼女はスクールアイドルについてよく調べた。だからこそ理事長に見せられた時気付いた。

 

 彼女達が少ない方とは言え認められているという事実を。

 

 本当に人気がなければ、厳しい話、全く見られていない。現に見られていないグループを何度も確認した。

 穂乃果達は最初と考えれば、まだ良い方、いや人気がある方と言っても過言ではない。

 彼女達は絵里が予想した方とは斜めの方向を進んでいる。

 

 そしてもう1つ分からないのは、理事長のこと。

 何故動いてはいけないのか、何が足りないのか、全く分からない。

 

「エリチ……」

 

 希は何となくだが理事長が何故彼女を認めようとしないのか、その理由が分かっていた。

 だがそれを絵里に気づかせるタイミングが今は見当たらない。

 親友として、そのもどかしさが辛かった。

 

 

 

 

 

 一方1年生教室。

 学校の終わりを告げるチャイムが鳴り、花陽はカバンに教科書等をしまっていた。

 そんな彼女へいつも通り元気な声で「かよちん!」と呼ぶ凛。

 

「決まった部活?今日までに決めるって」

「あ、そうだっけ?明日、決めようかな」

「そろそろ決めないと、皆、部活始めてるよ」

「う、うん」

 

 部活動紹介が終わったため、いよいよ1年生は部活決めが始まっていた。

 部活によるが、なるべく早く始めた方が得なのに変わりはない。他の皆もそれが分かっているため、行動に移している者が大半である。

 多くの人が急ぐ中、花陽は1人、決心がつかないままであった。

 

「と、ところで、凛ちゃんは?」

「凛は陸上部かなー」

「り、陸上部か」

 

 凛の運動神経はかなりのものである。

 その事を知っていた花陽は陸上部と聞いて、正にベストな部活だ、と思う反面、僅かに期待していた返答とは違い、より部活を決めるのが難しくなっていた。

 

「あ、もしかして、スクールアイドルに入ろうと思ってたり?」

「え!そ、そんな事……ない」

 

 そう言って指を合わせる花陽。

 その行動、実は花陽が嘘を付いた時にする行動であり、昔からの馴染みである凛はもちろんそれを知っていて、彼女の言葉が嘘である事は筒抜けであった。

 

「ふーん、やっぱりそうだったんだねー」

「そ、そんなこと」

「ダメだよかよちん、嘘つく時必ず指合わせるから、嘘だって分かっちゃうよー」

 

 そう言われたら何も反論できない。

 そんな花陽の腕を掴んで、

 

「一緒に行ってあげるから先輩達のところに行こう?」

「えぇ!?ち、違うの!ホントに、わ、私じゃ、アイドルなんて……」

「かよちん、そんなに可愛いんだよ、人気でるよー!」

 

 そう言って引っ張る凛。

 しかし必死に待ってと言いながら、頑なに動こうとしない花陽。

 これだけ嫌がるのは何かしらの理由がある、そう考えた凛はその手を離した。

 

「あ、あのね、ワガママ言っても良い?」

「しょうがないなー、何?」

「私が、あ、アイドルやるって言ったら一緒にやってくれる?」

 

 先程、凛に部活をどうするのか聞いた時、実はアイドルをやりたいと言って欲しい気持ちが少しあった。

 あの1stライブ、あの時、確かに凛が穂乃果達の、スクールアイドルの何かしらに惹かれているものがあると感じたからだ。

 できるなら一緒にやりたい、いや、スクールアイドルをやるなら彼女と一緒にやりたい、その気持ちが強かった。

 

「凛が?」

「うん」

 

 だが、その願いが叶いにくいものである事を花陽はよく分かっていた。

 

「無理無理!凛はアイドルなんて似合わないよ。

 ほら、女の子っぽくないし。髪だってこんな短いし」

「そんな事……」

「それにほら昔も色々あったでしょ」

 

 凛は小学生の頃、スカートを履いたことが全くなかった。

 1度だけ履いた事はあったのだが、学校へ向かう途中、通りかかったクラスの男の子に、凛がスカートを履いてる、いつもズボンなのに、スカートもってたんだ、と言われた。

 おそらくただ珍しいというだけで、決して馬鹿にしていたわけではなかったのだろう。

 けれどまだ幼かった凛にはその言葉がからかわれているものだ、と思ってしまい女の子ものの服をめったに着なくなってしまったのだ。

 

「アイドルなんて、凛には絶対無理だよ」

 

 花陽は知っている、凛は本当は誰よりも女の子らしいという事を。

 だが、それを凛は否定する。自分には向いてないと、壁を作ってしまう。

 ダンスだろうか、それとも歌だろうか、衣装だろうか、理由は分からないがスクールアイドルに、μ'sに何か自分の可能性を感じたはずなのに、凛はそれをふさぎこんでしまう。

 もちろん、個人的に彼女とスクールアイドルをやりたいという気持ちがある。だがそれ以上に彼女のやりたい気持ちをふさぎこんでほしくないという親友としての気持ちが、花陽にはあった。

 それは凛の花陽への気持ちと同じ様に。

 

「り、凛、陸上部の見学行ってくるから今日はこれで」

「あ、う、うん。じゃあね」

「うん!ちゃんと部活決めなよー!」

 

 凛は教室から出て行った。

 

 

 

 凛は気が付けばトイレにいた。

 そして目の前に広がる鏡をじっと見つめていた。

 

「凛じゃ、アイドルなんて……」

 

 そう思う気持ちの反面、昨日見たライブの事を思い出し、考える。

 私もあんな風に踊ってみたい、あんな風に輝いてみたい、と。

 だがそんな気持ちに自分自身でブレーキをかけてしまう。

 私がいるような場所ではない、と思ってしまう。

 

「それより、かよちんを応援してあげなきゃ」

 

 自分の気持ちを隠すように、花陽の事を考える。

 花陽がスクールアイドルをやりたいと思ってる気持ちに嘘はないと確信している。

 だが消極的なためにその気持ちをちゃんと出せていない事を知っている。

 彼女のアイドルへの思いは、誰よりも強い。

 

「よし」

 

 顔を洗って、気持ちを切り替える。

 凛は陸上部が練習する運動場へ急いだ。

 

 

 

 一方花陽は1人教室に残ってずっと部活について考えていた。

 だがずっと迷うだけで結論には辿り着けない。

 いくら考えても終わりがないので、彼女は仕方なく今日は帰る事にしよう、そう思い席を立った。

 そして教室の外へ出た時である。

 

(西木野さん?)

 

 教室に戻って、見つからないようにひょっこりと顔を出した。

 間違いなく、そこにいたのは西木野真姫。

 彼女がいる場所はちょうどμ'sのチラシがある場所だった。

 彼女はチラシを取ると、その場から離れていった。

 

「今の……」

 

 彼女がいなくなった事を確認した花陽は足早にチラシの前へ向かった。そして偶然見つける。

 

「これ、西木野さんの」

 

 足元に落ちていたのは真姫の生徒手帳。

 落としたんだ、と気づいた彼女はすぐに真姫の後を追った。

 しかし辺りには彼女の姿がない。まだそんなに時間が経っていないので、近くにいると思ったのだが、やはりいない。

 

「ど、どうしよう」

 

 生徒手帳は証明書にもなる大事なものである。

 頻繁に使うわけではないが、ないとなったら焦るだろう。そう考えると1日でも早く、生徒手帳を彼女の元に返してあげなければと考える。

 しかし、どうすれば……そう考えているうちにふとある方法を思いついた。

 

 

 

 

「ふぇえ!?」

 

 ある方法とは真姫の自宅に行く事であった。

 そして花陽はとんでもないものを目の当たりにした。

 それは真姫の家なのだが……家?と、疑問符を浮かべても仕方がないほどの大豪邸だったのだ。

 

「す、すごいなぁ」

 

 感心しながらも目的を果たすため、インターホンを鳴らす。

 すると聞こえてきたのは女性の声であった。

 

『はい』

「あ、あの、真姫さんと同じクラスの小泉、です」

『あら、真姫ちゃんの。今開けるわね』

「は、はい」

 

 少し経つと、「いらっしゃい、どうぞ入って」おそらく真姫のお母さんであろう人物が花陽を出迎えた。

 このような大豪邸は初めてであり、身を小さくしながら、失礼します、と家の中へ入っていく。

 

「そんなに畏まらないで、楽にしていいのよ」

「あ、は、はい」

 

 真姫の母にそう言われながら連れられた部屋は、またもや部屋?と疑問符を浮かべてしまう程の大きな部屋であった。

 そこに座って、と言われ指定されたソファーに座り、少し辺りを見渡す。内容はよく分からないが、様々なトロフィーなどがあり、とにかく凄いという事実に圧倒されていた。

 

「ちょっと待ってて、今病院の方に顔を出してるから」

「え、病院?」

「うちは病院を経営していて、あの子が継ぐことになっているの」

「そう、なんですか」

「良かったわ、高校に入ってから友達1人も呼ばないから心配してて」

 

 そんな会話をしていると、ガチャッとドアの開く音がした。

 

「ただいまー、誰か来てるの?」

 

 その声の主西木野真姫は母に手招きされ、部屋の中を見た。

 そして彼女の瞳に映ったのは、見覚えのある少女の姿であった。

 

「こ、こんにちは」

 

 どうしてここに、という疑問を抱えつつも、とりあえず向かい側に座ることにした真姫。

 母はお茶を入れてくると言って、その場を離れた。

 

「ご、ごめんなさい、急に」

「いったい何の用?」

「これ、落ちてたから」

 

 そう言って花陽が差し出したのは生徒手帳。

 西木野さんのだよね、と言われながらそれを受け取り、中身を調べてみると確かに自分のである事を確認した。

 そして当然浮かぶ疑問、

 

「なんで貴方が?」

「ご、ごめんなさい」

「なんで謝るのよ。と、ともかく、ありがとう」

 

 照れくさそうに言う真姫に、花陽は気になっていた事を話す。

 

「あ、あの、μ'sのポスター見てたよね?」

「わ、私が?知らないわ、人違いじゃないの」

「で、でも手帳もそこに落ちてたし……」

 

 証拠は十分、隠し通すことなんてできない。

 だがそれでも隠そうとする真姫は焦って立ち上がり、

 ガンッ

 と痛々しい音を鳴らしながら足を机にぶつけ、よろけ、椅子へと倒れこんだ。

 

「だ、大丈夫!?」

 

 すぐに立ち上がって安否を確認する花陽。

 

「へ、平気よ!全く、変なこと言うから!」

 

 この様子を見る限り大丈夫そうだ、そう思った花陽は思わず今の状況に笑っていた。

 学校では静かで真面目な子、だがこういう一面もある事をたった今知れた。

 

「笑わない!」

「ご、ごめんね、ふふ」

 

 意外と直ぐに仲良くなれるかもしれない、花陽はそんな事を思っていた。

 

 椅子を直し、改めて向き合って座り話を戻す。

 とはいえ、少し話の方向性は変わる。

 

「私がスクールアイドルに?」

 

 花陽は真姫にスクールアイドルをやらないのかと質問を投げた。

 

「うん、私いつも放課後音楽室の近くに行ってたの。

 西木野さんの歌、聞きたくて」

「私の?」

 

 真姫がスクールアイドルになると良い。

 その言葉にはそれ相応の花陽なりの理由がちゃんとあった。

 もちろん見た目なども大事ではあるが、それ以上に真姫の歌声を何度も聞き、彼女の歌声、音楽なら……

 と強く思っているからであった。

 

「ずっと聞いていたいぐらい好きで、だから」

「私ね、大学は医学部って決まってるの」

「い、医学部、そうなんだ」

「だから、私の音楽はもう終わってるってわけ」

 

 医学部は目指していないのでその辛さが分かるわけではないが、努力を重ねた人物の中でもほんの数人だけが入れる、そんな難しいイメージが強くあった。

 実際そのイメージに間違いはなく。ただ努力するだけでいけるような場所ではない。

 医学部と決まっている、その言葉の重みをなんとなくだが花陽は感じていた。

 

「それより貴方、アイドルやりたいんでしょ?」

「え?」

 

 唐突に話の矛先が自分に向き少し驚く。

 

「貴方この前のライブ夢中で見てたじゃない」

「え、西木野さんもいたんだ」

「わ、私はたまたま通りかかっただけよ。

 それよりも、やりたいならやればいいじゃない。

 そしたら、私、少しは応援してあげるから」

 

 真姫のその言葉は確かに花陽に勇気を与えた。

 しかし、

 

「ありがとう。

 でも、私なんかじゃ無理だよ……」

 

 まだ花陽は一歩を踏み出すことはできなかった。

 思い詰めた表情の彼女に何と言えば良いか真姫は分からず。何かを言う前に花陽は立ち上がった。

 

「そ、それじゃ、失礼しました」

「え、あ、うん、じゃあね……」

 

 花陽は真姫の母にも挨拶をした後、家から出て行った。

 部屋で1人になった真姫はやりたい事であるのにやれない、そんな花陽の姿と今の自分の姿を頭の中で照らし合わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




生徒会として動こうとする絵里。
そんな絵里を後ろから見守る希。
そして自分の心をふさぎ込む1年生メンバー。
穂乃果は彼女達の心を開く事ができるのだろうか。

さて、ここでご報告させていただきたいのは。
まず、活動の連絡について。
今まで通り本サイトの活動報告を使用していくのはもちろん、twitterを利用していきたいとも思っています。
https://twitter.com/LLH1hina

初めてなのでまだ分からないことだらけですが、できるだけ利用できたらと思っています。ぜひご確認を。

又2作品目の連載を始めました。題名は『星空凛と青春を』です。
詳しくはここでは話しません、よろしければ見てくださいという露骨な宣伝です。

もちろん主はこの作品なので、こちらを無視して2作品目に没頭……何てことはないのでご安心を。

それではまた次回。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。