ゆりかごの鍵は雪風の使い魔   作:楠木 蓮華

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呼び出されたのは言葉が通じない世界

「ミス・タバサ。あなたの順番ですよ」

 

声がした方を向くと、そこには少し頭に寂しさを感じさせる中年の男性……この召喚試験の担当教師のコルベールさんがいた。

 

この男性を見たことによって、私が今どんな状況に置かれているかを思い出した。そう、私は今……二年の進級もかかっている召喚試験の最中なのだ。周りには、幻獣であったりなどの生物と触れ合っている、同じ学園の、同じ制服を着た生徒達もいる。

 

「それでは始めて下さい」

 

 コルベールさんの声に促され、私は杖を前に突き出して、構えた。私は手に汗が滲んでいることに気がついた。自分でも驚きだが、珍しくも少し緊張しているようだった。

 

一体どんな生き物が召喚されるのだろうか……他の人たちのように、強力な幻獣であったりすると……私の立場的にはありがたいが……あまり贅沢はいえない……。でも……もし叶うのならば……もしも、ほんの少しでも……私の願いが叶うのならば……私の、目的を達するためにも……

 

お願いします……どうか……立派な使い魔を……。私はそう思いながら、召喚の呪文を紡ぐ。

 

「我が名はタバサ。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、使い魔を召喚せよ」

 

 呪文の詠唱を完了し、鏡のような形をしたゲートが現れる。私はあまりに眩しい光に目をつぶってしまった。光が収まったのを確認し、ゆっくりと目を開けると……そこには。

 

思い描いていた幻獣や、強力そうな生き物ではなく……人間の……平民の女の子だった。その格好を見るに、学生服のように見えるが……一番目を引いたのは、綺麗な金髪……そして、私達を不思議そうな表情で見ている、オッドアイの綺麗な瞳だった。

 

一時は静まり返っていた周りの外野も、一気に騒がしくなっていく……どうやら私が人間を召喚してしまったことに驚いているようだった。

 

けれど、私はその周りの声に耳を傾けている暇もなかった。私の心の中にある……なんとも言えない、失望のような、絶望のような気持ちが、出てきていたからだ。

 

しかし、その召喚をされた女の子は……そんな私の不安な心なんて知らないかのように、きょとんっと首を傾げていた。

 

 

**

 

 

私、見たこともないところにいつの間にか来ている、迷子の高町ヴィヴィオです。なんて、そんなことを自己紹介してる場合じゃないよね!

 

「こ、ここはどこなの……かな?」

 

あの光り輝く鏡に吸い込まれて、誰かに呼ばれたような気がしていたら、いつの間にかこんなところに来てるし……

 

「あっ……人がたくさんいる」

 

周りを見回すと、黒いマントのようなものを羽織っているたくさんの人がいました。どうやら私のことを見ているようで……私を見ながらなにやらこそこそと話をしていました。

 

どうすればいいのか悩んでいると、水色の綺麗な髪の毛をしていて、眼鏡をかけている女の子が近づいてきました。最初こそ、その髪に見とれていたのですが……距離が近づいてくるにつれて、私は……あることに気がつきました。

 

その女の子は……とても寂しげな目をしていたからです。最初に会った時のアインハルトさんのような……ううん、それ以上に……まるで感情を押し殺しているような……そんな……

 

『Hfjbfukxvxujdhdjd』

 

「へ……?」

 

じっとその女の子を見つめていると、その人がなにやら言ってきました。しかし、何を言っているのか、私にはわからない……ということは……

 

「言語が違う……?」

 

『Hfbfyvdkvdkgxthdkjd?』

 

「え、えっと……こういう時はどうすればいいんだっけ……」

 

『fkfbrgxikebeyccihevfj』

 

「うぅ……どうするもこうするも、お話ができないんだからどうしようもないよね……」

 

私はガクッと肩を落としました。意思疎通をするにも何も、まず言葉が通じないとどうしようもないのに……。

 

私が落胆していると……ちょっと頭がすっきりしているおじさんと、青い髪の女の子がなにやら話した後、お互いに頷いていました。

 

なにか決まったのかな……? も、もしかして私、どこかに連れてかれたりとかしちゃうの!? 流石にそれは困るっ! 連れていくとしても、お、穏便なところだったら嬉しいな~……なんて……

 

私が頭の中で思考を巡らせていると……ちょんちょんっと青い髪の女の子に肩を叩かれ、手招きをされた。

 

「? 来いってこと……だよね」

 

今は情報も少ないし……ついていくしかないよね。いざとなったら逃げればいいんだしっ!

 

そういうことで、私は青い髪の女の子についていくことになりました。

 

 

**

 

 

ここは場所は変わって、私は建物の中に来ました。ものすごく大きな建物で……私が通っている学校と同じくらいの大きさかなぁ……と考えていたところで、ふと思い立ったことがありました。

 

さっき、あの女の子と同じ服を着た人たちがいっぱいいたし、ここまで歩いてくるまでに……何人もの人が座って話を聴けるような場所もあった、もちろん黒板もあったし……もしかしたらここは学校かなにかなのかもしれない……。

 

でも……それならどうして私は学校に呼ばれたんだろう……それに、言葉も何も通じないところになんて……。どこか違う星……ということなのかな? ならママに連絡を取れば大丈夫……なのかな?

 

まずはどこに連れていかれるのかわからないけど、一段落したら連絡してみようっと。

 

そう思ったのもつかの間、どうやら目的の場所に着いたらしく、私は一つの一室に案内されました。

 

「お、おヒゲが立派な……おじいさん?」

 

そこにはとても長くて立派な白いおヒゲを生やした白い髪のおじいさんがいました。

 

『Hfjfgdyvdkhdgyd』

 

『Jgdrjdggdbsiqhzgdhd』

 

『Gdiywgusvcsjd』

 

またどうやら、なにか話しているようで……おヒゲのおじいさんは何回か頷いた後、私のことを見つめ始めた。

 

どうしたんだろう……? も、もしかして……私をどうにかする算段でも話してたのかな? で、でも、たぶんここ学校だし、そんなことはない……よね? ご、極秘の学校とかだったら……あるいはあるかも……っていやいやいやいや!? ないよっ、うんっ!

 

そういって、無理やり自分を納得させる。

 

うぅ……こんなことなら、あの鏡なんて無視すればよかったよぉ……

 

でも、そんなわけにも行かなかったし……わざわざ呼び出されたってことは、なにかしら意味があったはずだし……。

 

そんなことを考えていると……おヒゲのおじいさんが木製の杖のようなものをひょいひょいっと数回振りました。

 

「えっ、えっ!? なにごと!?」

 

するといきなり、私に向かって光が飛んできて私を包み込みました。

 

「通じた…」

 

「ふぇ?」

 

光が収まると……隣の、青い髪の女の子のいる方から、声が聞こえてきました。

 

「言葉……通じたみたい」

 

「え……あ、ほんとだっ!」

 

「どうやら成功のようです、オールド・オスマン」

 

「ふぉっふぉっふぉ……まぁ、これくらいなら朝飯前じゃ」

 

なんだかわからないけど……あのおヒゲおじいさんがなにかをして話が通じるようになったみたい……。

 

「えっとぉ……」

 

「おっと、そうでしたな……言葉が通じたのならば、どうしてこんなことになっているのか説明しないといけませんね」

 

「コルベール先生……私が説明します」

 

「ミス・タバサ? ですが……」

 

「私が召喚しました……だからです」

 

「ふむ……そう言われればそうですね。 ではミス・タバサ、説明を」

 

「はい……」

 

青い髪の女の子が説明をしてくれるみたいで、私の方を見て、話してくれました。

 

「私が貴女を呼んだのは……使い魔の召喚の試験のせい」

 

「使い魔……? 使い魔って……よく御伽噺に出てくるような、人の相棒のような存在で、幻獣だったりするやつですか?」

 

「うん……大体あってる」

 

なるほど……って……もしかして、私がここに呼ばれたのってまさか……

 

「なんとなく察してると思うけど……」

 

「わ、私が……その、貴女に、呼ばれた……?」

 

「ご名答……」

 

「えぇぇぇぇぇ!?」

 

高町ヴィヴィオ……どうやら使い魔として、呼び出されてしまったみたいです。

 

はぁ……どうなるんだろう、私。


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