あとアイツの名前だけ先行登場
椚ヶ丘三年生一同は京都に着くと共通見学地東大寺に行き、その後はバスで宿泊施設へと移動となった。A組からD組のバスは市内のホテルへと向かったが、E組のバスだけは市外の方へと向かった。
「あ~ぁ、E組の泊まるとこってどうせボロいとこの大部屋なんだろうな」
「いいじゃない、賑やかで」
バスの中でぼやく岡島と渚、その他のE組もいつのもあれで宿泊施設には期待していなかった。
が、ただ1人、巻町岬だけはニコニコしていた。
「とうちゃ~く!」
バスが止まると岬は真っ先に降りた。
「けっ…、案の定古くて汚ったねぇ宿じゃ…」
「はちょっ~!」
悪口を言った寺坂に岬の飛び蹴りが怪鳥音と共に決まった。
「これは古くて趣があるって言うの!」
岬は入口で大きく息を吸った。
「おばあ~ちゃ~~ん!来たよ~~~~!!」
(((おばあちゃん???)))
E組の生徒達(健たち岬班の面子以外)はポカンとしていた。
すると、中から和服の老婆が出てきた。背筋はしゃんと伸び、立居振舞にも気品があった。
「これ岬、旅館の前でそんな大声を出すんじゃありません。今日明日は貴方達だけとは言え、少しは慎みなさい」
「は~い」
岬を叱った老婆は烏間先生の前でお辞儀をした。
「当旅館女将で岬の祖母、柏崎翠です。いつも孫娘がお世話になっております」
「椚ヶ丘中学三年E組担任の烏間です。こちらこそ、二泊三日お世話になります」
「…ねぇ緋村、あの人巻町さんのおばあさんなの?」
渚が健のこっそり訊いた。
「そ、ここはあいつの母方の実家」
岬はE組の前で腰に手を当て自信満々に胸を張った。
「ようこそ、京都が誇る老舗旅館『葵屋』に!」
暗殺~SWORD X SAMURAI~
京都の時間 2時間目
研修の時間
中に入ると奥から仲居や料理人が出迎えた。
「お嬢、お久し振りです」
「おかえりなすってお嬢」
「岬ちゃん元気?」
「いらっしゃい岬ちゃん」
「錬さん、徹さん、友枝さん、菜子ちゃん、みんな久し振り~!」
岬は顔馴染の面々と和気藹々だった。
「これ、あんた達、お客様は岬だけじゃなんですよ、入口で騒いでないで仕事に戻りな」
女将が手を叩くと全員頭を下げて持ち場に戻った。
「あれ?そういえば翁は?」
「さぁね、おおかたどこかの飲み屋で騒いでるんじゃないかい。おかげ帳簿が溜まって忙しいったらありゃしない。」
「なら、みんなは私が案内するから仕事に戻っていいよ」
「そうかい、それならあんたに任せるよ。では皆さん、ごゆっくり」
女将は深々と一礼すると奥へ戻っていった。
「………殺せんせー、もう入って来ていいよ」
岬が言い終わる前に、殺せんせーはマッハで旅館に入ってロビーの椅子に倒れこんだ。
「にゅや~…」
殺せんせーの弱点⑧
【乗り物で酔う】
「1日目ですでにグロッキーなんだけど…」
「まさか新幹線とバスで酔ってグロッキーとは…」
クラス委員の片岡と磯貝が各班の点呼を取ったが、報告は烏間にした。
「ちょっと~、殺せんせーだいじょーぶ?先に教員の部屋に案内するから休む?」
岬は心配する素振りを見せながら近付き、袖に仕込んでいたクナイで殺せんせーを切りつけた。
「いえ…、ご心配なく巻町さん」
しかし、殺せんせーはひらりと躱してしまった。
「先生これから東京に戻りますし、枕を忘れてしまって」
殺せんせーの弱点⑨
【枕が変わると眠れない】
「そんだけ持ってきてまだ忘れ物!?」
● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎
修学旅行2日目
岬達の班は暗殺の計画実行が夕方以降なので、今日の自由研修では思い切り観光を楽しむ予定になっていた。
まず午前中は翼の父親の紹介で和菓子工房で和菓子作りを体験した。
「けっこう難しいね~、和菓子って」
「でもひなちゃん色合いの組み合わせとか美術的センスはけっこういいよ」
「そっかな~」
翼に褒められて照れる陽菜乃。
「あ、ひなのっち、箱の仕込みは?」
「ばっちり」
岬との暗殺計画の確認する陽菜乃。
「………」
そんな陽菜乃をじー、と見ている健。
「あ~、それにしても腹減った~~」
「アンタねぇ、さっき失敗した和菓子とか試食とか大量に食べてたでしょ?見てるだけで胸焼けしそうだったわよ」
「で、このあとの予定は?」
タスクと萌のやり取りの後ろで、雪は副班長である健に訊いた。
「うん…、ちょっと俺が行きたい所あるんだけど………いい?」
健を先頭に、5班のメンバーは三条大橋に移動した。
「つーかよぉ、こんなとこに何があんだ?」
タスクがつまらなさそう辺りを見回す。
「三条大橋、って何かあったっけ?」
京都が第二の故郷である岬も首を傾げていた。
「1864年、幕末に佐久間象山って人が暗殺されている。しかも白昼堂々」
健は饒舌に語りだした。
「ケホ…、どんな方法で?」
「普通に近付いて斬った」
「それだけ?」
雪と翼の疑問に健はまるで我が事のように答える。
「その斬ったのが、幕末四大人斬りに名を列ねる河上彦斎。居合の達人であるからこそシンプルな方法が活かせた暗殺なんだ」
「なんかひーちゃんみたいだね~」
「そ…、そうかな…」
髪と頬を赤く染めて照れる健に、萌は呆れながらも微笑んだ。
「じゃ、一応拝んでおく?殺せんせー暗殺を祈願して、佐久間さんを暗殺した河上彦斎さんのパワーを少しでも分けてもらいましょう」
三条大橋で佐久間象山ではなく河上彦斎を拝んだ健は、近くの土産物店で柄に【河上彦斎】の名前が彫られた木刀を一振り買った。
「いや、健…、おめぇそれ持ってんじゃん」
タスクに指摘された逆刃の小太刀をベルトの後ろ腰に差すと、健は買った木刀を左腰に差してご満悦だった。
すると、店の奥から意外な人物が現われた。
「あれ、斎藤?」
それは崩れたアフロヘアの陰気な男子生徒、斎藤誠だった。
「おい、誰だ?」
「A組の斎藤誠。剣道部部長で風紀委員長。タスク、こいつの前では大人しくしといた方がいいよ」
タスクはうへぇと顔をしかめた。
「何やってんの?他の班員は?」
健が聞くと斎藤はじーっ、と健を見つめた。
「は?班長の浅野が京都洛山高校の友人と旧交を温めるために馬場に行くことになって、そしたら腹下してここのトイレ借りている間に置いてかれた?」
「いや、なんで今ので分かんだ?!」
「まぁ一応一年の頃からの付き合いだし、なんとなくコミュニケーションのコツは掴んでるの」
「お腹の調子悪いなら、はい止瀉作用のある漢方薬よ」
萌はお洒落にデコった印籠を取り出すとその中から丸薬を一粒取り出して斎藤に渡した。
「………」
斎藤はそれを押し戴くと飲み込んだ。
「はいお水」
萌はさらに服用水として持ち歩いている常温の水を差し出した。
「………」
「うん、斎藤すっごい感謝している」
健が通訳して萌に感謝を伝えると、斎藤は1枚の名刺を置いて去って行った。
「萌、それ何?」
「京都にあるおうどん屋さんの名刺(クーポン付き)」
「あ~、あいつ麺類に目がないから…、たぶんそこかなり美味しいと思うよ」
● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎
その後、健達はその後祇園の方へぶらぶらと散策していた。
すると・・・・
「…!?」
「緋村も気付いた?」
健と岬が何かに気付いた。
「こっちか!」
タスクも直感的に人気の無い裏路地へと駆け出した。そこには・・・・
鉄パイプを持った不良6~7人に前後を挟まれて身動きの取れない、渚、カルマ、杉野、茅野、奥田、そして神崎達4班のメンバーがいた。
「何してやがんだっ!」
タスクは叫ぶと同時に小太りの不良を殴り、さらに髭の不良に肘撃ちを食らわせて昏倒させた。
カルマもその隙をついて丸坊主の不良の顎を掌底で打ち上げ歯を数本折り、怯んだ隙に両眼窩に指を引っ掛け電柱に後頭部を打ち付けた。
「っ…、なんだアイツ」
「リュウキ君…、あいつ、前にミキオ君達がゲーセンで補導された時の中学生だよ」
奥のリーダー格の不良に隣の不良が耳打ちした。
「長岡達の時の…!?チッ、おい、ここはずらかるぞ…」
不良達が逃げようとしたが・・・・
「させると思う?」
「わけないっしょっ!」
健と岬が路地の両側の壁を疾走して逃げようとした不良達の前に立ちはだかった。
「くそっ、おい、女を人質にしろ!」
鉄パイプを持った不良達は一斉に神崎と茅野に襲いかかろうとしたが・・・
ガスガスガス
渚とカルマと杉野が修学旅行のしおりでガードした。
「すごい、流石修学旅行のしおり」
「やっぱ護身用に持ってないと、修学旅行のしおり」
「すげー防御力だぜ、修学旅行のしおり」
(((そんな修学旅行のしおりねーよっ)))
「オラァッ!」
タスクの蹴りが炸裂し、不良達は3人まとめて気絶してしまった。
「けっ…、普段勉強してる奴らはこういう荒事には無力だと思ってたのに、喧嘩も強ぇのかよ…、ったく嫌になるぜ…、けどよぉ、知ってんのか?そこの女はそんな澄ました面してこんなことやってたんだぜ!」
不良のリーダー格は携帯で撮られた写真を晒した。
「それはっ…、止めてッ!」
そこには、髪を染め、露出の多い派手な服を着て、アクセサリーを付けた、およそ椚ヶ丘には似つかわしくない格好をした女子が写っていた。
「………」
それを見た神崎は絶望的な表情で膝をついてしまった。
「エリートのブランド台無しって格好だろ?こんなもんまで作って優等生気取ってるけど、結局この女も俺らと同類なんだよ」
リーダー格の不良は神崎がまとめた手帳を地面に落とすと踏みつけた。
「いっしょにすんじゃねェッ!!!」
タスクの怒鳴り声が路地に響いた。
「神崎がどうしてそうなったかは知らねぇよ!けどなっ、今のこいつは俺らと同じも目的を持って毎日すげぇ頑張ってんだ。今日の修学旅行だって担任のふざけたしおりに頼らねぇで遅くまで残ってまとめてたんだ!それを、踏み躙って、台無しにするような奴とは、なんもかんも違ぇんだよッ!!」
「けっ、粋がんな、中坊の分際で」
不良のリーダー格の男はタスクに殴りかかった。その男の拳の不自然さに、岬はすぐに気付いた。
「相楽、気をつけて!そいつ何か隠して…」
「オラッ!」
男の拳から先端が尖った鉄の棒が現われ、タスクの額に直撃し、タスクが昨日新幹線で自慢していたサングラスが粉々に砕けた。
「寸鉄…、隠し武器とか…」
岬はクナイで男の動きを止めようとしたが間に合わなかった。しかし、隣の健は平然としていた。
「別にずるくないよ。使用法としては正解。だけど…」
「あ…?」
男は手応えに違和感を覚えた。
「タスク相手にあんなちんけな物を使ったのは、不正解。殺せんせーなら紫色の×顔もんだよ」
眉間に直撃したはずのタスクは、果たしてほとんど無傷だった。
「………寸鉄使ってこの程度か………」
ゴッ
タスクが無言で突き上げた拳は男の顎を打ち上げその体を数mも吹っ飛ばした。
● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎
「ふぅ~。神崎、大丈夫か?」
タスクは地面に座り込んでしまった神崎に手を差し伸べた。
しかし、神崎はショックで立てなかった。
「あの…、………相楽…っ君!?」
神崎が顔を上げるとしゃがんだタスクがまじまじと自分を見つめていたのだ。
「神崎、さっきの写真だがよぉ…」
「…っ、」
「茶髪のなんかうねうねしてる髪よかは、お前は今の黒髪のが綺麗で似合ってんぞ」
「っ~~」
その言葉に神崎は俯いてしまった。が、健の位置からは神崎の顔が真っ赤になってるのが見えた。
(あ~…、神崎ってば完全に………)
同じ感情を抱く健には神崎からタスクへの気持ちが理解できた。
とりあえず健達はまだ残党が出てくるとも限らないのでタスクを護衛にして女子を一箇所にまとめ、気絶した高校生達を並べた。
・・・何故かカルマが生徒手帳付きで写真を撮ってそれらの情報を何やら怪しげな手帳に書き込んでいたがそれをどうするかは訊かなかった・・・
「一丁上がり。誰か殺せんせーか烏間先生に…」
その時・・・・・
猛スピードでこちらに迫ってくるエンジン音が聞こえた。
「あん?」
ガゴンッ
スモークガラスの大型ワゴン車に真横から撥ねられたタスクは堅いアスファルトをボールのように二転三転するとぴくりとも動かなくなった。
「相楽君ッ!」
神崎の悲鳴が響くと同時に車のドアが開き、中から先ほどの高校生よりヤバイ雰囲気の男達が女子達を車内に引っ張り込んだ。一箇所にまとまっていたのが裏目に出てしまった。
・・・・・その車内に・・・・・
・・・・・健は見た・・・・・
「おい、早くしろ」
・・・・・運転席から後部座席に身を乗り出し指示出す小柄な男・・・・・
「よし、大丈夫だぜ兄ちゃん」
・・・・・陽菜乃を無理矢理引っ張り込む厳つい大男・・・・・
「…ッッ~!」
その時、渚はかつてない恐怖を感じた。
それは自爆暗殺を試みた時のドス黒くなった殺せんせーよりも強烈な・・・・・
目がかつて無いほど見開かれ、
釣り上がり、
瞳孔が開き、
髪は赤黒く…ではとうてい現せない黒赤色に染まり、
左頬の傷痕から血を滲ませている、
緋村健がそこにいた。
「比留間~~~~~~~~!!!!!!!!!」
京都某所の廃工場
鳥の様なほうきの様な髪型の男が積み上げられたガラクタの上のソファにふんぞり返ってアイスを食べていた。
「あぁ、ええな。やっぱアイスは冷たくて美味いわ」
その背後の壁には、金色の円の中に赤い鷹、孔雀、コンドルが縦に並んだエンブレムが描かれていた
●―○―◎―●―○―◎―●―○―◎―●―○―◎―●―○―◎―●―○―◎―●―○
今回の技
巻町岬
怒りの怪鳥蹴り
スピード解説
岬は瞬発力、足捌きがE組女子ではトップ
直線スピードは木村に半歩及ばないが、人込み、入り組んだ地形では他者を寄せ付けないスピードで走れる(ジャンプ的な例えだとアイシールド21のセナのような)
健の場合は、跳躍力と敏捷性が高い(ジャンプ的な例えだと黒バスの火神+青峰)
浅野は一体ダレニアイニイッタンダロ~(棒読み)