暗殺~SWORD X SAMURAI~   作:蒼乃翼

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祝、るろうに剣心北海道編単行本発売

無事発売されて良かった良かった


異変の時間

 

 

ドッッ!!!!

 

 

「きゃあっ!」

「うぉっ?!」

殺せんせーが立っていた所を中心に爆発が起こり、その衝撃でフライボード部隊は陣形を崩して落水し、触手破壊隊も海に吹っ飛ばされてしまった。事前にE組のプールで烏間先生指導の下、着衣泳の訓練をしていたので全員溺れることは無かった。

「くっ…」

桟橋にいたタスクは回転機関砲を楯に神崎を抱き寄せて衝撃波を防いだ。

「…~っ」

健がその動体視力で最後に辛うじて見えたのは、水飛沫の奥で殺せんせーの身体が急激に収縮した光景だった。

「………殺ったのか…?」

全員が茫然としていると烏間先生の指示が飛んだ。

「油断するな!奴には再生能力がある。片岡さんを中心に海面を見張れ!」

「はい!」

「律、可能な範囲で海面照らして」

『了解です』

自律思考固定砲台に備え付けられた照明器具が海面を照らし、岬は素潜りで海中に潜行した。

水圧の檻、対先生弾の弾幕、その先の健の刃。

これまでの暗殺には無かった手応えにE組全員、言いようの無い高揚感があった。

その時・・・、

「ぷはぁ!みんな、何か海中から浮上してくる」

「あ、あそこ!」

潜っていた岬が浮上すると、陽菜乃が海面に気泡がぶくぶくと現れたのを見つけた。

全員銃口を向け、岬も飛クナイを構えた。

 

そして浮かび上がってきたのは・・・、

 

 

殺せんせーの・・・・・・

 

 

プカ

 

「ふぅ」

 

顔が入った透明な球体だった。

(((………何だアレ!?!?!?!)))

「ぬるふふ、これぞ先生の奥の手中の奥の手、【完全防御形態】!」

?を浮かべるE組に殺せんせーはいつものように説明を始めた。

「外側の透明なのは高密度に圧縮されたエネルギーの結晶体です。肉体を思い切り小さく縮め、その分の余剰エネルギーで肉体の周囲をがっちり固める。この形態になった先生はまさに無敵。水はもちろん、対先生物質も効きません」

「何それそれじゃ永遠に殺せんせー暗殺できないじゃん」

「ところが巻町さん、それほど上手くはいきません。この状態は24時間経つと自然消滅します。先生はその瞬間に肉体を膨らませ、エネルギーを吸収、元の姿に戻ります」

「………つまり、裏を返せばその24時間の間、殺せんせーは身動き1つ取れないってことだよね」

「その通りです。流石は紫村君、状況判断が早い」

紫村は数秒考えると律に訊いた。

「………律検索を頼む。今から24時間以内に殺せんせーを乗せて宇宙の果てまで飛ばせるロケットは?」

「「「!?」」」

その場の全員が雪のえげつない計画を一瞬で悟った。

『………………いえ、それは不可能です。金銭的政治的物理的移動距離理由云々を抜きに、その様なロケットは今現在存在しません』

瞬時に検索をかけた律は無表情のまま答えた。

「ちっ…、それすら折込済みってことですか」

「ぬるふふふ」

 

ガンッ

 

雪は珍しく感情を露わにしてボートの船体を叩いた。

「岬!ちょっと殺せんせーパス」

桟橋から健が叫ぶと岬は飛クナイを投げて殺せんせーを跳ね上げた。無論、傷1つ付いていない。それを見て歯噛みしながらも岬は健の意図を汲み、続け様に飛クナイを連投して殺せんせーを空中で健の方へ弾き飛ばした。

「………フッ!」

それまで高めていた気を一気に解放した健は抜刀と同時に小太刀の逆刃を反して連続で斬りつけた。しかし、透明は結晶には一切傷つかなかった。

 

「…~ッらぁっ!」

 

普段はしない両手持ちによる唐竹割りの一刀すら跳ね返した殺せんせーはそのまま大根切り打法よろしく、神崎の方に一直線に飛んでいった。

「にゅやっ!?神崎さん避けて…!」

 

パシッ

 

果たして、神崎にぶつかる前に殺せんせーはタスクにキャッチされた。

タスクは両手で殺せんせーを包み込むと大きく息を吸って・・・

「フンッ!」

そのまま握り潰そうとした。首筋に血管が浮かび上がり、全身の筋肉が一回り脹らみ傍から見てもタスクの力の入り方が尋常ではないことが見て取れた。

「…~~ッ、はぁ!…はぁはぁ…、ダメか」

満身の握力を込めていたタスクは次に桟橋に殺せんせーを置いて拳を握った。

「ッぅらァァ!」

 

バキンッ

 

タスク渾身の一撃は、桟橋を破壊しただけで、殺せんせーには1ミリのダメージも与えられなかった。再び落水した殺せんせーを今度はカルマが拾い上げた。

「まいったね~、緋村の剣も相良のパンチも効かないなんて~。打つ手無しだね~」

そう言いながらカルマは茅野から預けていたスマホを受け取ると殺せんせーの前に置いた。そこには先ほどの動画でデンジャラスなパティシエにフルボッコにされているころ子が映し出されていた。

「にゅや~~~!!やめて~手が無いから顔を覆えないんです!」

カルマは桟橋の残骸でスマホを立てかけて固定した。

「じゃあとりあえずこれを至近距離で固定して」

「まったく聞いていない!?」

「さっきそこで拾ったウミウシ乗っけて」

「ふんにゅや~~!!」

ネバネバネトネトのウミウシが殺せんせーにへばりついた。これは物理的なダメージは無いが精神的にはかなりくるものがある。

「………はぁ、そこまでだ」

烏間先生がカルマから殺せんせーを取り上げるとコンビニの袋に無造作に入れた。

「とりあえず解散だ。こいつの処分法は上層部と検討する」

「ぬるふふふ、対先生物質のプールにでも放り込みますか?無駄ですねぇ、その際はエネルギーの一部を爆発させて先ほどのように周囲を吹き飛ばしますから」

「…!」

考えを先読みされた烏間先生は苦虫を噛み潰したような表情になった。

「皆さん、誇っていいですよ。世界中の軍隊でも先生を“ここまで”追い込む事はできなかった。ひとえに皆さんの計画の素晴らしさです。それと緋村君、あの状況下で先生が捨て身の特攻をしていれば、相楽君の弾丸を全身に受けておそらく君に斬られたでしょう」

「………」

殺せんせーはいつものようにE組を褒めたが、全員落胆の色は隠せなかった。

かつてなく大掛かりで渾身の一撃を外したショックを抱えたまま、E組はホテルに引き上げた。

そんな中、千葉と速水だけはその場に残り律と何か話していた。

「あ…」

E組きっての射撃3人衆の1人でもある岬は、当初海中に潜んで吹き矢で狙うつもりだったが、校舎裏のプールで試すと、どうしても吹き矢も飛クナイも水の影響で普段より初速が落ちて動きも立ち泳ぎで制限されてしまうため、足手まといになると判断されてしまった。代わりにそのバランス感覚を買われてフライボード部隊の主軸となった。

「………」

2人の表情(千葉はわかりずらいが)は暗く、何か声をかけようとしても何と言えばいいのか分からなかった。

 

 

 

 

 ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎

 

 

 

 

ホテル1階のレストランのテラス席では引き上げたE組の面々が烏間先生のおごりのドリンクを飲んでいた。雰囲気は、言うまでも無くお通夜状態だった。

「しっかし疲れたわ~…」

「自室帰って休もうか~…」

「もうなんもやる気しねぇよ…」

大半は疲労感からテーブルに突っ伏しているか椅子の背もたれに寄りかかっていた。

「んだよ、一回外したくらいでだらしねぇな。殺ることやったんだから、明日は1日遊べんだろーが」

寺坂だけは無意味に元気そうだった。

そんな中、翼たちは陽菜乃にイルカのことを訊いていた。

「ひなのちゃん、あんなイルカの調教どこで覚えたの?」

「あぁ~、あれねぇ~。知り合いの椰子の木カットがお茶目なオジサンから借りてきたイルカさんなんだ~。元々お利口さんだからちょっと練習するだけでできちゃったの」

「…変った人もいるんだね…」

「うん、葛飾区亀有に住んでる人だよ」

(………?)

にこやかに話す陽菜乃だったが、健はいつもの表情と微妙に違うことに気づいた。感情の高まりですぐに髪色や頬が紅潮する自分と違い、陽菜乃はいつもニコニコとして好きな生き物の話で盛り上がっても顔色は変らない。なのに今は・・・、

「それでね、そのオジサン実は警察の人でなんか特別な事件の時にしか出動しないんだって…、でね…」

やけに頬は紅潮し、テンションもどこか無理をしているように感じた。健は萌に目配せすると、萌は瞬時にその意図を読み取った。

「ねぇヒナちゃん、ちょっといい?」

「ほぇ?」

そういうと萌は自分の額を陽菜乃のおでこに当てた。

「あっつ…?!ちょっと海で身体冷やし過ぎたんじゃ…」

「あはは~…、かもね~、でも大丈夫だいじょ…」

椅子から崩れ落ちそうになった陽菜乃を、逸早く動いた健が支えた。

「ちょ…、陽菜乃これ大丈夫ってレベルの熱じゃ…」

健は手から伝わる尋常ではない熱と“鼓動の速さ”に焦った。

「………健、とりあえず、その手、放そっか?」

「へ…?」

翼に言われて、健は自分が咄嗟のこととは言え陽菜乃の胸を触っていたことに気づいた。

「…~、萌!」

「はいはい」

陽菜乃を萌に任せた健は気まずくて周囲をきょろきょろ見回した。

「………あれ?」

全体的に暗い雰囲気なのは先ほどから分かっていたが、これは暗いというより重苦しい・・・、淀んだ空気が漂っていた。

「これは…」

 

 

そして・・・

 

パリンッ

 

「っ!?」

音のした方を振り返ると、神崎が持っていたグラスを床に落としテーブルに突っ伏していた。

「おい神崎!」

タスクが慌てて駆け寄り抱き起こすと、汗まみれの神崎の身体はやはりかなりの高熱を発していた。そして異変はドミノのように連鎖的にE組全体に広がっていった。ある者は大量の汗で焦点の定まらない目で天井を仰ぎ、ある者は青ざめた顔で腹部を手で抑え、岡島は鼻血を噴出していた。

「おい、フロント!この島の医者はどこだ?」

烏間先生が凄まじい剣幕でフロントに詰め寄った。

「え…、あいや、何ぶん小さな島なので…、診療所はありますが夜になると当直医は夜には別の島に帰ってしまうので…」

そこに萌も加わり問い詰める。

「ならいつなら来るんですか!?」

「明日の10時にならないと…」

萌は腕時計を確認した。

「…ッあと半日近くも」

烏間先生に持たれている殺せんせーの顔にも焦りの色が浮かんだ。

 

♪~♪♪~

 

その時、烏間先生の携帯が鳴った。表示は・・・、非通知。

「………誰だ」

『やぁ先生、大事な生徒が大変そうだね』

相手の声は変声機を使用しているのか、くぐもった声だった。

「…この状況はお前の仕業か」

『くくく、最近の先生は察しがいいねぇ』

「…高荷さん、先生を携帯に」

萌は殺せんせーを携帯の側に持上げそして自分も話を聞こうと烏間先生の携帯に耳を当てた。

『それは人工的に作られたウィルスでね。感染力は低いが一度感染したら最後…、』

3人は息を呑んだ。

『潜伏期間や初期症状に個人差はあれど、1週間もすれば全身の細胞がグズグズになって死に至る』

「…なんてこと…」

電話の間にも発症者はどんどん増えていった。陽菜乃や神崎だけなく、原に中村、男子では杉野に前原も床に膝を着いて苦しんでいた。

さらに・・・、

 

「タスク!!」

 

健の悲痛な叫びが響いた。萌が見ると、あの殺しても死ななそうな、打たれ強さと体力とバカ力と戦闘センスと大食いと喧嘩だけが取り得の男が・・・

 

「こな…くそ………が…、」

 

相楽タスクが青ざめた顔で倒れてしまった。

 

 

『治療薬も1種だけの独自開発(オリジナル)でね。あいにくこちらにしか手持ちが無い。渡すのが面倒だから、こちらに取りに来てはくれないか?』

「…ッ!」

その時、烏間先生と殺せんせー、それに萌も電話の相手の目的がわかった。

 

 

 

 

『山頂にホテルが見えるだろう?手土産は袋の中の賞金首だ』

 

 

 




続きは7割完成しているので、来月にでも

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