みなさん
今目の前にいる方は、粉うことなき、『美人』でした。
凛とした顔立ちに、綺麗な艶を出した黒いロングヘアー、スラッとして一部は盛り上がった体、かなり上位に君臨するだろう。
それを俺は……。
「いや、まじですみません……」
「えっ? 謝るのはこっちらの方よ、こちらの社員のオバ……
『オバ?』
「そんなことないですよ、里見さんは凄く的確な判断をしてましたぁ……たぶん……」
音波は、刑事から貰った、報酬を、天童民間警備会社の社長。
それにしても気まずい、こんな美人って
里見くんの社長と、うちの
音波が頭のなかで、蓮太郎を、どう料理するかを考えていると、天童木更が質問をしてきた。
「ずっと気になっていたのだけれど、あなた、何故お面を外さないの?」
「別に深い意味はないけど、ただお洒落で着けているのと、素顔を見せるのが恥ずかしいだけで……」
「そうなの、その特徴からして、あなた……鉄民間警備会社の……フォックス兄妹でしょ」
「……御名答、ご挨拶が遅れました。プロモーターの
「天童木更、天童民間警備会社の社長をしてるわ」
「存じています」
場の空気が重たくなった。ただ自己紹介をしただけなのにどうしてこうなった?
理由はすぐにわかった。
「あなたみたいな人が、何故こんな簡単な依頼を受けているの?」
「そりゃ、俺たちもここに住んでるんだ、自分達の町を守ることくらい普通だろ?」
「そうね、でも、あなたほどの
「簡単なことだよ、俺はめんどくさがり屋なんでね、めんどくさそうな依頼は断って、簡単ですぐ片付きそうな依頼は受ける、それが俺のやり方」
「序列17位の人が序列12万の人に依頼を譲ってはくれないかしら」
「序列なんってただの飾りだ、里見くんがしたのなかでダントツに強い、千番台クラスだと俺は思ってるよ。そろそろ時間も遅いので、ここでおいとまさせていただくよ。明日また会える気がします」
茶飲みに入っていたお茶を飲み干して席を立ち、その場をあとにした。
場所は変わって、我が家。我が家は『春咲イチバン』というまあなんとも言えないネーミングセンスのないパン屋を営んでいる。
一階がパン屋でその奥が厨房、二階が我が家である。
レジには母がお客さんが持ってきたパンを袋に積めて、会計をしていた。
音波は母の手伝いを少ししてから、奥の厨房に入る。
厨房には父が生地を練っているところだった。
「親父、破棄されるパンは?」
音波の父は、あまり喋らないため、顎で廃棄されるパンの方向を教えてくれた。
その方向を見ると、ぎっしりとパンが詰められている籠が2つ、台のうえに置かれていた。
「いつもありがとう、たまには喋れよ」
父の顔がムスッと歪んだ気がするが、無視してそのまま籠を重ねて持ち上げる。
パンのはいた籠が2つあると、かなりずっしりとして重たい。
裏口からでると、すぐそばに、宅配用のバイクが2台置かれており、その一台の後ろに籠を固定した。
「さて、行くか」
バイクにまたがるり、ヘルメットを被ってから、バイクにエンジンをかけて走り出した。