暗殺~SWORD X SAMURAI~   作:蒼乃翼

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原作では前日の夜に仕掛けたとなってますが、イチャラブコメ書いてみたかったので前回の仕掛けのエピソードは多少改変してました。
悪しからず。
では後編です。



陽菜乃たちとの時間

 

 

 

「「ごちそうさま」」

陽菜乃の作った甘口のカレーを食べ終えた健は食器を洗い片付けると、倉庫に行った。そこには寝袋にマットまでずいぶんご丁寧に分かりやすい所に置いてあって、メモが張ってあった。

 

【寝袋を2つ虫干ししておきました。】

 

最後にヌルフフフと笑うタコの自画像が描かれていた。

「…あの先生は…、」

倉庫に置いてあった予備のジャージに着替えた健は寝袋を持って教室に戻った。そこにはいつの間にかジャージ(こちらは私物持参)に着替えた陽菜乃が地図に印やメモを書き込んでいた。

「じゃ、俺はここで寝るから陽菜乃は保健室にでも、あそこなら寝袋が寝にくかったらベッドもあるし…」

「え?ここで一緒に寝ればいいじゃない」

「………は?」

「せっかくのお泊りなんだし、一緒の所で寝た方が楽しいよ」

「………」

「ふんふふふふ~ん」

茫然と立ち尽くす健を余所に、陽菜乃は机を下げてスペースを作り寝袋を広げ始めた。

(いやいやいやいやいやいや、待て待て待て!小父さんが「男女九つにして寝所を共にせず」とか言って翼とでさえ一緒の部屋や布団で寝たのは9歳までだぞ)

やましい事はしないと信頼されているのか、それとも男として意識されていないのか・・・

「明日は日の出と同時に起きるから、早く寝よ」

陽菜乃は寝袋に潜り込んだ。

「あ…、あぁ…」

健も寝袋を陽菜乃からあからさまに離さず、しかし近すぎることのない位置に広げると教室の電気を消した。休み前に殺せんせーが新聞紙で手入れした窓ガラスはピカピカで、激昂と星明りが教室に差し込んでいた。

「不思議だね~、夜の教室で寝てるのって」

「あぁ…、」

「星と月の光って結構明るいね」

「そう…、だね」

健は何か話題を挙げようと考えを巡らせていたが・・・、

「くぅ~」

「早ッ!?」

陽菜乃はあっという間に寝てしまった。

「………眠れない」

健は横から漂う陽菜乃のメープルシロップのような匂いで興奮して全く寝付けなかった。

「す~す~…」

その陽菜乃は驚異的な寝つきの良さですでに熟睡していた。

 

 

 

 

 ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎

 

 

 

 

翌朝、まだ日も昇らない払暁に起きた健は寝袋から這い出た。

「…………」

隣ではまだ陽菜乃が寝息を立てていた。

「…可愛い………」

健はシャッター音を消したスマホで寝顔を撮影すると、こっそり教室を抜け出した。

 

 

「ふぅ~…」

校庭に立った健は軽く手足を解すと左手に握った小太刀の鯉口を切った。次の瞬間、明け方の冷えた空気を逆刃の小太刀が切り裂いた。

右手首の捻りと左手の操作で一瞬で納刀すると、さらに連続で抜刀とそこからの斬撃、そして納刀を繰り返し、身体が温まると健は森の中に入っていった。

「………」

手ごろな木の幹を蹴ると、葉が何枚か落ちてきた。小太刀を両手持ちにした健は集中力を高めた。

「…ッ!」

落ちてくる葉を逆刃の小太刀による斬撃で斬っていった。

「………くっそ、あと一撃足りない…」

先日から健はとある技の稽古に余念が無かった。が、あと一歩、一太刀が打ち込めずにいた。今斬れた葉は8枚。しかし健が目指す技はあと一撃・・・

「…と、そろそろ陽菜乃が起きるか」

何度か試したが八連撃以上ができなかったので、健はこれまでにした。

小太刀を納刀すると、健は汗まみれになっていたのに気づいた。流石にこのまま陽菜乃の所に戻るのには気が引けた。

「あ、そうだ」

健は殺せんせーお手製のプールに向かった。

「どうせ誰もいないし…」

健は素っ裸になるとプールに飛び込んだ。そのまま潜って水中で黙想を始めた。そして、水面へと上がると・・・・

 

「うわっ!ひーちゃん!?」

 

陽菜乃がいた。

「~ッ!!陽菜乃!?」

健は慌てて水の中に体を沈めて水面から顔だけを出した。

「あはは、ひーちゃんも水浴び?今日なら貸切だもんね~。大丈夫、ここからだとひーちゃんの顔しか見えないから」

陽菜乃が後ろを向いている間に健は素早く上がってジャージを来た。

「あ、それ」

陽菜乃は健が首からぶら下げているものを指差した。それは陽菜乃が誕生日プレゼントにくれたクワガタメダルだった。

「あぁ、大体いつも身につけてるよ…」

健は照れながら頬を掻いた。

「ふふ、ありがと。あ、じゃあ私も水浴びするから…」

「先に戻ってる!」

健は髪と頬を真っ赤にして猛ダッシュでプールを後にした。

 

 

 

 

 ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎

 

 

 

 

「ただいま~」

家庭科室で健が朝ごはんを何にしようか考えていると陽菜乃が戻って来た。水浴びをしたので、ゆるふわヘアーがしっとり濡れていた。

「はい、これ」

陽菜乃が差し出したのは卵だった。

「どうしたのこれ?」

「この山で飼ってるニワトリの産みたて卵だよ」

「は?」

聞けば殺せんせーがどこかから拾ってきたニワトリを数羽放し飼いにしているらしい。

「せっかくだから生で食べよう。いいメニュー知ってるから」

陽菜乃は前日の残りのカレーをフライパンで温めると、そこにこれも昨日の残りのご飯を入れた。ルウがご飯全体に馴染んできたところで皿に盛って真ん中をくぼませた。

「ひーちゃん、そこに卵落として」

健はくぼみに卵を輪って落とした。

「できたよ~」

「うまそ…」

「料理が得意な知り合いから教わったカレーなんだ。これなら普通に食べるのには足りない時でも2人分くらいなら食べれるんだ」

健と陽菜乃は向かい合っていただきますと手を合わせると陽菜乃お手製の混ぜカレーを食べた。

「あ、美味い」

さらに卵を潰すとまろやかな味になった。

陽菜乃はさらに冷蔵庫からウスターソースを取り出した。

「味変でかけてみて」

ソースをかけるとコクが増した。

「さ、食べ終わったらいよいよ採集だよ」

 

 

 

 

 ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎

 

 

 

 

陽菜乃と山の中に入って数箇所回ってみると、結構寄って来ていたが、目当ての標的はいなかった。

「ん…?」

「どしたの?ひーちゃん」

木の枝の上の仕掛けから大きめのオオクワを捕まえて虫かごに入れていると、下から複数人の男子の声がした。

「あ、渚に杉野、それに前原」

2人が見下ろすとそこにはやはり虫を捕っている3人がいた。渚、杉野は仲が良いので分かるがそこに前原までいるのが不思議だった。元サッカー部でお洒落な前原が虫捕りはイメージと合わなかった。が、聞こえてきた話の内容でそれはすぐに解決した。

「次の暗殺は南国リゾートで殺るわけじゃん、だったら、必用なものがあんだろ?金さ!水着で泳ぐ綺麗なチャンねーを口説き落とすには財力が不可欠じゃん!」

(………こいつは…、)

前原は女を絶やした事は無く、事実、萌も岬のデートに誘われて口説かれた事があるらしい。

「こんなザコじゃダメだろうけど、オオクワガタ?あれなんてウン十万もするみたいじゃん。ネトオクに出して大儲けして、最低でも高級ディナー代とご休憩場所までの資金を確保しとかないと」

(………15の旅行プランじゃねぇだろ…)

と、そこで陽菜乃が枝をジャンプして降りていった。

「ダメダメ、オオクワはもう古いよ」

「倉橋!」

「おは~、みんなもお小遣い稼ぎにきたんだね。私たちもなんだ」

「私、たち?」

首を傾げる前原の前に、健が一気に着地してきた。

「うぉっ!緋村!?」

「おはよ、緋村」

「よぉ渚」

「倉橋、オオクワが古いってどういうことだよ?」

杉野の質問に陽菜乃が答えた。

「んっとね~、私たちが生まれた頃は五十万とかだったけど、人工繁殖が確率してからは値崩れして今じゃ五千円くらいになってるよ」

それを聞いた前原は愕然とした。

「嘘だろ、1クワ=1チャンねーくらいだと思ってた…」

「ないない、普通にチャンねーの方が高いよ」

陽菜乃は地図を広げた。

「せっかくだし、みんなで捕まえよう。大人数の方が効率いいし」

「面白そうだね、それになんかRPGのパーティーみたいだし、ね杉野」

「そうだな、となると配役は…、」

 

勇者:杉野

賢者:渚

ビーストマスター:陽菜乃

侍:健

チャラ男:前原

「なんか俺だけ扱い酷くね!?」

 

そうして、健たちは仕掛けたトラップを回っていった。健だけなく、杉野や前原も運動神経が良いので木の上の回収は思いのほか早く済んだ。それなりの数が採集できて、渚たちはご満悦だったが、陽菜乃が探しているターゲットは未だに捕まえられていなかった。

「結構いたね~、これなら一人頭千円ちょっとはあるかな」

そして、最後のトラップの所に向かっていると・・・・、

 

「ふっ…、効率の悪いトラップだ。それでもお前らE組か?」

 

突如頭上から声がして見上げると、片手にエロ本を持っている(カッコつけたポーズの)岡島がいた。

「せこせこ千円稼いでる場合かよ。俺が狙うのは当然百億だ」

「百億ってまさか…、」

「そうさ、今度の暗殺は南の島する予定だからあのタコもそれまでは油断しているはず。そこを俺は狙うのさ…、」

足音に気をつけながら岡島の後についていくと・・・、

 

 

草木を覆い尽くすほどのエロ本の上に正座したカブトムシのコスプレをして乳白ピンクの顔でエロ本を熟読している殺せんせーがいた。

 

 

「くくくく、かかってるかかってる。俺の仕掛けたエロ本トラップに」

岡島は下衆い笑みを浮かべた。

「…すげぇスピードが自慢の殺せんせーが微動だにしねぇ…」

「…よほど好みのエロ本なのか…?」

前原と杉野が小声で話していると岡島がドヤ顔で解説を始めた。

「…どの山にもあるのさ、エロ本廃棄スポットがな。そこで夢(エロ本)を拾った子供が本を変える齢になり今度はそこに夢(エロ本)を置いていく。終わらない夢(エロ本)を見る場所なんだ」

(………いい感じに言ってるけど、結局それ不法投棄なんじゃ…)

「ちょうどいい、手伝えよ。俺たちのエロの力で終らない夢を見せて殺ろうぜ」

「…どうしよう緋村、パーティーが致命的に下衆くなっていくよ」

「…とりあえず俺としては陽菜乃だけでもどっかに行ってて欲しい…」

今下手に動くと殺せんせーに感づかれそうなのでそれは無理だった。木陰から殺せんせーを覗く健たち6人には全く気づく気配の無い殺せんせーはようやくページをめくった。

「俺だって随分研究したんだぜ、あいつの好みを。俺だって買えないから拾い集めてな」

「殺せんせーって巨乳ならなんでもいいんじゃないの?」

「現実ではそいうだけどな、けど、エロ本は夢だ。人は誰しもそこに自分の理想を求める。写真も漫画もわずかな差で全然反応が違う」

そう言うと岡島はスマホで撮った殺せんせーの観察画像を見せた。そこには6月末から7月中頃までの殺せんせーの様子が克明に記録されていた。にやにやしている顔、無表情、福笑いみたいな顔のパーツがバラバラになった顔とまさに千差万別。

「その結果、殺せんせーの今のブームは熟女OLだ」

「すごいよ岡島君…、1ヶ月本を入れ替えてつぶさに殺せんせーを観察している」

「てか、大の大人が1ヶ月も拾い読むなよ…、買えよ嘆かわしい…」

そして、渚の言葉に調子に乗った岡島がとんでもない事を言い出した。

「お前のトラップと一緒だよ、倉橋。お前だって得物が長時間夢中になるように研究するだろ」

「え…、あ~…、………うん?」

(………一緒にすんな………)

健が一瞬怒気を孕んだ視線を岡島に飛ばして気絶でもさせようとしたが、そうなれば殺せんせーにあっという間に感づかれてしまうので必死に抑えた。

「俺はエロいさ、蔑む奴はそれでも結構。けどな、誰よりもエロいそんな俺だから知っている…」

岡島は足下の木の葉の下に隠していたエロ本に挟んでいた対先生ナイフを握った。

「エロは…、世界を救えるって」

(………なんかカッコいい風に決めてるけど、結局殺る方も殺られる方もエロいだけじゃん………)

「このロープを切れば対先生弾を繋ぎ合わせたネットが飛び出す。エロ本に夢中な今なら確実にかかる!そこを俺が飛び出してトドメを刺す」

自然と自分に、正確には腰の逆刃の小太刀に視線が集まったので健は音も無くすらりと抜くと刀身を反してトラップのロープに峰(刃部)を当てた。

 

その時、不思議なことが起こった。

 

「え…?」

殺せんせーの顔が上を向いたと思ったら(おそらく)両目がみょ~んと飛び出した。

「ヌルフフフ、見つけましたよ」

次の瞬間には殺せんせーの触手がマッハで動いて何かを捕まえていた。

「ミヤマクワガタ…、しかもこの眼の色は…」

それを聞いた陽菜乃が飛び出した。と、同時に岡島の計画はご破算となった。

「白なの?!殺せんせー」

「おや倉橋さん、ビンゴですよ」

「すっご~~い!探してたやつだ!」

「ええ、この山にもいたんですね」

陽菜乃と殺せんせーは心だけでなく体全体でぴょんぴょんしながら喜んでいた。エロ本の上で。

「あぁ…、あとちょっとだったのに…」

「???何喜んでいるのかさっぱりだが、女子中学生と巨大カブトがエロ本の上で飛び跳ねているのは凄い光景だな」

と、ようやく殺せんせーは岡島や前原に気づき、おもむろに下に視線を移し自分の現状を悟った。

「…面目ない、教育者としてあるまじき姿を晒してしまいました…」

殺せんせーは触手で顔を隠して反省していた。

「本押したに罠があるのは気づいていましたが、どんどん先生好みになっていくエロの誘惑に勝てず…」

「すんなりバレてた~!」

絶叫する岡島をよそに、杉野は陽菜乃に訊いた。

「で、どういうことよ倉橋?それミヤマだろ?ゲームとかじゃオオクワより安いぜ」

「最近はミヤマの方が高い時があるんだよ~。まだ繁殖方法が確立してないからね

このサイズなら2万はいくかな」

「2万!?」

そこに殺せんせーは補足した。

「それに眼をよ~く見て下さい。本来黒い眼が白くなっているでしょう?生物のアルビノについては授業で教えましたね」

「ああ、たまに全身真っ白で生まれてくるやつだろ?」

「全身とは限りません」

殺せんせーは眼の部分を指した。

「クワガタのアルビノは眼にだけ出ます。【ホワイトアイ】と呼ばれ、天然のミヤマのホワイトアイはとんでもなく貴重です。学術的な価値すらある。売ればおそらく数十万は下らないでしょう」

「「「すっ…、」」」

あまりの額に渚たちは驚愕した。

「一度は見てみたいって殺せんせーに話したらズーム目で探してくれるって言うから、ひーちゃんと一緒に見つけやすいように昨日1日かけてトラップし掛けてたんだ~」

陽菜乃は天真爛漫な笑顔で男子の方を振り返った。

「下衆なみんな~、これ欲しい人手~上げて♪」

「「「欲しい!!!」」」

「じゃあひーちゃん捕まえられたらその人にあげるね」

そう言うと陽菜乃は健にミヤマを渡した。

「オッケ~、じゃ、手がかすっただけでも捕まえたことにしてやるよ。大丈夫、殺せんせーよりは遅いから」

そう言った次の瞬間、健は踵を反し眼にも止まらぬ速さで渚達の前から走り去った。

「捕まえろ~!!」

前原の号令の下、渚たちは健を追いかけ始めた。

 

 

そんな健たちを見つめる哺乳類が・・・・

 

 




るろ剣再開と孤島編は合わせることはできませんでしたが、孤島編もすぐに取り掛かります


とりあえず、おかえりなさいい、和月先生

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