E組は暗殺修学旅行の計画に余念が無かった。
そんな生徒達を、ビッチ先生は鼻で笑った。
「ふ、皆ガキねぇ、世界中を飛び回った私には旅行なんて今さらだわ」
「あ、じゃあビッチ先生留守番シクヨロ~。で、暗殺なんだけど、実は泊まる旅館がさ~…」
「花壇に水あげといてくださ~い。花がないと蝶とか蜂とか困るから。え~、そうなの?じゃあそれを上手く活かして~…」
岬と陽菜乃に軽くあしらわれたビッチ先生は胸の谷間からデリンジャーを抜いてタスクに突きつけた。
「何よ!私抜きで楽しそうな話してんじゃないわよ!!」
「あーもー、行きたいのか行きたくねぇのかどっちなんだよビッチセンコー!」
タスクは怯むでもなくデリンジャーを払った。
「ほらほら姉さん落ち着いて、京都でのショッピングとか色々あるから、ね?」
萌はガイドブックを開いて見せてビッチ先生をなだめる。
そんな賑やかなクラスに、殺せんせーが鈍器を持ってきた。
「1人一殺…、もとい、一冊です」
「殺せんせー、なんすかこれ?」
「ぬるふふふ、愚問ですね緋村君。修学旅行のしおりに決まってます」
「いや辞書型の鈍器っすよね、これ!?」
広辞苑並み、否、それ以上の分厚さのしおりを持上げて健は突っ込んだ。
「イラスト解説の全観光スポット、お土産人気トップ100、旅の護身術入門から応用まで。さらに急な体調不良や怪我に陥った時の応急手当、さらに脱臼した場合の修復も載っています。ちなみに付録はペーパークラフト金閣寺その①。翌週以降の続巻のパーツ全て組み合わせると実寸大になります。今なら定価10000円のところ、なんと初回限定価格1000円!!」
「殺せんせー、それデアゴスティ●ニですよね?」
翼の疑問を殺せんせーはスルーした。
「ケホ…、つーかさぁ、東京‐京都間なんて、殺せんせーのスピードだったら1分で行けるよね?」
「もちろんです、紫村君。でもね、移動と旅行は違います。皆で楽しみ、皆でハプニングに遭う。先生はね、“君達と一緒”に旅できるのが嬉しいのです」
「うん、それは後ろのバカでかいリュックを見ればわかるよ…ケホケホ………」
殺せんせーの後ろには、
修学旅行に必須、どんな言語でも一口食べれば理解できるし話せる、ほ▲や●こ▲にゃ●。
修学旅行に必須、フリーハンドでは描けない滑らかな曲線を引くのに適してエッジが両端についている、曲線定規。
修学旅行に必須、髭のおっさんが殺せんせーになっただけの、殺せんせー危機一髪。
その他、明らかに修学旅行に必要のない物ばかりが大量にあふれている巨大なリュックがあった。
暗殺教室3年E組
普通より盛り沢山になるであろう修学旅行に、生徒も教師もうかれまくっていた。
暗殺~SWORD X SAMURAI~
京都の時間 1時間目
旅行の時間
修学旅行1日目
椚ヶ丘中学三年生はA組からE組まで東京駅に集合した。ただし・・・
「うぇ、D組まではグリーン車だよ」
「で、俺らは普通車か。まぁ、いつのものことだけど」
5班班長巻町岬と副班長の健は溜息をついた。
「うちの学校はそういう校則だからな、入学時に説明されたろ」
「学費の用途は成績優秀者に優先される」
「おやおや、君たちからは貧乏の香りがしてくるね」
そんなE組いびりをするD組担任大野、高田モブ助、田中モブ太の嫌味三連コンボを、一蹴する存在が現われた。
「ごめんあそばせ、ごきげんよう生徒達」
それは、今から海外旅行に行っても違和感の無い格好のイリーナだった。
「おいおいおい、んだよビッチセンコーそのハリウッドセレブみてぇな格好」
「素敵、姉さん!」
呆れるタスクの隣で萌だけは目をキラキラさせていた。
「女を駆使する暗殺者にとっては当然の心得よ。狙っている暗殺対象にバカンスに誘われることって結構あるの。ダサい格好で幻滅させたらせっかくのチャンスを逃しかねない。良い女ってのはね、旅ファッションにこそ気を使うの」
そこにいつのもと同じ格好の烏間先生がツカツカと近付いてきた。
「目立ちすぎだ、着替えろ。どう見ても引率の教諭の格好じゃない」
「堅いこといってんじゃないわよ、カラスマ!ガキどもに大人の…「脱げ、着替えろ」…旅の………」
● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎
普通車車内
結局、烏間先生の有無を言わせぬ迫力に負け、寝巻きのパーカーに着替えて落ち込んだビッチ先生をト●ポ片手に萌が隣で慰めていた。
「誰が引率かわからないね…」
「ケホ…、金持ちばっか殺してきたから庶民感覚がズレてるんだろうね…ケホケホ」
苦笑する翼と酔い止めを大量に飲んでいる雪は5班の座席に着いた。
陽菜乃 健 岬 通
窓
雪 翼 タスク 路
健と陽菜乃を隣同士にさせようと、仲間達は誰ともなく自然を装ってこのような座席になった。
「そういえばさ、相楽、そのグラサン何?」
タスクの額には鳥頭の髪をオールバックにするようにトッキントッキンしたサングラスがかけられていた。
「おぅ、前にゲーセンで取ってもらったんよ。普段はしねぇけどせっかくの旅行だしな」
二カッと笑ってタスクはサングラスを自慢した。
「よし、じゃあ旅の幸先を祈願して乾杯するから飲み物を買ってこよう。じゃんけんで負けた二人で行ってもらうね」
班長岬の音頭で6人が手を振り上げた。
「さいしょはグー、じゃ~んけん…」
(………っ!)
健は神谷御剣流で鍛えた【相手の先を読む速さ】で陽菜乃の手を読み、さらに【剣の速さ】で瞬時に同じ手にした。
「ぽんっ!」
健、陽菜乃 ⇒ チョキ
岬、翼、雪、タスク ⇒ グー
「ありゃ~、負けちゃったね」
「あ…、ああ…、そうだね………」
ころころと笑う陽菜乃に、健はドギマギしていた。
実は、健は培った技術を邪まな目的で使ったが、陽菜乃のじゃんけんにはある法則があった。それは・・・
高確率で初手でピース(チョキ)を出す。
「んじゃ、二人買出しヨロ~、あたし100%オレンジ」
「ほうじ茶おねがい」
「けほ…、ミネラルウォーター」
「あ、オレ炭酸」
「はいはい…っと、行こうか倉橋」
健と陽菜乃は後部車輌の自販機へと移動した。
● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎
「う~ん、どうも昔からじゃんけんって弱いんだよね~。なんか必勝法とかあるのかな~?」
自分用のミルクティーを買った陽菜乃が首を傾げていた。
「さ…、さぁ、雪は確率論でいつも出す手を決めてるらしいけど」
健も自分用のほうじ茶を買った。
「あ、つーちゃんと同じだ。やっぱり仲いいね~」
「べ、別にこれは昔からの癖っていうか…、その…翼とはただの幼馴染なだけで……」
健は赤くした髪を掻きながら否定した。
「あ、次の駅に止まったね。早く戻らないとみっちゃんプンプンしちゃうよ」
飲み物を持って通路を行こうとした陽菜乃が、ふと後ろを振り返った。セミロングの髪がゆるくふわっとした。
「ひーちゃん」
「何?」
「旅行、楽しくなるといいね」
陽だまりのように暖かな笑顔に、健は髪と頬を赤くしながら、あることを言おうとした。
「ねぇ、陽菜乃…」
「ん?」
「旅行中、もしよかったら俺と二人で………」
「あ、殺せんせーだ」
「っ!?!」
「ぬるふふふ、青春ですねぇ~」
いつの間にか、殺せんせーが健の後ろに立っていた。しかも両手(触手)にはペンとメモ帳が握られていた。
「あれ、そういえば東京駅にいなかったよね?」
「いやぁ、エキナカスウィーツを選んでいたら乗りそびれてしまいましてね。さっきまで保護色で車体に張り付いて停車した隙に乗り込みました。」
「………ちなみにいつから?」
「君達が飲み物を買いに来た時にはもういましたよ」
緑の横縞模様になってぷーくすくすと笑う殺せんせー。どうやら、一連の様子は全て知られてしまったようだ。しかもメモまでされてしまった。
「まぁまぁ緋村君、旅の恥はなんとやら。多少の時間外の男女二人の抜け出し自由行動は黙に…」
ヒュンッ! ザシュッ
健は逆刃の小太刀を抜刀すると峰(刃部)に反し、殺せんせーの手帳を一刀両断し、さらに高速で何度も斬り刻んだ。
「そっすねぇ~、旅の恥は斬り捨てって言いますもんね~」
健は邪悪な赤黒に染まった髪と笑みを浮かべた。
「あはは、修学旅行、けっこう色々ありそうだね~」
そんな様子を笑う陽菜乃。
この時、健も、陽菜乃も、班の誰も、殺せんせーでさえ、あんな事態になるとは予想していなかった。
ちなみにE組の車輌に戻ると・・・・・
「ンフフフ」
「んぁ…、ぇ…、ふぇえはん…」
ビッチ先生と萌がトッポを両端から咥えてどっちが先に唇を離すかというゲームをしていた。
陽菜乃の弱点①
【じゃんけんの初手で高確率でピース(チョキ)を出す】
⇒小さい頃見ていた日曜朝八時半のアニメの影響
今回の技
龍乱閃・咬(ガラミ) (原作の龍巣閃・咬)